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ぽっぺん日記@karashi.org


2010-02-18(Thu) [長年日記]

_ [読書感想]COURRiER Japon(クーリエ・ジャポン)2010年3月号

COURRiERJa pon

世界の1500を超えるメディアの中から記事を選び、翻訳・編集して読者に届けているニュース誌、 COURRiER Japon(クーリエ・ジャポン)の2010年3月号を R+(レビュープラス) 経由で献本いただきました。 いつも同様、非常に楽しんで読むことができました。感謝いたします。

今号の表紙は「貧困大国の真実」という特集に非常にマッチしていて、見る者に強いインパクトを与えるものとなっています。

印象に残った記事をピックアップ。

貧困大国の真実

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)(堤 未果)の著者、堤未果氏の責任編集による今号の特集は、アメリカの現状を鋭く描き出すものになっている。タイトルの「貧困大国」には「アメリカ」とルビが振ってある。

ブッシュ前政権時代に起きた911と、それに続くアフガニスタン戦争、イラク戦争、そしてリーマン・ショック。疲弊しきったアメリカを立て直すべく、選ばれたのがオバマ大統領だった。しかし、希望に満ちた就任式から1年経った今、支持率は急激に低下している。本特集からは、なぜアメリカ国民がオバマ大統領が掲げた「CHANGE(変革)」や「HOPE(希望)」に失望しているのか、その原因の一端を見ることができる。

まず、驚かされるのがニューヨーク・タイムズによるフードスタンプに関する記事。

アメリカには貧困層向けの「フードスタンプ(食料配給券)」という制度があるが、その受給者が1日2万人のペースで増加しているというのだ。その数は2009年8月時点で約3650万人。ミシシッピ川周辺のセントルイスやメンフィス、ニューオリンズといった大都市では、子供の半数がフードスタンプ受給者だという。その背景には、生活保護制度自体はあるが、充分ではなく、フードスタンプが多くの人が受け取れる唯一のセーフティネットであるということがあるようだ。

ただ、その一方で、これまで中流階級だった人々が失業等で食べるものに事欠きながらも、プライドからフードスタンプを拒否したり、その逆にフードスタンプを不正に利用とする人々がいたりと、生きる上での基本的な問題だけに、様々な難しさが横たわっている。

生きるということでは、医療もまた無視できない問題だ。マイケル・ムーアはシッコ [DVD]で、アメリカの医療問題に切り込んだが、医療問題はオバマ政権となった今も継続している。医療問題の実情をタイム誌の記者が自身と兄の経験を元に浮き彫りにしているのが、「タイム誌記者の家族が直面した民間医療保険の"不都合な真実"」だ。

記者の兄は、健康診断で腎臓の機能低下を告げられ、精密検査の結果、腎不全と診断された。しかし、彼が加入していた医療保険会社が保険の支払いを拒否する。6年間もその保険会社に保険料を支払っていたにもかかわらず、である。その結果、検査だけで、なんと1万4000ドルもの大金が請求されたのだ。もちろん、診療費は別だ。

アメリカの医療保険制度の根本的な問題は、保険で医療費をカバーできないことが多く、たとえ中流だったとしても、病気のせいで破産する可能性があるということだ。記事では、保険での限度額を超えたために、乳癌の放射線治療を延期している食料品店店員や、胃癌の治療のために住宅を手放した会計士の事例が紹介されている。

幸い記者の兄は、その後に貧困層を対象とした地域の公的医療サービスを受けることができたため、収入に応じた医療費を支払う形で済んだが、あくまでも運がよかった例といえるだろう。

このような運に恵まれず、保険のカバーの範囲外のため、適切な治療を受けられない人々や、収入が低く保険に加入できない無保険者を対象に、無料で診察を提供するためにロサンゼルスで開催された「フリー医療フォーラム」の写真が『国から見棄てられた哀しき「医療難民」たち』(ル・モンド・マガジン)に掲載されている。普段、競技場やコンサート会場として使われているスタジアムで、診療台代わりの長椅子で多数の患者が診察を受けている写真は衝撃的だ。このフォーラムは整理券制。運良く整理券を手に入れられた人の平均待ち時間は13時間。長距離バスで25時間かけて訪れた人もいたという。

