ぽっぺん日記@karashi.org
2012-01-12(Thu) [長年日記]
_ [書評]『雪男は向こうからやって来た』──雪男に魅せられた人々を鮮やかに活写するノンフィクション
チベット奥地のツァンポー峡谷単独踏破を記録した処女作『空白の5マイル』(書評はこちら)で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞をトリプル受賞した著者の第二作が本書。今度はなんと雪男探索行である。
といっても本書のテーマは雪男そのものではない。雪男に魅せられた人々を鮮やかに活写する一冊だ。
UMA(未確認生物)探索行といえば、著者が所属した早大探検部の先輩にして『幻獣ムベンベを追え』を上梓したノンフィクション作家、高野秀行という先人がいる訳だが、著者の雪男に対する態度は極めてクールだ。
雪男など、申し訳ないが、これまで生きてきて気になったことなど一度もなかった。
UMA探しに夢中になる探検部の仲間についても
ちょっとどうかしているんじゃないかと思っていた。
と正直な気持ちを吐露している。
そんな著者が世話になった人の頼みを断りきれず、2008年に行なわれたヒマラヤ雪男捜索隊に加わることになる。
捜索隊を率いるのは今度で雪男捜索が3度目になる65歳になるベテラン登山家。彼の話から著者は芳野満彦や田部井淳子、小西浩文といった著名な日本人登山家が雪男を目撃していたことを知る。
著者は実際に田部井や小西から雪男の目撃談を聞き、さらにヒマラヤ雪男伝説の歴史を紐解いていく訳だが、そんな中でも白眉なのは、かつてフィリピンで残留日本軍兵だった小野田寛郎少尉を発見した冒険家鈴木紀夫のエピソードだろう。
鈴木は5度もの雪男探索行を実施し、最後になる5度目の探索で雪崩に巻き込まれ命を失うという、まさに雪男の魔力に取り憑かれた人だった。
鈴木の足跡を追うように、著者はジャングルを越え、氷河を渡り、ヒマラヤ奥地へ達する。
最後まで雪男という存在には懐疑的な著者だが、いつしか雪男という存在を目撃したがゆえに人生の向きを変えられてしまった人々への強い共感を覚えていく。
捜索隊撤退後、単独で鈴木が亡くなった場所を訪れた著者が鈴木が見た風景に思いを馳せるラストには胸が熱くなった。
傑作である。
