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2011-10-23(Sun) [長年日記]

_ 1936年のイタリア北部の田舎町を舞台に、老女の死からドミノ倒しのように繰り広げられる人生模様を描いた傑作小説──書評『オリーブも含めて』

オリーブも含めて(アンドレア・ヴィターリ/久保 耕司)

本が好き!』から献本していただきました。

たぶん、人生初のイタリア小説だと思うのだが、むちゃくちゃ面白く522頁を一気読み。読後感が心地良く、ひさしぶりに良い小説を読んだなーと思わせてくれた一冊だった。イタリアでベストセラーになったというのも納得のデキ。

舞台は1936年のイタリア北部コモ湖畔にある風光明媚な田舎町ベッラーノ。老女が自分のベッドで死んでいるのが発見されるところから物語は幕を開ける。といっても、老女の年齢は93歳。特に事件性もなく、死因は老衰と思われたのだが、老女の死はベッラーノの住民に思わぬ波紋を投げかけていく。

老女の遺体を発見した同じアパートに住む夫婦からはじまり、ベッラーノの主任司祭、鳩に悩まされる娼婦、悪戯をやめない不良グループ4人組、彼らに目をつけているカラビニエーリ(憲兵)准尉、妻の奇行に悩む行政長官、その妻が亡くなった姉と信じる女占い師、息子の非行に悩む雑貨店の店主、そして猫たちと、数頁ごとに場面と登場人物が数頁ごとにくるくると変化する。本書の帯はその様子をジェットコースターにたとえているが、個人的にはドミノ倒しのドミノがぱたぱたと倒れていく様を思い起こした。

数え切れないほどの登場人物がどんどんと現われる本書だが、それぞれがキャラ立ちしているため混乱することはない(イタリア人名には、ちょっと混乱するかもしれないけど)。だが、主人公と呼べるキャラクタがいないのが面白いところだ。カラビニエーリのマッカド准尉が目立つが、主人公といえるほどではない。物語を編んでいる登場人物全員が主人公といってしまっていいだろう。

1936年という時代は端的にいって暗い時代だ。イタリアは、ファシズムの語源になったムッソリーニ率いるファシスト党に牛耳られており、翌年にはエチオピア侵攻を開始している。スペイン内戦も始まっている。特にスペイン内戦は、本書でも重要なピースになっている。そんな時代であるが、作者は筆は決して暗くなく、登場人物たちの人生模様をユーモア漂う筆致で描いている。

本書を読んで、昔観たイタリア映画の数々を思い出した。地中海らしく、どの映画も乾いた空気を伝えてきたが、そこには本書のようなユーモアがあった。悲喜交々も含めて人生を楽しむ──。これこそイタリア人気質というものなのかもしれない。

ちなみにベッラーノは実在の土地で、作者アンドレア・ヴィターリの生まれ故郷とのこと。ヴィターリはベッラーノを舞台にした小説を20冊以上、上梓しているそうだ。他の作品も読んでみたいところだ。

最後に奇妙なタイトル、『オリーブも含めて』について。意味が分かったときには思わず笑ってしまった。

不思議な味わいだが、抜群に面白い小説としてオススメしておきたい。いい本を読まさせてもらいました。

Tags: 書評