オバマ大統領の最大の公約のひとつが、歪んだ保険制度を改革し、国民皆保険の確率だったはずだか、それも骨抜きになってしまったと言われている。どのような過程を経て、このような事態に陥ったのかについての編集部による解説が掲載されているので、特集冒頭の堤未果氏へのインタビューとともに読まれたい。

さて、世界一といわれてきたアメリカの大学教育だが、授業料の高騰によりその地位も揺らいでいるという記事が2本掲載されている(それぞれワシントン・ポストおよびロサンゼルス・タイムスから)。

記事によれば、金融以降、大学への寄付金や交付金も減っているため、授業料が値上げされているそうだ。 しかし、金融機関は低金利の学資ローンの融資を大幅に縮小しているため、学生や親は授業料の支払いのために、高金利のローンを多重に組まざるをえないこともあるという。 日本でも、「一番高い買い物は教育」と言われ、親の収入が子供の教育に直接関係してくるのが実情だが、アメリカの状況は公的な学資ローンが手薄いため、さらにひどい状況にあるといっていいだろう。大学側を責任を追求したくなるところだが、「大学教育の質を犠牲にするのか、それとも学生の支払い能力ではなく、才能に基づいて学生を受け入れる方針を犠牲にするのかのどちらかです」と苦しい内情を吐露するアーマスト大学学長の言葉を読むと、そうとばかりは言っていられない。 やはり、オバマ政権には、低金利の公的な学資ローンを拡充することが、なりより求められるだろう。

記事は、授業料の高騰がアメリカの国力の低下に繋がることを示唆して締められているが、翻って日本の状況を考えると、全く同じことがいえる。無資源国であることを勘案すれば、より状況は深刻といえるかもしれない。家庭の収入の差に左右されず、子供たちが高等教育を受けられる体制は、アメリカだけでなく、日本にも求められている。

アメリカの徹底した市場主義は「刑罰」の分野にも及んできている。 しかし、国民の自由を奪う「刑罰」というものを民間企業が行使することに問題はないのか。 次のポートフォリオの記事は民間刑務所の弊害に切り込んでいる。

日本でもPFI方式による一部民間委託の刑務所が開所されたが、アメリカでは民間企業が自前で建設し運営する民間の刑務所が存在する。 その数は、全米で約8%と決して数は多くないものの、苦しい財政状況がつづく中、今後さらに増えることが予想される。しかし、一方で、刑務所運営に「営利」を持ち込んだことを批判する声も多い。刑務所を運営する企業はコストを削減するため、受刑者の社会復帰支援や医療サービスなどの質を下げているというのだ。 また、運営会社が受刑者の人数によって支払われる運営受託料を増やすため、早期釈放反対や厳罰化の推進などのロビー活動を展開しているとの憶測もあるという。

編集部の解説によれば、民間刑務所の受刑者たちは、本来無料であるはずの部屋代や食費、医療サービスを市場価格よりはるかに高い価格で自己負担している。 さらには、「職業訓練」の名目で、外部から仕事を受注し、受刑者たちを最低賃金以下の働かせているそうだ。 外部からチェックを受けない民間刑務所のあり方は非常に問題があるといっていいだろう。

刑務所どころか、保護観察までもが民営化され、ビジネスとなっていることを書いているのが、マザー・ジョーンズの記事。

ジョージア州のほか、少なくとも9つの州が保護観察業務を民間企業に委託している。 州政府はこのアウトソーシングにより数百万ドルが節約できたと謳っているそうだが、貧困層からなけなしの金を搾り取る仕組みになっているという批判があるそうだ。

なぜか。

もし、スピード違反で切符を切られ裁判所に出頭したとする。 罰金を払えば、保護観察処分を免れることができる。 しかし、貧困層の住民はその金を支払うことができない。 そのため、保護観察下に置かれ、罰金に加えて、保護観察を請け負う民間企業に「監督手数料」を支払わなければならないというのだ。 そのため、刑期終了時の支払額は、罰金の総額の2倍以上になる可能性もあるという。

