«前の日記(2012-08-26(Sun)) 最新 次の日記(2012-10-27(Sat))» 編集

[email protected]



2012-10-11(Thu) [長年日記]

_ 『毒の目覚め』(S・J・ボルトン著)

毒の目覚め 上 (創元推理文庫)(S・J・ボルトン/法村 里絵)

毒の目覚め 下 (創元推理文庫)(S・J・ボルトン/法村 里絵)

本が好き!から献本いただきました。ありがとうございます。

処女作『三つの秘文字』で新人とは思えない力量を見せたS・J・ボルトンの第2作が本書。デビュー作と同じくノンシリーズもの。

プロローグが暗くて、「これは気が重くなりそうだなぁ」なんて思いながら読みはじめたら、存外に面白くて一気読み。これはなかなかの逸品です。

舞台は英国の片田舎の村。その夏、村では蛇が異常発生し、老人が咬まれ死亡するという事件が起きていた。獣医クララは死亡した老人の体内から本来の蛇の何倍もの濃度の毒が検出されたことに不信を抱く。さらにイギリスには棲息しないはずの亜熱帯の世界最強の毒を持つ蛇、タイパンまで現われる。村を徘徊する8ヶ月も前に病死した老人の幽霊は事件と関係あるのか。クララは謎に挑むが……。

というのが簡単なあらすじ。

『三つの秘文字』も読んだのだが(こちらも本が好き!からの献本でした。てへ)、一読しての第一印象は「おお、ずいぶん上手くなったなー」というもの。

『三つの秘文字』はとても面白く読んだのだけれども、スケールが大きすぎる点や、ミステリにしてはロジカルな着地点が提示されてない点が少々不満だった。本作ではこの弱点がないとはいえないにしろ、かなり抑えられていて、とても良い作品に仕上がっている。

前作でも見られたロマンス要素はあいかわらずなので(2人の男性の間でゆれ動く女心!)、そこらへんを期待する女子へのサービス精神も満点(なはず)。

しかし、なんといっても際立って素晴しく、特筆したいのは主人公である獣医クララ・ベニングのキャラクター造型だ。

桁外れといっていいほど、人と関わることを避けているクララに、当初は単なる変人かと思ってしまうが、ストーリーが進むにつれ、そうではないことが分かってくる。クララが抱えるものが明らかになった時、彼女のこれまでの人生を思い、読み手は思わず息の呑んでしまうだろう。

事件に巻き込まれるとともに、クララは今まで避けていた自分と向き合うことになる。本作はミステリと同時に、一人の女性の覚醒の物語でもあるのだ。

終盤、ある老女が彼女に問い掛けと、それに対してクララが返す言葉が強く印象に残った。

しかし、『毒の目覚め』って変なタイトルだよなー、いっそ、原題AWAKENINGにあわせて『覚醒』とかでもいい気がするけど、などと思ったのだが、いまいち雰囲気にあっていないかもしれない。なかなか日本語はひとつの単語だとピシッとしまらない感じがあるし、翻訳もののタイトルは難しいなぁ。

Tags: 書評