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2011-12-23(Fri) [長年日記]

_ 『空の都の神々は』──世界観が独特のファンタジー。危険な男(?)とのロマンスがあるので女子向きかも

空の都の神々は (ハヤカワ文庫FT)(N・K・ジェミシン/佐田 千織)

ひさしぶりの海外ファンタジー。

邦題はなかなかキャッチーだが、原題は"THE HUNDRED THOUSAND KINGDOMS"と、ちょっと平凡だったりする。原題の通り「十万王国」と呼ばれる世界を舞台にした、一風変わった設定の物語だ。

遥か昔、光と闇と黄昏の三柱の神たちの戦いがあった。勝利したのは光の神イテンパス。黄昏の女神エネファは殺され、闇の神ナハドとその子供たちは、イテンパスに仕えた人間の一族アラメリに奴隷として下された。アラメリは神々を「兵器」として使い、世界を統一。スカイと呼ばれる空中都市から支配するようになる。

そして現在。アラメリを出奔した女性を母に持ち、小国ダールの首長を勤めていた19歳のイェイナが突如、アラメリの長であり祖父でもあるデカルタより呼び出され、スカイに赴くことになる。イェイナを待っていたのは、デカルタの跡を襲う後継者争いに加わるようにとの命だった。富も力もなく、アラメリの後継者になることにも興味がないイェイナだが、彼女には秘められた目的があった……。

というのが冒頭。アラメリ一族から野蛮人と思われている出自のイェイナが神々をはじめとする味方を増やしながら、徐々に自身と世界の秘密を明らかにしていくという展開になっていく。

特筆したいのは世界観の独特さ。争いに敗れた神々を人間たちが使役しているというのは、これまでには見られなかった設定だ。この設定を生み出しただけで、この作品の価値はあったといってしまったも過言ではない。

SF作品も手掛ける作者らしく、ファンタジー要素の中にSF要素が見られるのが特徴。たとえば、闇の神ナハドがブラックホールを創り出したりといった具合で、SF者にはなかなか嬉しかったりする。

ただ、イェイナとナハド(闇の神だから危険な男なのだ)のロマンスが物語の大きな要素を占めているのは読み手を選ぶところだ。個人的には「なんだかハーレークインみたいだなぁ」という感じで、あまり好みではなかった。ここらへんは女子好みかもしれない。

もうひとつの不満点は、物語がイェイナの一人称で、ほぼスカイだけで展開すること。世界観が魅力的なだけに、もっと支配階級ではない、普通に生きる人々の姿を読みたかった気がする。

ちなみに世界観については、本文の前に巻末の付録を読んでおいた方がよりよく理解できるのではないかと思う。

本書は3部作のオープニングとのこと。本国アメリカで刊行された第2部では、本書の「その後」が描かれ、主人公もどうやら市井の人間になるそうだ。邦訳作品が出版される日を楽しみにしておきたい。

Tags: 書評