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2012-05-06(Sun) [長年日記]

_ 専門家ではない我々はどう「真実」を見極めるべきか──『世界を騙しつづける科学者たち』(ナオミ・オレスケス/エリック・M. コンウェイ)

世界を騙しつづける科学者たち〈上〉(ナオミ オレスケス/エリック・M. コンウェイ/Naomi Oreskes/Erik M. Conway/福岡 洋一) 世界を騙しつづける科学者たち〈下〉(ナオミ オレスケス/エリック・M. コンウェイ/Naomi Oreskes/Erik M. Conway/福岡 洋一)

原発事故以来、「御用学者」という言葉が一気に広まった。

正直なところ、誰にでも「御用学者」というレッテル貼る風潮の裏には、排斥主義が透けて見えてどうも苦手なのだが、それはそれとしてアメリカには「御用学者」と呼ぶしかない科学者たちがいるそうだ。

本書はそんな科学者たちを実名を挙げて告発した書である。

煙草による肺癌の誘発、酸性雨の原因は工場や自動車の排気ガス、フロンガスによるオゾン層破壊、煙草の副流煙被害、CO2増加による地球温暖化、DDTの環境への悪影響。今ではたいていの人が常識として考えている事柄は混乱させられたり、事実を歪められたり、公表を遅らせられたりといった歴史を経てきた。

そんな「妨害工作」を主導したの業界と利害関係のある科学者たちだった。驚いてしまうのは、上記の全てに嘴を突っ込んでいる科学者たちがいるということだ。

元々、彼らは仮想的国だったソ連の脅威を訴えて、スペースオペラばりで実現の可能性が低いと評価されていた戦略防衛構想(SDI)の促進を主張した人々だった。しかし、専門は物理学やロケットなど。環境問題とは縁もゆかりもないのである。そんな専門家ではない人々がSDI促進で得た肩書を武器に強い影響力を行使してきた。

彼らの採った戦術の中でも、思わず「さすがに頭がいいなぁ」と感心してしまったものに「マスコミに両論併記をさせる」というものがある。

業界にとって都合が悪い事実がマスコミに取り上げられる際、反対意見も書かなければバランスが取れていないと訴えるのだ。マスコミはバランスという言葉に弱い。そのため、肯定派、賛成派、どちらの意見も取り上げることになるのだが、記事を読んだ人々は「なるほど。反対意見もあるんだな」と思ってしまうという寸法だ。

業界の御用学者となった科学者たちだが、一般に思いつくような金銭的な理由だけで手先になった訳ではない(もちろん、皆無ではないだろう)。

冷戦時代のまっただ中で子供時代を過ごした彼らには「資本主義=自由・社会主義=悪」という考えが刷り込まれた。彼らにとって、環境問題を理由に資本主義活動を制限するという行為は社会主義、つまり、「自由を侵害する悪」ということに他ならないのである──と著者たちは主張する。まぁ、ここらへんはもちろん本人たちに訊いた訳ではないので想像の域を出ないのだが。

では、専門家ではない我々はどうやって、正しいであろう真実を見分ければいいのだろうか。

著者たちが述べるのは、ピュアレビューの大切さである。科学的な着想には証拠による裏付けが必要だ。着想と証拠は、その分野の専門家たちによって審査される必要がある。これがピュアレビューだ。ピュアレビューによって認められた着想のみが事実として認定される。

先に挙げた数々の環境問題はピュアレビューを経ている。一方で反対する意見はどんなピュアレビューも通過していない。どちらを正しいものと捉えるかどうかは自ずと明らかだろう。

しかし、我々には「信じたいものを信じる」という根本的な問題がある。煙草を吸いたいばかりに煙草の害を否定し、原発を否定したいあまりにCO2による地球温暖化を間違っていると決め付ける──。例を挙げれば、枚挙に暇がない。そういった心とどう折り合いをつけるかがこれからの課題だ。

Tags: 書評