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2011-02-11(Fri) [長年日記]

_ 『小暮写眞館』──家族小説であり、青春小説でもある一冊。心底、うまいなぁと感じさせる宮部みゆきの書き下ろし長編だ。

小暮写眞館 (100周年書き下ろし)(宮部 みゆき)

『あんじゅう』につづけて、宮部みゆき。

宮部みゆきの書下し長編。家族小説であり、青春小説でもある一冊だ。700ページ超という分厚さだが、長さを感じさせず、自然体でするすると読者にページを繰らせる筆力はさすがとしかいいようがない。心底、うまいなぁと感じさせる作品である。

舞台は東京の下町。主人公はごく普通の高校生、花菱英一。結婚20年を機に、英一の両親は念願のマイホームを購入するが、変わり者の両親が選んだのは「小暮写眞館」という築30年を超える閉店した写真館だった。

なにごとについても変わったことが父が看板をそのままにしておいたため、店が再開したと勘違いした女子高生がクレームをつけにやってくる。彼女がフリマで手に入れたノートに、小暮写眞館で現像された心霊写真が挟まっていたというのだ。なにかの会食風景を撮影したとおぼしき、その写真の隅には涙を流す女性の顔が写っていた。英一は行き掛かりから、その心霊写真の謎を解くことに……。

いつの間にか、心霊写真探偵にさせられてしまった英一が持ち込まれる「心霊写真」の謎を解くという、ちょっとミステリ仕立ての4篇の連作集なのだが、謎解きを軸として花菱家の人々が抱えるものも徐々に明らかになってくるというストーリー展開が秀逸。

変わり者の両親や、英一の弟で利発な小学生のピカこと光といった花菱家の人々の他、サイケデリックな服装を好む天才テンコ、色黒の和菓子屋の跡取り娘コゲパンといった英一の同級生、不動産会社の不良事務員、ミス垣本、そして小暮写眞館の主で現・幽霊らしい(!)小暮老人といった周辺の個性的な人々も、とても魅力的だ。主要な登場人物だけでなく、端役のキャラクタも丹念に描く著者の筆からは、人間に向ける暖かな視線を感じさせる。

ラストは少しだけ哀しいけれど、春風のように爽やかだ。そう、菜の花と桜の真っ只中にある駅と列車を写したカバー写真のように。読み手は、読後にこの写真をもう一度見直すことになるはずだ。

鉄道愛好会のメンバー、ヒロシが英一に語る言葉には、思わず、目頭が熱くなってしまった。駅に停まりつつ、人生という鉄路は続いていく。それは著者の代弁でもあるのだろう。強く強くオススメしたい作品だ。

Tags: 書評
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_ しぃ (2015-06-28(Sun) 22:58)

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