様々な角度から「貧困大国」であるアメリカを浮き彫りにした記事だが、もうアメリカは終わったのだろうか? バラク・オバマが大統領が就任してから僅か1年。 失敗はあれど、彼はその短い期間で、それまでタブーだった医療や学資ローンの改革に取り組もうとし、また取り組んでいる。 堤未果氏は言う。『本当の「チェンジ」は、これから始まる』と。

良くも悪くも日本と密接に関わるアメリカの今後の動向を見せてくれるとともに、アメリカの姿から日本の抱える課題を照射する非常に良い特集だった。

少々残念だったのは、現在のアメリカを考える上で欠かせない、軍事分野に関する記事がなかったこと。

軍には貧困層出身の兵士が多いことは知られているし、また、軍のリクルーターが貧困層の高校生などを中心に、除隊後の大学進学の特典として軍への入隊を勧誘しているという実態もある。 決して貧困とは無縁ではないのではないかと思う。

また、民営化された「軍事」である、民間軍事会社のオバマ政権下での現状も知りたい。 コスト削減を謳われて、大々的に使われている民間軍事会社だが、不正会計などで実際は常備軍よりもコストが増大しているのではないかとの見方もある。 根本的なものとして、民間人が軍事を担うことの是非という問題もある。

日本であまり報道されないニュースだけに、クーリエ・ジャポンで取り上げていただけると嬉しい。

WORLD NEWS HEADLINE

クーリエ・ジャポンが誇る世界中のニュースを集めたコーナーである。 その中でも興味深かったものをあげておこう。

『「シーシェパード」の活動は豪州に百害あって一利なし』。 オーストラリアが日本の調査捕鯨に反対し、調査捕鯨船を標的にテロ行為を繰り返すシーシェパードを黙認し続けていることは有名だが、シーシェパードの活動に反対している豪新聞記事がこれ。 国際捕鯨委員会(IWC)を通じて、日本の外交的譲歩を引き出したいオーストラリア政府にとって、シーシェパードの活動はマイナスであるという内容なのだが、少なくともテロ行為が看過されるという現在の状態が解消されるのなら喜ぶべきだろう。

米軍のイラクからの撤退が進むにつれて、浮び上がってきた新たな保障問題についての記事が「戦場で負傷しても使い捨て…イラク人通訳の悲哀」。 米国防総省は、米軍がイラクで活動するために、8000人を超える従軍通訳をサンディエゴにあるタイタン社に発注した。 そのうち、360人以上が死亡、約1200人が負傷した。 通訳は、ほとんどがイラク人。 イラク国民から売国奴扱いされ、テロの標的になるリスクがありながら、年間1万2000ドルで米軍のために働いた彼らだが、契約時に取り決められた保険が、負傷や死亡後にも支払われていないケースが多いという。 戦場では米軍と同じように働きながら、帰還後には違う扱いを受けるという大きな矛盾を明らかにしている。

「私たちは、きわめて幸運だった」は、 3号に渡って掲載されてきたアフガニスタンでタリバンに拘束されたNYタイムズ記者の手記「NYタイムズ記者の”タリバン拘束記”」の最終回。 緊迫した脱出行が描き出されている。 脱出に成功した直後に、著者が妻に語った「人生をかけてこの償いをさせてくれ」の言葉には思わず目頭が熱くなった。 これまでのNYタイムズ記者の”タリバン拘束記”」はCOURRiER JaponのWebサイトで読めるそうだ。 この記事も近いうちに読めるようになると思うので、ぜひ一読を。

越境者的ニッポン・第34回

作家・森巣博氏が日本のおかしな現状を鋭く斬る連載である。

ニュースでよく聞くフレーズに「今年も、去年につづいて自殺者が3万人を超えて──」といったものがある。 しかし、実は、自殺者の数は98年からずっと3万2000人前後だそうだ。 その頃から考えると、ずっと経済状態は悪くなっているにもかかわらず、である。 著者の指摘を読むと、たしかにおかしな数字である。

