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2011-09-25(Sun) [長年日記]

_ 旧海軍軍人たちの400時間に渡る証言が明らかにする海軍「失敗」の真実──書評『日本海軍400時間の証言』

日本海軍400時間の証言―軍令部・参謀たちが語った敗戦(NHKスペシャル取材班)

2009年に3回に渡って放送されたNHKスペシャル『日本海軍400時間の証言』は、昭和史や戦史に少しでも興味があるものであれば、釘付けになってしまう番組だった。なにしろ戦後、軍令部の中枢にいた参謀を含めた旧海軍軍人たちが密かに集まり、敗戦について忌憚のない意見を戦わせていた「反省会」の録音テープが見つかったというのだ。時期は1980年から1991年。分かっているだけでも131回、計400時間のテープである。

番組はテープと遺族や関係者への取材を基に「開戦」「特攻」「戦犯裁判」の3つの視点から軍人たちがなにを考え、どう行動したかの舞台裏に迫っている、まさに力作の名に相応しい内容だった。本書は番組の書籍化であるとともに、その取材の過程をつぶさに描き出している。番組未視聴者はもちろんのこと、視聴した人も新たな事実を知ることのできる一冊だ。

本書が明らかにしているものには驚くばかりだ。たとえば、海軍が開戦を決意した理由が、国家戦略に起因するのではなく、結局、陸軍に対する組織存続の危機感でしかなかったという事実。さらに開戦を促す報告書をまとめあげた「第一委員会」は、わずか4人の課長クラスの人間で構成されていたこと──しかも、それは予算獲得の見せかけだったというのだ。「軍人であっても、ヒト、モノ、カネを取れる人が出世する」という話には唖然としてしまう。太平洋戦争により日本人は310万人、アジア全域では1000万人以上が亡くなったとされている。それが出世競争の結果だとは……。

特攻も現場の強い意志があったからこそ実施されたという説を否定し、軍令部が指導したことを浮き彫りにしている。軍令部の中枢にいた軍人たちも、人命を誘導装置とした特攻には内心では反対だった。しかし、それを口に出せない空気が蔓延し、特攻が正当化されていってしまった。特攻で散った若者の数、約5000人。「空気」を読んだ人々の結果である。ちなみに特攻の命中率は、航空特攻11.6%、海中特攻「回天」2%であった。

戦犯裁判では、海軍トップから死刑となったものはひとりも出なかった。これが戦後、「陸軍=悪玉、海軍=善玉」というイメージを作り上げた大きな理由だが、そこには組織ぐるみで戦犯対策を練った旧海軍関係者たちの姿があったという事実も明らかにする。艦隊司令長官以上の海軍軍人に死刑をひとりも出さなかった代わりに、BC級戦犯として死刑に処された海軍関係者200人余。そこには「上を守るために下を切る」という方針があった。また、取材の過程で海軍によって行なわれた知られざる虐殺事件をも本書は浮き彫りにしている。背景には陸軍関係者からさえ「海軍は思い切ったことをする」といわれた人権意識のなさがあった。

毎年8月になると月刊誌は決まって終戦特集を組む。その号は30代以上の現役世代によく売れるそうだ。陸海軍と自分たちが属する企業を重ね合わせているからだろう。本書が描き出す「縦割りのセクショナリズム」「問題を隠蔽する体質」「ムードに流されて意見をいえない空気」「責任のあいまいさ」「組織の利益を優先し、個人の存在を軽視する」「最悪の事態を想定せず、楽観的な予想に基づき、作戦を立案する」という日本海軍の問題点は、そのまま現代の日本企業にも通じる。

本書の執筆者の半数は、30代半ばの私と同世代の人々だ。日本海軍の宿痾は今に引き継がれ、遂には原発事故へ繋がった。糾弾するのではなく、現代の我々の問題と捉える執筆者のスタンスこそ、今求められるものなのかもしれない。

Tags: 書評 軍事
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_ 平家の末裔 (2013-07-20(Sat) 09:45)

日本海軍の病巣こそ開戦の真実があると思います。