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2011-05-22(Sun) [長年日記]

_ 中世ドイツの小さな村を舞台にしたファーストコンタクトSF『異星人たちの郷』を読んだ。これは『星を継ぐもの』に匹敵するラストかも。

異星人の郷 上 (創元SF文庫)(マイクル・フリン/嶋田 洋一)

14世紀のドイツ南部を舞台に、小さな村に漂着した異星人たちと村人たちの交流と運命を描いたファーストコンタクトSFが本書。「SFを読んできて、本当によかったなー」と感じさせてくれた一作だ。

同じ時代を扱ったSFに小川一水の『風の邦、星の渚』があるが、あちらが街を舞台にしたプロジェクトものであるので、かなり趣きが違う(『風の邦〜』も面白いので、オススメですよ!)。

ストーリーは二つのパートが交互に語られることで編み上げられていく。

縦糸となるのが、聖職者ディートリヒの物語。上ホッホヴァルトで神父を勤めるディートリヒは、村外れの森で起きた異変を確かめに行き、そこで堕ちた乗り物と怪我をしたバッタを思わせる異形の人々に出会う。奇妙な機械を通して、クリンク人と名乗った彼らを、ディートリヒは保護することを決意する。

横糸は、700年後の現代で展開される。14世紀に消滅した「悪魔の村」と呼ばれていた場所の謎を追う歴史学者トムと、新しい宇宙論を構想するトムの同棲相手の物理学者シャロンの物語だ。

ファーストコンタクトもの大きな柱になるものを挙げるとすれば、カルチャー・ギャップと、それを超えた相互理解にあるのではないかと思う(たまに後者がなくて戦争になったりする作品もあるけど)。本書もまた、村人たちとクリンク人たちがどうカルチャー・ギャップをどう埋めていくかが、ひとつの読みどころになっているのだが、14世紀のヨーロッパという背景設定が一風変わった彩を添えている。

門外漢は、中世ヨーロッパと聞くと、つい魔女狩りが横行し、地動説が否定された迷信が幅をきかす「暗黒時代」というものを想像してしまうが、実は論理が重んじられた時代でもあったらしい。

とはいえ、それはキリスト教を絶対的な真理とする論理である。隠居した博士でもあるディートリヒ神父は、そのキリスト教的な論理を駆使し、クリンク人を理解しようとし、クリンク人もまたキリスト教を通して、人間を理解しようとする──この書き方によっては、かなりコミカルに書ける部分を作者は、大真面目に書いていく。

クリンク人がひどく短気な連中だったりするあたりも、実はかなり笑える部分だとは思うのだが、まぁ、そこらへんは読んでからのお楽しみ。

本書の二つ目の読みどころは、中世パートの書き込み具合。中世ドイツの小さな村の風習や風俗が、ノンフィクションもかくやというべきディティールをもって描かれていく。クリンク人という要素を除いたとしても、立派に中世を舞台にした小説と成り立つほど詳細だ。

そして、最後の読みどころは、ラストの1ページにある。それまでのディートリヒとトム、シャロンの物語が、ひとつに合わさり、圧倒的な感動を呼び起こす。ホーガンの『星を継ぐもの』に匹敵する感動といっていい。SFを愛す人ならば、胸が熱くなること間違いなしだ。

異星人の郷 下 (創元SF文庫)
マイクル・フリン/嶋田 洋一
東京創元社
¥ 987

星を継ぐもの (創元SF文庫)
ジェイムズ・P・ホーガン/池 央耿
東京創元社
¥ 735

風の邦、星の渚 上―レーズスフェント興亡記 (ハルキ文庫 お 6-6)
小川 一水
角川春樹事務所
¥ 780

風の邦、星の渚 下―レーズスフェント興亡記 (ハルキ文庫 お 6-7)
小川 一水
角川春樹事務所
¥ 780

Tags: SF 書評

_ 若手刑事とそれを支える刑事の活躍を描いた堂場瞬一の警察小説『蒼い猟犬』を読んだ

蒼い猟犬―1300万人の人質(堂場 瞬一)

全都民を巻き込む脅迫事件を追う若手の刑事と、それを支えるベテラン刑事の活躍を描いた堂場瞬一によるノンシリーズの警察小説が本書。個人的には、初・堂場作品になる。

葛飾南署刑事課にいた江上亨は、警視庁捜査一課に新設された部署へ異動となった。部署の名前は「特別捜査第三係」──表向きは、若年層の事件の専門であるこの部署の本当の目的は、実務研修で若手刑事たちを鍛え、将来への布石とすることにあった。

奇しくも第三係が正式に発足した、その日、複数の小学校で急性食中毒事件が起きる。200人近い児童たちが嘔吐や腹痛を訴えたのだ。

給食への毒物混入が疑われる中、TVの生放送番組に犯人を名乗る人物から一本の電話が入る。「今日は十か所だ」。犯人の要求は5億円。子供たちを盾にとり、都民1300万人を人質にする姿の見えない犯人を第三係の刑事たちが追う──。

というのが、だいたいのあらすじ。良くも悪くも刑事ドラマ的な一作だ。

他の部署からは「ひよこ」と疎まれる若手刑事ばかりを集めた部署という設定からしてマンガ的だし、主人公は指揮系統を無視してつっぱしる熱血漢、同僚には幼馴染の女性(他の人間からは恋人同士と思われるオマケつき!)に、いつもノートPCを持ち歩くギークなキャリア。彼らを支えるベテランに、頑固一徹の老刑事、クールビューティーな女刑事、若手の暴走に胃を痛める中間管理職を配するという「お約束」ぶり。

だからといって、つまらない訳ではなく、と読み手にページを繰らせる筆力は、さすがといっていいと思う。

ただ、震災とそれにつづく原発事故の混乱を経験してしまった目からすると、都内全部の児童を人質にされているのに給食をストップしない行政のやり方は不自然に見えるし、犯人の正体も動機も微妙だし、ラストも蛇足だなぁと感じたりもするのだが、まぁ、許容範囲か。

小説としての深みはないが、時間潰しにはいいんじゃなかろうか。時間潰しに1,575円出すかというとビミョーだが。


この本は本が好き!経由で献本いただきました。

Tags: 書評