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2011-02-06(Sun) [長年日記]

_ 『あんじゅう』──前巻は心底「こわい」と感じる一冊だったが、今回は、かなりほのぼのした雰囲気。ただ、どうしようもない哀しみや業を感じさせるストーリーもあって、うまいなぁと感じさせられる一冊になっている

あんじゅう―三島屋変調百物語事続(宮部 みゆき)

『おそろし』につづく、三島屋百物語シリーズの第2弾。

江戸は神田にある袋物屋、三島屋。店を営む伊兵衛とお民夫婦の元に、川崎の旅籠屋から伊兵衛の姪、おちかが行儀見習いという名目で託されてくる。おちかはある哀しい事情を抱えていた。ある日、おちかが来客から不思議な話を聞いたということを知った伊兵衛は、おちかの様子がそれまでと違うことに気付く。おちかの哀しみを癒すためには、人の話に耳を傾ける必要があるのかもしれない──。そう考えた伊兵衛はおちかのために百物語の語り手を集めはじめる……。

という形ではじまった前巻は心底「こわい」と感じる一冊だったが、今回は、かなりほのぼのした雰囲気。ただ、どうしようもない哀しみや業を感じさせるストーリーもあって、うまいなぁと感じさせられる一冊になっている。聞連載時に添えられた南伸坊の挿絵、約300点が作品の雰囲気を引き立たせる。

本書に収められているのは4篇。

1話目は、近くの水をどんどん飲んでしまうという祟り神に憑かれた丁稚の物語「逃げ水」。かわいらしい神様が登場して、のっけからほのぼのとさせられる。

つづく2話目の「藪から針千本」は、三島屋の隣りで針問屋を営む夫妻の一人娘にまつわる物語。人間の心の底に巣喰う嫉妬の闇は、その間柄が仲睦まじいほど、余計に深く濃くなっていくことを浮き彫りにしている。

3話目は表題作「あんじゅう」。「あんじゅう」とは「暗獣」のこと。こう書くと、なんだかすごそうだが、実はトトロに登場する「まっくろくろすけ」のような妖怪のこと。その名も「くろすけ」というのだから確信犯といっていいだろう。老夫婦と古屋敷に住む、くろすけとの交流に胸が暖かくなるが、その結末がなんとも物悲しい。ストーリーテリングの妙に存分に味わえる一作。

トリを飾る4話目は、偽僧侶が迷い込んだ山奥の村に隠された謎と村の恐しい運命を描いた「吼える仏像」。恐怖とともに、人間の業の深さを描き出す筆力は見事。ホラー作家としての宮部みゆきの力量が発揮された作品といっていいだろう。

個人的なオススメ度合いを書いておくと、イチオシが「吼える仏像」、ニオシに「あんじゅう」といった感じか。

前作と本書をあわせても語られた百物語は、まだ九つ。あと、九十一話もの物語が待っている。先が楽しみなシリーズだ。

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