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2012-03-18(Sun) [長年日記]

_ 『警官の条件』(佐々木譲)

警官の条件(佐々木 譲)

三代に渡る警官の血脈を描いた大河小説『警官の血』(書評はこちら)の続編である。

小説新潮に連載されていたらしいのだが、普段、雑誌はほとんど読まないので、続編が書かれていることも知らず、単行本が出た時には驚いた。いや、だって、『警官の血』はきれいに完結していたので付け加えることなんてないと思っていたし。

なんにせよ、『警官の血』は個人的に日本警察小説界のひとつの頂点だと思っていたので、本書を読まない訳にはいかない。そんな訳で手に取った本書だが、読み終えての感想は「うーん」である。

いや、面白くない訳ではないのだ。というか、面白い! それは断言できるのだが……やっぱり、「うーん」なのである。

あれこれ言う前に、まずはあらすじをざっと紹介。

ストーリーは『警官の血』でも印象に残るシーンのひとつ、加賀谷警部の逮捕シーンからはじまる。加賀谷は第三部の主人公、安城和也が部下となって密かに内偵していた汚職刑事である。加賀谷が麻薬を使用していることを確信した和也は監察に加賀谷を告発したのだ。

以上が『警官の血』のエピソードなのだが、本書でいきなりそのストーリーが崩される。なんと、加賀谷は麻薬を使用していなかったというのだ。加賀谷は警察上層部から押し付けられた無理難題をどうにか解決するため、麻薬を売って資金を作ろうとしていたという裏話も明かされる(警官が麻薬を売るというだけで言語道断な話ではあるのだが)。ぎりぎりグレーゾーン踏み止まった加賀谷だが、その前には罠が。

時が経ち、警部となった和也は組織犯罪対策部第一課の班を率いることになる。和也が抜擢された理由は、弱体化しつつあることが認識されていた組織犯罪対策部の梃入れのためだった。一方で上層部や部内では加賀谷の捜査方法を懐しむ声が囁かれはじめる……。

『警官の血』は三代三部だったに対して、本書は三部の和也のストーリーのみで展開していく。

さて、冒頭の「うーん」なのだが、小説としての完成度は高いのだ。

組織としての警察はもちろんのこと、組織犯罪というダークなものと戦うがゆえにグレーゾーンに踏み込まざるをえない捜査方法の難しさもとてもうまく描いている。500ページを超える厚さながら、長さを感じさせないストーリーテリングの妙も、さすがはベテランだなーと感じさせる。

ただ、やはり、気になるのが加賀谷だ。『警官の血』では、ミイラ採りがミイラになった、もしくは、ジェダイの騎士だったはずがダークサイドに踏み込んでしまったという扱いだった加賀谷が本書ではガラッと変わってしまう。

ここは加賀谷のモデルとなった稲葉元警部が、実は警察という組織に翻弄されたという実態が分かったことも影響しているのかもしれない。

中年の魅力たっぷりに描かれる加賀谷に対して、和也の情けないこと。かなり間抜けな感じで、人間的に『警官の血』よりも後退しているように感じられる。「そんなことじゃ、じいちゃんととうちゃんが泣くぞ」と叱咤したくなってしまう。

『警官の血』の続編でなければよかったのにと、つい思ってしまう一冊だ。

Tags: 書評
本日のツッコミ(全1件) [ツッコミを入れる]
_ 池渕哲朗 (2015-06-29(Mon) 18:01)

「警官の血」の上巻は素晴らしい出来で、下巻を読みましたが、残念ながら期待外れで、加賀谷の人物の奇想天外さには驚きました。いくら友軍といえど刑事がベンツを乗り回したり、若い女性を誑し込んだりして、刑事の仕事がまともに勤まるはずはありません。作者はなぜ下巻にこんなくだらない話を軸にして、下巻まで話を伸ばしたのでしょうか。いくらなんでも早瀬を最後まで糾弾せずの戦争と組織維持のために無罪放免にしたのは、胸糞の悪い話ですな。私は段階世代ですが、学生紛争を経験しており <br>ます。作者は本当に学生紛争の実態を知っているのか疑問ですわ。