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2010-12-04(Sat) [長年日記]

_ これまで書かれたゾンビ小説の中でもベストといっていい一冊。世界中で人間を襲う死者が甦りはじめたら、というIFをシミュレートしつつ、状況に立ち向かった人々のインタビュー集という形でまとめあげた筆力は見事 ── 『WORLD WAR Z』

WORLD WAR Z(マックス・ブルックス/浜野アキオ)

『WORLD WAR Z』は、これまで書かれたゾンビ小説の中でもベストといっていい作品だ。個人的には、2010年に読んだSFの中でもベストに入れていい一冊。

人類が滅亡に瀬戸際に追い込まれることとなった〈ゾンビ戦争〉から10年。国連戦後委員会は戦争に関する報告書をまとめるが、最終稿は、当初の約半分の分量に抑えられた。最終稿から省かれた「人間的要素」が葬り去られることを偲びなく思った調査官が出版したものが本書、という設定だ。

ストーリーの骨子はいたってシンプル。世界中で死者が甦り、人間を襲うようになった時、世界はどうなってしまうのか──。作者マックス・ブルックス(映画監督メル・ブルックスと女優アン・バンクロフトの息子)は、直球でそのような事態に陥った世界をシミュレートしている。

見事な筆力を感じさせるのは、本書の構成だ。このような大きな主題を扱った場合、ややもすると、マクロな視点に周知してしまうものだが、ブルックスは生き残った世界中の人々へのインタビュー集という形態にすることにより、様々な角度から〈ゾンビ戦争〉を描き、浮き彫りにすることに成功している。

最終的には、ゾンビたちに勝利したことが当初からほのめかされている本書だが、決して「人類の偉大なる勝利」というものにはなっていないことに留意したい。「戦争」と銘打たれているが、本書でのゾンビの扱いは、新型インフルエンザとさほど変わらない疫病と同じ扱いなのだ。ゾンビが初めて確認された中国から中央アジア、南アメリカ、ロシア、北アメリカ、ヨーロッパ、そして、日本とゾンビ現象は地球規模に拡大していくが、その拡大の原因は、ひとえに人間のエゴやことなかれ主義、金銭欲といった愚かさのために他ならない。

考えてみれば、人間を襲うゾンビという設定の礎になった金字塔ともいえるジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデット』もまた人間の愚かさを描いた映画だった。そう考えれば、本書はまさにロメロ・ゾンビの直系の子孫ということができるかもしれない。

もうひとつ注目したいのは、作者のシミュレーションの細やかさ。脳を破壊するしか倒す方法がないゾンビにRMA(軍事革命)によりネットワーク化された米軍は対抗できるのか。海に落ちたゾンビはどうなるのか。詳細に構築されたゾンビの世界を垣間見せてくれる。

ちなみにSF者ならば、思わず、拍手を送りたくなってしまうものが、日本政府が計画するカムチャッカ半島への脱出計画。日本人が日本列島を脱出するといえば、あれしかない。そう、小松左京の『日本沈没』だ! その計画を発表したのが小松博士というのだから、確信犯以外の何者でもない。なお、日本編では、盲目のサムライが活躍する一風変わったジャパネスク・ゾンビ・ストーリーが展開されているので、そちらも要注目。

ゾンビファンはもちろんのこと、ホラーマニア、SF者、軍事ヲタク、そして普通の小説好きまで、すべての人にオススメしたい作品だ。ぜひぜひ。

Tags: 書評
本日のツッコミ(全1件) [ツッコミを入れる]
_ hiroyukim (2011-02-04(Fri) 12:29)

そう、これよみたい。