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2010-09-27(Mon) [長年日記]

_ 人類もTwitterもバイラルだ! ── 『バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある』(アダム・ペネンバーグ著/中山宥訳)

レビュープラスさんから『バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある』のプルーフをいただきました。どうもありがとうございます。さっそく書評。

バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある(アダム・ペネンバーグ/中山 宥) 「バイラル・ループ」とは、インターネット上で、情報がウィルスのように口コミで人から人へ急速に伝播していくことをいう。「フォーブズ」の記者として、綿密な取材を重ね、でっちあげ報道を暴いた経験のある著者が、バイラル・ループという切り口から様々なIT企業の成功事例を分析しているのが本書だ。と書けば、なにやら退屈なビジネス書を思い浮かべるかもしれないが、関係者へのインタビューをノンフィクション風に構成した文章は、とっつきやすく、するすると読むことができる。

著者は、自分自身の写真をアップして点数をつけてもらうhotornot.comから筆を進め、Netscape、Hotmail、eBay、PayPal、Flickr、Facebookという数々の成功したサービスの誕生の経緯と急成長の様子を描写し、それらに共通するバイラル・ループを浮き彫りにする。本書の面白いところは、バイラル・ループの起源がインターネットが生まれる遥か以前の、タッパーウェアのホームパーティー販売にあることを明らかにしている点だ。バイラル・ループは最近生まれたものではなく、一部のマーケティング専門家は昔からその重要性に気付いていた訳である。

あるサービスのメンバーが自分の知り合いを勧誘し、新しいメンバーに引き入れる数を「バイラル係数」という。急成長のカーブを描くサービスは、バイラル係数が1を上回っている。様々なサービスがバイラル係数を上げるためにどうのような工夫をしたのかの具体例も本書には書かれている。バイラル・ループに乗り、普及率が一定水準に達したサービスはもう負けなしとなり、類似のサービスを提供する二番手、三番手は低成長のまま続けるか、消え去るかの二択しか残されなくなる。ホンのちょっと前を思い返してみれば、死屍累々といえる、サービスをやめたSNSやミニブログの数々が思い浮かぶだろう。

しかし、バイラル係数の上昇が良い結果ばかり生む訳ではない。悪い面、それはサーバ・リソースの枯渇だ。本書でも繰り返し、急増する会員をさばくために、エンジニアたちが奮闘する様子が描かれている。特に、以前はPCをサーバにして開始するサービスが多く、スケーラビリティの実現に苦労したようだ。今はAmazon EC2をはじめとするクラウドサービスがあるため、スケーラビリティの確保という面では苦労しなくなったことを、エンジニアのはしくれとして実感した次第。

本書では成功したバイラル企業の数々が取り上げられている。だが、ほとんどの企業がサービスによって上げる利益よりも、会員数を増やしてGoogleやMicrosoftといった大企業に買収されることを目標に置いているように見える点は気になった。もちろん、無料で使うことができるサービスだからこそ、爆発的に広がったという面があることは、ユーザの一人としても理解している。しかし、それが健全なビジネスモデルといえるのかどうか疑問符をつけたくなる。

ビジネスモデルとして健全かどうかは別として、これからもバイラル企業の設立はつづくだろう。なぜなら、著者が述べるように、人類そのものがバイラルに成長してきたからだ。人は本質的に人と繋りたいという欲求を持っている。これまでその欲求は時間と空間という要素によって制限されてきた。しかし、インターネットとソーシャルメディアいう基盤を手に入れた人類は、やっと制約から開放された。将来、新たな歴史の第一歩として記されるかもしれない時代に我々は立っている。そんなことを思わさせる一冊だ。