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2011-12-27(Tue) [長年日記]

_ 『エージェント6』──愛する家族のために命を掛ける男の姿を通して、イデオロギーという欺瞞とソ連崩壊への軌跡を描く大河小説

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)(トム・ロブ スミス/Tom Rob Smith/田口 俊樹) エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)(トム・ロブ スミス/Tom Rob Smith/田口 俊樹)

〈レオ・デミドフ〉シリーズ第三弾。

第一作で殺人が存在しないとされる体制での連続殺人鬼を、第二作では疑問を感じながらも無辜の人々を収容所へ送ってきたレオの贖罪を描いたトム・ロブ・スミスが、本作で問うのはイデオロギーという欺瞞だ。

物語は時代を遡った1950年からはじまる。共産主義者のアメリカ人黒人歌手のソ連表敬訪問を背景に、レオとライーサ夫妻の出会いが語られる。

時代は下り、1965年。キューバ危機で緊張関係となった米ソ関係を改善すべく、ソ連から少年少女合唱団がアメリカを訪れることになる。団長は教育界で名を成したライーサ。捜査官を辞めたレオは激しい不安を抱くが、レオの渡米を認められず、ライーサと二人の娘はニューヨークへ向かう。そして、彼の地では陰謀が蠢動していた……。

シリーズを通して、イデオロギーを信じない者を破滅させる国家というものが描かれてきた。前二作では、それはソ連だったが、本作では冷酷なFBI捜査官に仮託して、冷戦の相手国でもあったアメリカもまた同じ貌を持つということを喝破する。

愛する家族のために命を掛け、遂にはアフガニスタンまで至るレオの歩みは、イデオロギーを第一とする体制への強烈なアンチテーゼと言えるだろう。レオの軌跡はまたソ連崩壊への軌跡とも重なっていく。

大河小説といっていい重厚さを持った作品である。冒険小説好きには強く強くオススメしたい。

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