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2011-05-06(Fri) [長年日記]

_ 軍事におけるITとC4ISRについて解説した『戦うコンピュータ2011』を読んだ

戦うコンピュータ2011(井上 孝司)

先日のビン・ラディン殺害作戦の様子を、オバマ大統領をはじめとするホワイトハウスのスタッフがリアルタイムで見守っていたそうだ。作戦の是非は別として、本書を読んだ後だと、「どれだけの回線容量を使ったんだろう?」なんてことが気になる。

本書は軍事でのITを扱った一冊だ。「F-22は〜のミサイルが何発搭載できて」云々といった感じの兵器の解説は一切含まず、C4ISR(指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視および偵察)についてひたすら書いているという、なんとも潔い書である。著者が上梓した本のアップデート版だが、内容は別物といっていいほど変わっているので、以前の版を読んだ人も安心して読める。

C4ISRと一口にいってもカバーする範囲はとても広い。本書に関していえば、兵站、飛行、射撃、誘導、電子戦、訓練、開発、分散処理、暗号、身元証明、無人兵器、通信、データリンク、情報共有、ネットワーク、サイバー戦 etc といった感じで、一部については、ソフトウェアやネットワーク関連の書籍と変わらない内容が書かれていたりする。軍事関連の本に、OSI7階層モデルのような話が出てくるとは思わなかったw 軍事と民生がそれだけ接近しているという証左だろう。

本書によれば、最近の兵器開発プロジェクトは、スケジュール遅延やコストが計画時よりも増える傾向が多いとのこと。軍事業界でもデスマとは無縁ではないんですなー。

また、軍事関連ソフトウェアのソースコードの管理や、米軍では個人用デバイスとして、高価でクローズドなiPhoneよりも、オープンなAndroidを有望視しているといった話題にもページが割かれていて、民間企業と変わらないなーなんて感想を持ったのだが、考えてみれば、ソフトウェア開発はどのような分野でも変わらない訳で、そのことを確認できる書ともいえるかもしれない。

その他の興味深かった話題が、マルチバンド無線機に関するもの。アマチュア無線などと同様に、戦場でも通信に様々な周波数帯を使うのだが、周波数帯ごとに無線機を持ち運ぶのでは効率が悪い。そこで作られたのが、複数の周波数帯通信をカバーするマルチバンド無線機だ。しかし、電気回路のハードウェア実装によるマルチバンド無線機は高価なため、現在、ソフトウェアによるマルチバンド無線機が開発が進んでいるらしい。ソフトウェアPBX、Asteriskを彷彿とさせて面白かった。

もちろん、アフガニスタン戦争で一躍有名になったUAVをはじめとする無人ヴィークルや、最先端の合成開口レーダーといったトピックにも詳しく解説されているので、そちら方面に興味がある向きにもオススメ。データリンクについてこれだけ詳しく書かれた書籍は、ちょっとないのではないかと思う。

ただ、「ソ連」をはじめとする「連」の字が「聯」になっていたり(こだわりなのかもしれないが)、映画『ブラックホーク・ダウン』を観にいって応急手当のシーンで失神したといった関係ない話題が急に書かれていたりと、妙なところが散見されたことが気になったことは付記しておく。

ヌルい軍事オタクにとっては、非常に刺激に富む一冊だった。軍事分野に興味がある人は面白く読めるのではないかと思う。

Tags: 書評 軍事