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2013-03-17(Sun) [長年日記]

_ 『世紀の空売り』マイケル・ルイス

世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)(マイケル ルイス/Michael Lewis/東江 一紀)

2008年に起きたリーマン・ショックの引き金になったものは、サブプライム・ローンの連鎖的な焦げ付きだった。「サブプライム」=「優良(プライム層)よりも低い層」という名が示す通り、サブプライム・ローンは信用度が低い客にほぼ無審査で貸し付けられた住宅ローンである。本来であれば、低い評価しか与えられないはずのサブプライムローンだが、金融機関は他の債券と組み合わせ、モーゲージ債という別の債券へ仕立て上げて、世界中に売りさばいたのだ。

信用度が高いと評価された化粧済みサブプライム・ローンが大々的に売り買いされる中、その正体に気付いた男たちがいた。孤高の義眼の医師、モラルハザードを起こした金融機関を憎悪するヘッジファンド・マネージャー、そして知識のない債券市場に殴り込んだ若者2人組である。本書は、モーゲージ債の大暴落に賭けた彼らの姿を活写したノンフィクションである。

面白いという評判は聞いていたのだが、新刊で出た頃は金融に興味がなくスルーしてしまった。今回文庫版が出たということで手にとった次第。

投資はしているものの、インデックスファンドへの積立と個人向け国債の購入くらいしか行なっていないため、金融知識、特に本書で描かれる債券市場についてはほとんど知識ゼロなのだが、それでも非常に楽しめた。

一般庶民の年収の何十倍という額を1年で稼ぎながら、それでいて貧困層からさえ金を搾り取ることに何の良心の痛みも感じない金融機関の人間たちを、主人公たちが出し抜く様は痛快だ。なにかと話題になる格付け会社が、実は審査などしていなかったという実態や、さらには金融機関が自分たちの作り出したモーゲージ債の危険性にまるで気付いていなかった事実には衝撃を受ける。

しかし、一方で著者と同様に釈然としないものを感じてしまうのが、賭けに勝った主人公たちだけではなく、賭けに負けたはずの金融機関の人間たちもが大金を手にして舞台を去っていることだ。

折りしも、NYダウは過去最高値を更新し、日本の株式市場もリーマン・ショック前の水準を回復しつつある。だが、金融知識がない人に対して、高いリターンを謳い、高コストの投資信託や安定しているとはいえない新興国国債を積極的に勧める金融機関が溢れている日本の現状を見るだけでも、リーマン・ショックの反省があるとは思えない。また同じことが繰り返されるのではないか。そして、そのツケを受けるのは一般庶民ではないか。そんな危惧を抱いてしまう。

Tags: 書評