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2010-07-31(Sat) [長年日記]

_ プロローグから引き込まれるミステリ。長い時をおいても古びることなく輝きを放っている、バリンジャーの手練の技が楽しめる一冊 ── 『歯と爪』

歯と爪【新版】 (創元推理文庫)(ビル・S・バリンジャー/大久保 康雄)

これはすごい本。

結末部分が返金保証つきの袋綴じになった『歯と爪』は

まず第一に彼は、ある殺人犯人に対して復讐をなしとげた。

第二に彼は殺人を犯した。

そして第三に彼は、その謀略工作のなかで自分も殺されたのである。

というプロローグから、ぐっと引き込まれるミステリだ。原書は1955年に出版されたが、半世紀以上経った今でも、その面白さはいささかも衰えていない。不朽の名作といっていいだろう。

ストーリーは、三人称で語られる裁判シーンと、奇術師の一人称で語られる物語がカット・バックで描かれることによって構成されている。死体不在という特異な事件を巡っての検事と弁護士の息詰まる攻防と、奇術師リュウと故郷を飛び出してきた娘タリーとの出会いの物語。そのふたつが収斂し、事件の真相が明らかになるという仕組みになっている。

袋綴じという体裁につい目を奪われがちだが、注目すべきは、ストーリーテリングのうまさ。まさに流れるように進むストーリーに、ぐいぐい引っ張られ、読み手を否応なく袋綴じを破らざるをえないところに引き込んでしまう。

様々なミステリーで鍛えられてきた読み手には、真相は「驚愕」というほどのものではないだろうが、パズルのピースがかちりとはまるような心地よさがある。

一読を強くオススメしたい作品だ。長い時をおいても古びることなく輝きを放っている、バリンジャーの手練の技をぜひ楽しんでほしい。