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2011-12-28(Wed) [長年日記]
_ [書評]『アイルランド・ストーリーズ』──アイルランドを舞台にした短編12篇を収めた一冊。ここに短編小説の精髄が詰まっている
ウィリアム・トレヴァーの日本オリジナル短編集。
「珠玉」というのは些か手垢の付いた表現だと思うが、それ以外に表現のしようのない一冊だ。
1940年代から2000年代のアイルランドを舞台に、罪ともいえないような些細な罪から事件に巻き込まれる青年、牧草地のために奉公に向かうことになる娘、夫と妻の不倫相手との対話、帰郷した娘の変わりように動揺する牧師、作曲家を夢見る下着訪問販売の青年など、市井の人々の悲喜交々を描いた12篇が収められている。
どの短編の結末も苦い。しかし、それは人生の苦味というべきもので味わい深さを持つ。卑近かつアイルランドとはまったく関係ない例で申し訳ないが、本書を読みながら、秋刀魚の肝の味を思い出した。秋刀魚の肝は苦い。しかし、身と同時に肝を味わってこそ、秋刀魚を食べたといえるのだ。
すべての作品を連ぬく大きなテーマになっているのは、カソリックとプロテスタントの対立に端を発するアイルランド紛争だ。長く続いた争いが、いかにアイルランド人の心に大きな影を落としたかを知ることができる。
本書には短編小説の精髄が詰まっている。強くオススメしたい。
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