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2012-03-01(Thu) [長年日記]

_ 『CIA秘録―その誕生から今日まで』(ティム・ワイナー)

CIA秘録〈上〉―その誕生から今日まで (文春文庫)(ティム ワイナー/Tim Weiner/藤田 博司/山田 侑平/佐藤 信行)

CIA秘録〈下〉―その誕生から今日まで (文春文庫)(ティム ワイナー/Tim Weiner/藤田 博司/山田 侑平/佐藤 信行)

ニューヨーク・タイムズの記者がCIAの誕生からクリントン・ブッシュ政権までの活動を丹念に描いたノンフィクション。単行本が出た時はスルーしてしまったのだが、先日、文庫版が出たので読んでみた。

CIAにかぎらず、諜報組織を扱ったものは対象が秘密主義のカタマリであるがゆえに、ソースのはっきりしない話が書いてあることがままある訳だが、本書のすごいところは、書いてあることの情報源がすべて明記されていること。170ページに渡るソースノートの存在感は圧倒的だ。

映画や小説、アニメなどのフィクションに登場するCIAといえば、敵であれ味方であれ、巨大な組織力を誇る諜報のプロフェッショナル集団というのが大方の描き方だ。しかし、本書に描かれるCIAはそんなイメージとは180度違う存在になっている。

たとえば、冷戦時代、CIAはスパイネットワークを作るため、多数の工作員をソ連や中国などの共産圏にパラシュート降下させた。しかし、彼らにはロクな情報が渡されていなかった。それどころか、作戦自体が漏洩していて、ほぼ全員が戻って来なかったという。

また、中南米に親米政権を樹立するため、数え切れないほどの秘密作戦を行なっているが、その内実といえば、テキトーとしか表しようのない杜撰なものばかり。現地の工作員の思い付きで始められたなどという唖然としてしまうようなものまである始末だ。

時代を下れば、ソ連崩壊を予見できず、911テロの兆候を事前に掴んでいたにもかかわらずホワイトハウスに重大性を認識させることができず、イラク戦争の開戦理由となったイラクの大量兵器保有がまったくの間違いだったなど、その失敗は枚挙にいとまがない。あのブッシュ大統領をして「あてずっぽうを言っているだけだ」と言わしめたというエピソードには苦笑することさえできない。

著者はCIAだけでなく、それを取り巻く、アメリカの暗部にも切り込んでいる。

ケネディ大統領といえば、平和主義者というイメージがかなり流布しているのではないかと思う。去年、NHK「BS世界のドキュメンタリー」で放送された「バーチャルJFK」では、ケネディの平和主義者としての面が強調されていて、もしケネディが暗殺されなかったらヴェトナム戦争も起きなかったのではないかと示唆されていた。

だが、本書に描かれるケネディは、カストロを親の仇のように敵視して暗殺を何度も指示し、キューバ危機の際も最後まで強行な姿勢を崩さなかったという平和主義者とはまったく違う姿だ。陰謀論者が大好きなケネディ暗殺についても、カストロによる報復という面に突っ込んで書かれているので、そちらに興味がある向きもぜひ一読を。

その他、自民党とCIAの関係に一章が割かれていたり、ウォーターゲート事件の真相がソースノートに書かれていたりと隅から隅まで非常に刺激を受ける本になっている。

ただ、テーマがテーマだけに気軽に読める内容ではない感は否めない。下巻につけられた日本語版独自の「編集部による解説」が本書の内容を端的にまとめているので、まず、そちらで読みどころを知ってから本文に挑戦することをオススメしたい。

本書には莫大な予算を湯水のように使い、法と人命を軽視し、まるでゲームのように陰謀を企みながらも、結局、成功した作戦は数えるほどで失敗したものは数えきれないという、なんとも情けないCIAの姿が描かれているのだが、気になるのは「その後」だ。

2011年5月には10年間に渡って追い続けたビンラディンの居場所を突き止め、遂に暗殺に成功した訳だが、オバマ政権となってCIAは変わったのだろうか。

Tags: 書評