«前の日記(2011-10-01(Sat)) 最新 次の日記(2011-10-06(Thu))» 編集

[email protected]



2011-10-02(Sun) [長年日記]

_ 狙撃手たちへのインタビューを軸に、彼らの生の声と狙撃というスキルを知ることができる一冊──書評『スナイパー 現代戦争の鍵を握る者たち』

スナイパー---現代戦争の鍵を握る者たち(ハンス ハルバーシュタット/安原 和見)

これまで狙撃手に関する本を読んできたが、その中でも珍しい一冊。

というのも、本書が現役(もしくはついこないだまで現役だった)狙撃手たちへのインタビューを軸に、彼らの生の声と伝えているからだ。著者がインタビューをした狙撃手たちは30人。そのうち、13人の証言が収められている。

狙撃手といえば、これまでの戦争ではあくまでも補助的な戦力でしかなかった。米陸軍を例にとれば、主力はM1エイブラムスであり、AH64アパッチであり、その隙間を埋めるように歩兵があり、さらにその補助として狙撃手がいる、というような形だ。だからこそ、狙撃手はアウトローや暗殺者という捉え方がされてきた。

しかし、その図式は大きく変わった。経緯はイラク戦争だ。開戦当初は、開戦前の思惑通り、エイブラムスやアパッチがイラク陸軍をいとも簡単に粉砕した。だが、バグダットが陥落し、戦闘が市街で行なわれる不正規戦となると、米軍が主力と頼んだ戦車や戦闘ヘリは破壊力が大きすぎるがゆえに使えず、戦力のメインは歩兵へと移った。

そのような動きの中で、相対的に狙撃手の役割が重要性を帯びてくる。激戦で知られるファルージャの戦いでは、米軍総数のわずか1%にすぎない狙撃手が放った弾丸が敵の50%の命を奪ったという。

狙撃手たちの重要性をさらに押し上げたのが、米軍に対して猛威を奮った路肩や路上に仕掛けられたIED(即席爆弾)だ。自動車や自転車に乗った男(場合によっては女や子供)が夜中にIEDを仕掛けようとするのを効率よく阻止できるのは、敵の動きを観測し待ち伏せする狙撃チームしかないのだ。事実、本書の狙撃手の証言のほとんどは、IED埋設部隊との戦闘に関するものばかりといっても過言ではない。

意外だったのは、証言した狙撃手の誰ひとりとして、敵を殺したことによる心理的なダメージを負っていないということだ。

狙撃手たちはスコープを通して、標的が本当に敵かどうかの確認をできる。引金を引くのは標的に敵対的な意図があり、他者に対して被害を及ぼすのが明らかな場合のみなのだから、罪の意識も後悔の念も抱く必要はない。むしろ、自分たちが放った砲弾や爆弾が誰を殺すかが分からない戦車クルーやパイロットの方が不幸だという理論は、読んでみると明解だ。

本書の横軸として、狙撃手たちの訓練や狙撃術、ライフルそのものに関する解説が収められている。著者が「今日ほど狙撃手が必要とされる時代はかつてなかったが、狙撃手の能力がこれほど高まったのも史上初めてのことだ」と書いているように、こちらも非常に興味深い内容だ。

たとえば、弾道計算。距離や風力、気温、湿度といったものだけでなく、重力や弾丸が回転することによるコリオリ力、さらに超長距離射撃では地球自転によるコリオリさえ関係してくるという。

また、弾道には発射される弾丸も関係してくる。現在、米軍で使われているライフルで使用される弾丸は7.62mm NATO弾だが、弾道学的には旧式な.30-06弾よりも劣っており、狙撃手には評判がよくないという。現在は7.62mm NATO弾よりも大きな薬莢と重い弾頭をもつ弾丸への乗り換えが進んでいるそうである。

なお、超長距離射撃に使用されることもあるM107バレットライフルをはじめとする50口径ライフルの弾丸は、30年以上前に製造されたものがほとんどだそうだ。いかな物量を誇る米軍といえども、在庫の問題はあるようだ。

著者自身が元米軍兵士であるため、米軍サイドに立った記述が多いが、それだからこそ狙撃手たちが胸襟を開いたということもいえるだろう。現在の狙撃手と狙撃というスキルを知ることのできる貴重な書だ。

1、2枚であるが、射殺された遺体が修正なしで写してあるショッキングな写真も掲載されているので、その手のものが苦手な人は注意のこと。

Tags: 書評 軍事