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2011-09-24(Sat) [長年日記]

_ アマゾンの密林に消えた探検家と伝説の黄金都市を追え!──書評『ロスト・シティZ』

ロスト・シティZ~探検史上、最大の謎を追え(【著】デイヴィッド・グラン/【訳】近藤 隆文)

去年出た本だが、1年以上積ん読にしてしまった。私的「積ん読撲滅キャンペーン」の一環として手に取ってみたら、存外に面白くて一気読み。今年読んだテンターテイメント・ノンフィクションの中でも、一、二を争う面白さだった。「もっと早く読めばよかった!」と心から思わせられた一冊だ。

1925年、一人の探検家がアマゾンの密林へと消えた。彼の名前はパーシー・ハリソン・フォーセット。アマゾン奥地に眠るといわれる伝説の黄金の都、エル・ドラード──フォーセットが「Z」と呼んだ都市を探すことを目的として、長男ジャックとその親友ローリーを連れた旅だった──。それから90年余、これまでに数々の探検家たちがフォーセットの行方と彼が探し求めたZを見つけるため、アマゾンの奥地に入り、少なくない数が戻らなかった。その人数は100人にも及ぶといわれている。

本書の著者、デイヴィッド・グランもそんなフォーセットの謎に魅せられた一人。著者はフォーセットのような冒険家タイプではまったくない。本人曰く「冒険家でも探検家でもない。登山もしなければ、狩りも」せず、「背は一七五センチに届かず、もうすぐ四〇歳で、胴まわりはふくらんで黒髪は薄くなりつつある」という、ごくごくありきたりな中年ライター。好きなものは新聞とテイクアウトフード、スポーツハイライトにエアコン全開。階段よりエレベータを迷わず使い、キャンプ経験もない、という冒険とは縁もゆかりもない生活を送ってきた典型的な都市生活者なのだ。

コナン・ドイルの『失われた世界』の調査を通じて、主人公のモデルともいわれるフォーセットを知った著者は、その足跡を追うべく、家族をニューヨークに置いて単身、旅に出る。フォーセットが所属した王立地理学協会の書庫やブラジル国立図書館で文献に当たり、探し出したフォーセットの親族からフォーセットの日記を見せてもらい、これまで知られていなかった事実を浮き彫りにしていく過程はとてもスリリングだ。そして、遂に広大なアマゾンのジャングルへと踏み込むことになる。

まさに「ミイラ採りがミイラになる」そのままの状況だが、著者自身が取材対象にのめり込んでしまうという現象は面白いエンタメノンフに欠かせない要素といえよう。著者の情熱が読み手に感染し、その渦に巻き込まれてしまう。

フォーセットはまさにヒーローの名に相応わしい人物だが、著者の筆致は過度に英雄視するのではなく、等身大のフォーセットを描き出している。強靭な意志と身体能力を持つ一方、フォーセットには弱い者には厳しいという一面もあった。探検行に同行した者がフォーセットの冷たさを呪っている例を本書でつぶさに見ることができる。また、心霊主義にハマり、Zへの思いも妄想じみたところまでいってしまった節も窺えるが、それは人種差別が当たり前であった時代において、インディオを劣った人種と見なさず、常に友好に接しようとしたフォーセットの信念と表裏一体だったものといえるかもしれない。本書から立ち上がってくるのは、まさに清濁あわせもった一人の人間としてのフォーセットの姿だ。

フォーセットと著者自身の歩みを交互に描くことにより、見事なストーリーテリングを発揮している著者だが、本書の特筆すべき点がそれだけではない。絶えず探検行に出掛けるフォーセットを極貧に苦しみながらも献身的に支えた妻ニーナ、フォーセットとともにジャングルへ消えた長男ジャック、フォーセットから弱い人間と見なされていた次男ブライアン(のちに彼もフォーセットと兄の行方を探すことになる)というフォーセット家の人々を描き出し、ひとつの家族記ともなっているのだ。

また、アマゾン制覇の名誉フォーセットと争ったライバルたちを描くことによって、ひとつのアマゾン探検史ともなっていることも付け加えておきたい。

先日読んだ探検記『空白の5マイル』とも重なるが、現代は探検という行為自体が難しい時代だ。本書でも著者がGoogle Earthでアマゾンの目的地を確認するシーンがあるように、誰でも宇宙から地球のほとんどの場所を見ることができてしまう。フォーセットのひ孫は言う──「当時はまだ世界に秘境を見つけに行くことができたでしょう。いまはどこへ行けばいいの?」。それでも人は冒険を求める。人類が存在するかぎり、冒険をやめることはないのではないか。そんなことを思わせられた書だ。

アマゾンの奥地へと旅立った著者は果たしてフォーセットの行方と、そして、伝説の都市「Z」を探し出すことができるのか。それは読んでからのお楽しみ。

すべての本好きに強くオススメできる一冊だ。ぜひぜひ。

ちなみに本書の映画権はブラッド・ピットが獲得したが、映画化の話は流れてしまったらしい。残念。

Tags: 書評