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2011-06-05(Sun) [長年日記]

_ 日本人冒険家が地球最後の秘境、ツアンポー大峡谷に挑んだ記録『空白の5マイル』を読んだ

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む(角幡 唯介)

『大冒険時代』を読んだ時、「もう地球上には人類未踏の地はないだろうなー」と思っていたのだが、実はあったらしい。それがチベット南東部のツアンポー峡谷の「空白の5マイル」だ。本書は、「空白の5マイル」に挑んだ日本人冒険家の体験記である。

本書は、2002年と2010年に著者が行なった単独行を柱として組み立てられている。冒険行の背景として、90年近くに渡ってツアンポー峡谷に挑戦してきた先人たちの姿が語られる。

不屈の意志をもってツアンポー大峡谷に潜入したインドの仕立屋、キントゥプ。仕立屋の情報の真偽を探るため峡谷へ冒険に出た英領インド政庁の役人、ベイリー。峡谷のほとんどを踏破し、彼が探検することのできなった地がのちに「空白の5マイル」と呼ばれることになったプラント・ハンター、キングドン=ウォード。キングドン=ウォードから70年後の1993年に、ツアンポー峡谷の奥地を探検し、幻の滝を発見した登山家、ブリシャーズ。そして、ツアンポー川で命を散らした若き日本人カヌーイスト、只野──彼ら冒険家の足跡を通して、ツアンポー峡谷の姿と歴史が浮き彫りにされる。

2回に渡った著者の冒険も、先人たちに同様に死と隣り合わせの過酷なものとなる。ベイリーが探検を行なった1924年から90年以上が経ち、当時とは比べものにならないほどの装備を持ちながらも、そんな些細な進歩などものともしないほど、ツアンポー峡谷の自然は峻厳なのである。

冒険行の顛末については、本書を開いて欲しいが、興味深かったことをひとつ書いておこう。それは2002年と2010年のテクノロジーの進化。2002年には、連絡手段がなく、完全に孤立していた峡谷周辺の村だが、2010年にはほとんどの村人たちが携帯電話を持っているのだ。辺境がなくなりつつある今の地球の姿が分かるエピソードだ。

本書で残念なのが、何度もGoogle Earthについて言及されるにもかかわらず、なぜかGoogle EarthやGoogle Mapsで「空白の5マイル」をワンクリックで開けない点だ。本書の紹介ページからでも、リンクを貼るだけにかかわらず、である。

もっと、つっこめば、著者の冒険行をトレースしたkmlファイルを配布してくれれば、Google Earth上で、そのルートを3Dで追体験することができるはずだ。これらにかかるコストなんて、ほぼゼロに等しい。21世紀の冒険記としては、もう少し読者サービスに力を入れて欲しかったなぁと思う。

ブログによれば、著者は2011年6月5日現在、北極で姿を消したフランクリン隊の足跡を辿る旅の途上のようだ。シモンズのフランクリン隊を扱ったホラー『ザ・テラー』でフランクリン隊を知ったクチとしては、とても興味深い。そちらの冒険行もはやく読める日が来ることを首を長くして待ちたい。

大冒険時代―世界が驚異に満ちていたころ 50の傑作探検記
マーク ジェンキンズ/Mark Jenkins
早川書房
¥ 3,780

Tags: 書評
本日のツッコミ(全1件) [ツッコミを入れる]
_ どん (2015-02-22(Sun) 11:16)

古い話に突っ込むのは何ですが、「ツアンポー川で命を散らした若き日本人カヌーイスト、只野」は「ツアンポー川で命を散らした若き日本人カヌーイスト、武井義隆」ですね。武井君の同級生なのでちょっと気になりました。 <br>