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2012-04-22(Sun) [長年日記]

_ 世代を超えてぐっときてしまう一冊──『怪物はささやく』(パトリック・ネス著/ジム・ケイ画)

怪物はささやく(パトリック ネス/ジム ケイ/池田 真紀子)

この手の話に弱いんだよなー、ホント。

イギリスのヤングアダルト向けの物語だが、世代を超えてぐっときてしまう一冊。

主人公は13歳の少年、コナー。去年の春に二人暮らしの母親が重い病気にかかっていることが分かり、その事実は学校中に広まった。同級生も教師も「お母さんが病気のかわいそうな子」としてコナーをまるで腫れ物に触れるように扱う。

いじめっこグループに目をつけられ、さんざん嫌がらせをされるが、同級生は誰もコナーとかかわろうとしない。ただひとり、近所の幼馴染リリーを除いては。しかし、リリーは母の病気を学校中が知ることになった端緒だった。コナーが心を開ける訳もない。

コナーが小さい頃に母と離婚して、遠くアメリカで再婚している父親は時折電話をかけてくるだけ。母方の祖母とも気が合わず、コナーはひとり孤独の中にいた。

そんなある夜、自宅から見える丘のイチイの大木が怪物となってコナーを訪れる。怪物は告げる。「おまえに三つの物語を話して聞かせる」「わたしが三つの物語を語り終えたら、今度はおまえが四つめの物語をわたしに話すのだ」と……。

死の影に覆われたストーリーはお世辞にも明るい話とはいえない。たぶん、日本では推薦図書の類いには選ばれないだろうなーなんてことも思う。

しかし、本書は人生で乗り越えなければいけないもの、大切にすべきものを伝えてくる。読み手の心に染み込み、長く──もしかしたら、ずっと──残るだけのなにかを残すのは、このような物語ではないだろうか。

挿絵の素晴さも特筆もの。影と闇を強調したタッチは一見ホラー調だが、物語に寄り添い、イメージを押し広げる。

上からの目線ではなく、読み手と同じ目線の高さで人生のなにごとかを教えてくれる──。本当の意味でのヤングアダルト作品のありかたを再認識させられた。

Tags: 書評