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2012-01-13(Fri) [長年日記]

_ 『刑務所図書館の人びと』──ボストンの刑務所で司書を勤めた著者が図書室で繰り広げられる人生模様を軸に、刑務所という別世界と自身の人生を描いた一冊

刑務所図書館の人びと―ハーバードを出て司書になった男の日記(アヴィ スタインバーグ/Avi Steinberg/金原 瑞人/野沢 佳織)

本好きにとって図書館というものは、楽園のひとつだ。一生かかっても読み切れないほどの本に囲まれて心踊らない本好きがいるだろうか。

しかし、本好きにとっての楽園は、楽園という言葉とは正反対な場所にもある。それが本書の舞台になっている刑務所内の図書室だ。

本書はボストンの刑務所で司書を勤めた著者が図書室で繰り広げられる人生模様を軸に、刑務所という別世界と自身の人生を描いた一冊。

図書室の利用者といっても、本を実際に読むために訪れる受刑者はごく僅かだ。

ある者は喧嘩をするために、ある者は刑務所内の闇市場で売れる雑誌や備品などを盗むために、ある者は他の受刑者への「凧」と呼ばれる手紙を本に挟むためにと、それぞれの理由で図書室を訪れる。いきおい図書室という名から想像されるものとは掛け離れた「禁酒法時代のもぐり酒場みたいな雰囲気」となってしまう。

図書室で著者は個性溢れる受刑者たちに出会う。

法律に異様に詳しいキリスト教とイスラム教を行ったり来たりする男、料理番組のホストになることを夢見てレシピを作りまくる若者、回顧録を執筆する元ぽん引き──。

受刑者たちの中でも特に印象に残るのは著者が受け持った創作クラスの生徒、ジェシカだ(ちなみに、この創作クラスで書かれるエッセイはどれも素晴しい)。

クラスに出席しながらも、ずっと窓外を眺め続けるジェシカ。彼女の視線の先にはバスケットボールに興じるある受刑者の姿があった。若者は幼い頃に彼女が捨てた実の息子だったのだ……。

受刑者たちの姿とともに、敬虔なユダヤ教徒として育ち、ハーバード大学を卒業しながらも、ユダヤ教からもエリートコースからもドロップアウトした著者のバックグラウンドが語られる。

一見親しげに見えても、実は凶悪な犯罪を犯した過去を持つような受刑者たちとの距離の取り方に著者は終始戸惑う。そのせいだろうか、著者の態度が曖昧でなんだかぼやけて見えてしまうところもあった。

そんな不満のような感想も持った本書だが、偶然出会った元受刑者が言う「この世では、すべてに答えが出せなくてもかまわないってことさ」という言葉が胸に響いた。

Tags: 書評