一方で、警察が取り扱った「警察取扱死体」の数は、98年に9万体だったものが、08年には16万を超えたそうだ。 著者でなくても、このギャップになんとも居心地の悪い思いをするはずだ。

著者は、予算の関係から、自殺や、場合によっては他殺の疑いのある遺体(!)までも「自然死」扱いされているのではないかと疑問を呈している。

政府が流す発表をそのまま流すだけのマスコミを指弾し、「国民の知る権利」を代行することこそがジャーナリズムの使命なのではないかと訴える著者の考えには大いに賛同する。

ミシュラン覆面調査員とランチを食べてみた

ニューヨーカー誌の独占スクープの翻訳記事。

『ミシュランガイド』といえば、覆面調査員がレストランを評価することで有名なレストランガイドだ。 『ミシュランガイド東京』が刊行され話題になると同時に、その評価基準について批判が起きたことも記憶に新しい。 アメリカで刊行された『ミシュランガイド・ニューヨークシティ』も同じ状況にあるようだ。

伸び悩む実売部数に梃子入れするための「よりよく理解してもらおう」キャンペーンの一環として、ミシュランの覆面調査員にニューヨーカーの記者が同行して、一緒にランチを食べるというのが記事の内容。

はた目から見れば、「いつも会社の金で、高級レストランで食事ができていいなー」などと思ってしまうが、記事によれば、調査員としての人生は厳しいそうだ。 出張の連続で、常に食べていなければならず、食後には、締め切りに追われながら緻密な調査書を書き上げなければならない。 身分は隠さなければならず、給料も高くない。 ちなみに、星つきのレストランで食事ができるのは、1割程度とのこと。

ミシュランガイドの歴史や批判なども読むことができて、非常に面白い記事だった。

それにしても、食材の仕込みはすべて完璧に行なわれているか、技術的な間違いはないか、食材のバランスは適切だったか、食感はどうだったか、統一感はあったか、別の食材を殺してしまっている食材はなかったか、なんてことに気を配りながりながら、食事をするのは大変そうだ。

佐藤優の国際ニュース解説室

国際ニュースについての読者の様々な疑問に、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が答える連載。

今回は鳩山政権が外交政策として掲げる「対等な日米関係」について。 優柔不断で決断力に欠け、なにを考えているか分からないと批判される鳩山首相だが、実はオペレーションズ・リサーチを専門とする学者。 迷走しているかのように見える普天間飛行場移設問題も「性急な決断をしない」と決断することで、日本にとってもっとも有利な情勢を作ろうとしている、というのが佐藤氏の見立て。

その正誤は横に措くとして、米海兵隊のグアムへの移転は法的拘束力をもつ合意であり、それに対して、普天間飛行場への辺野古移転は法的拘束力をもたない合意であるという指摘には目から鱗が落ちた。

まとめ

今号も日本のメディアでは取り上げられない記事ばかりで、深い満足感を与えてくれる内容だった。 特に特集はイチオシだ。 また、食通の人には、ミシュラン覆面調査員との同行記事をオススメしたい。

クーリエ・ジャポン ブログレビューコンテスト プレゼントキャンペーンのお知らせ

今回のクーリエ・ジャポンの読書感想は、ブログレビューコンテストへの参加作品なのですが、コンテスト開催を記念して、クーリエ・ジャポンを購入する時に使えるFujisanギフト券のプレゼントキャンペーンが行なわれてるということです。

下記のリンクからキャンペーンに参加すると、抽選で合計100名の方に、Fujisan.co.jpにてご利用できるギフト券1,000円分がプレゼントされるそうです。 プレゼントのギフト券はクーリエ・ジャポンのご購入時にのみ利用できるということなので、ご注意ください。

クーリエ・ジャポンに興味がある方はどうぞ。

https://ca.reviewplus.jp/cjb/en202


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