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2009-10-11(Sun) [長年日記]
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白夜に惑う夏 (創元推理文庫)(アン・クリーヴス/玉木 亨)
「どういう感じなんですか」テイラーはいった。「こういう土地で育つというのは。わたしにはどうもぴんとこなくて。みんなに自分のことを知られているわけですよね」
「あら、みんなちょっとずつ秘密をもっているのよ。でなければ、とても正気ではいられないわ」(p.390)
イギリス最北に浮かぶ、国後島と同じほどの大きさの島に2万人2000人が住む「イギリス最果ての地」、シェトランド島を舞台にしたミステリ・シリーズ〈シェトランド四重奏〉第2弾が本書。
シェトランド島は夏を迎えていた。 夏は白夜がつづき、観光客が訪れる季節だった。 前作『大鴉の啼く冬』で知り合い恋人となった警部ジミー・ペレスと画家フラン・ハンターは、ビディスタという小さな町で開かれる展覧会に出掛けた。 展覧会はフランと、ベラ・シンクレアという町の有力者である画家の共同展覧会だったが、なぜか、会場の入りはまばら。 そんな中、会場を訪れていた一人の男が奇妙な振舞をはじめる。 男を落ち着かせたペレスに、男は自分には記憶がないことを告げる。 しかし、男はペレスが目を話した隙に姿を消した。
翌日、男は展覧会場の近くの小屋で縊死体となって発見される。 道化師の仮面を被った奇妙な姿で……。 検死の結果、男は自殺ではなく、他殺と判明。 ペレスは、スコットランド本土のインヴァネス警察から応援のために来島したロイ・テイラー警部とともに、複雑な人間関係が織りなる事件へと踏み込んでいく……。
ペレスやフラン、遺体の第一発見者といった登場人物の視点から重層的に語られていくストーリー、第一の殺人につづく第二の殺人、小さな共同体に隠された人間関係──前作の読者であれば、気付くと思うが、本書の構造は前作と非常に似たものとなっている。 しかし、それでいて、違う印象を持つ作品に仕上げている点は、アン・クリーヴスの練達の業といっていいだろう。
本書で目を引くのは、前作では第三者としてしか描かれていなかったテイラーの視点が盛り込まれていることだ。 エキセントリックともいえるほどのエネルギーを持つ刑事の過去や思いの一端が見えてくる。 本書のラストでリヴァプールへ栄転することが示されたテイラーだが、次巻以降にも登場することを期待したい。
冒頭に引用したように、前作、本作とも、その骨幹にはすべての住民が知り合いという小さな共同体がある。 国内作品であれば、同じく小さな集落を舞台とした横溝正史のミステリ作品群を代表としたものが思い浮かぶが、本シリーズには横溝作品のようなドロドロしたものは見られない。 それは一年中風が吹きずさみ、農作物に適さない大地であるがゆえに、放牧が中心となっているシェトランドという島の持つ雰囲気なのだろう。
現代英国ミステリの傑作といっていい作品である。 ミステリファンにオススメしたい作品だ。
本書につづく〈シェトランド四重奏〉第3弾の原書、Red Bornsは今年刊行されたとのこと。 早い邦訳の登場に期待したい。
- 翻訳:玉木 亨
- 東京創元社
- 1323円
書評/ミステリ・サスペンス




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