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2012-02-29(Wed) [長年日記]

_ 『最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件』(ケイト・サマースケイル)

最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件(ケイト・サマースケイル/Kate Summerscale/日暮 雅通)

1860年にイギリスで実際に起きた殺人事件を描いた長編ノンフィクション。

事件が起きたのは、のどかな村の屋敷。厳重に戸締りされた屋敷から3歳の男児、サヴィル・ケントがいつの間にか姿を消し、死体となって発見される。犯人は家族なのか、それとも使用人なのか──典型的なヴィクトリア朝イギリスの中流家庭であったケント家の複雑な家庭事情も絡み、事件は様々な憶測を呼ぶ。

混迷を深める事件を解決するため、ロンドンより派遣されてきたのが、本書の主人公というべきウィッチャー警部。ウィッチャーはスコットランドヤードに刑事課が創設された際に採用された8人の最初の刑事のひとりだった。

綿密な捜査と推理を重ね、早々と犯人とおぼしき人物に目星をつけたウィッチャーだが、当時の閉鎖的なモラルと階級差別が立ち塞がる。労働者階級に過ぎない刑事が中流家庭に入り込み人間関係を探り出すことに世間の強い反発が巻き起こるのだ。

一方で、世間はケント家に好奇の視線を向け、真犯人探しの推理を巡らすことに熱中する。イギリス全土に探偵熱が吹き荒れるのである。探偵熱は探偵小説というジャンルを生むことになる──。

著者は探偵小説の枠組みを使って事件を丹念に再構築していく。150年以上前の出来事をまるでごく最近のように感じさせる筆致は、ノンフィクション特有の硬さを感じさせず、それこそ探偵小説を読むかのようにするするページを進めさせる。

特に面白く感じたのは事件の「その後」。事件に関わった人々がどのような人生を辿ったのか。数奇な運命には歴史の奇妙さを感じさせる。

探偵小説と歴史ノンフィクションの面白さと同時に味わえるお得な一冊だ。

Tags: 書評