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2010-08-31(Tue) [長年日記]

_ 超人的な走りを見せるウルトラランナーの姿と、われわれ人間が走るために生まれ、進化してきたことを明らかにするノンフィクション。読めば走り出したくなること間違いなしの一冊 ── 『BORN TO RUN』

BORN TO RUN 走るために生まれた~ウルトラランナーVS人類最強の”走る民族”(クリストファー・マクドゥーガル/近藤 隆文)

これはスゴい本。

最近、夜に走りはじめた。といっても、えらそうに言うほどのことではない、たかだか3〜4kmだ。しかし、世の中には、100kmもの悪路を一晩で走ってしまう人々がいるそうだ。本書『BORN TO RUN』は、超人的な走りを見せるウルトラランナーの姿とともに、われわれ人間が走るために生まれ、進化してきたことを明かすノンフィクション。個人的には、今年読んだ中で、今のところ、一番面白かった本だ。

ある日、趣味のランニングをしていたジャーナリストの著者は突然の足の痛みに襲われる。痛みの原因を知るため、医者を尋ねるものの、走ること自体が身体に悪いと言われる始末。しかし、日の出とともに走っても平気な人間がいる一方で、なぜ自分のように走ると痛む足を抱えた人間がいるのか──。そんな疑問を抱えた著者は、メキシコでの取材旅行で、偶然、峡谷の奥の秘境に住む謎の民族、タラウマラ族のことを知る。彼らのチャンピョンは、2晩をかけて400km以上走るというのだ……。

本書は3つの軸から構成されている。

ひとつめは、史上最強の走る民族、タラウマラ族を追うエピソード。ふたつめは、スポーツシューズの弊害をまじえつつ、いかに人類が走るために進化してきたかを科学的に解いていくエピソード。そして、みっつめにして、本書のクライマックスが、メキシコの奥地を舞台に繰り広げられる、タラウマラ族とアメリカ人ウルトラランナーたちの知られざる史上最強のレースだ。

本書のページから立ち上がってくるのは、走ることがわれわれにとっての本能であるということだ。本書に登場する陸上競技のコーチはいう。

走ることは太古の祖先から遺伝子に組込まれてきた宿命なのだ。われわれは走るために生まれた。走るからこそ生まれた。誰もが``走る民族''なのであり、それをタラウマラ族は一度も忘れたことがない。

また、96歳で過酷なレースに参加したウルトラナンナーはいう。

「人は年をとるから走るのをやめるのではない」「走るのをやめるから年をとるのだ」

取材をつづけるうちに、著者自身もどんどん走ることに魅せられ、遂にはタラウマラ族とウルトラランナーたちのレースに参加することになる。ちなみに、このウルトラランナーたちがなんとも個性的な人物ばかりでニヤニヤさせられてしまうこと必至だ。ゴールした後もゴール横に寝袋を敷いてランナーたちを応援しつづけるチャンピョンや、脱水症状を起こしかけた著者にマンゴージュースを持って来てくれるタラウマラ族など、ほろっとしてしまうエピソードが彩りを添えている。

ぐいぐいと引き込まれる本書だが、文章に硬さがあり、多少の読みづらさがあるのが玉に瑕。たとえば、ナイキを批判した章の最後に、ちょっと持ち上げたかのような一節があるのだが、実は皮肉だったというのはAmazonのレビューを読むまで気づかなかった(http://www.amazon.co.jp/review/R35UIM1I4BKN73/)。

とはいえ、少々の欠点は吹き飛ばす面白さ満載の本である。読めば走り出したくなること間違いなしの一冊。走っている人も、そうでない人にも強くオススメしたい。