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2009-07-21(Tue) [長年日記]
_ [読書感想]7世紀のアイルランドを舞台にしたミステリ〈修道女フィデルマ〉シリーズの初短篇集──
今年の頭に読んだ『神の家の災い』は14世紀のロンドンを舞台にしたミステリだったが、〈修道女フィデルマ〉シリーズは時代を700年ほど遡り、場所も少しずれたアイルランドを舞台とするミステリ・シリーズだ。 本書はシリーズ初の短篇集である。
主人公フィデルマは美貌の修道女にして、裁判官として裁きを下すことのできるアンルー(上位弁護士)の資格を持つドーリィー(法廷弁護士)であり、さらにアイルランド五王国のひとつモアンの王位継承予定者(のちに王)の実妹でもあるという、スーパー尼僧。
本書には、彼女が解決を請われたもしくは巻き込まれた事件を描いた5篇が収められている。
フィデルマがローマ巡礼の際に居あわせた教会の毒殺事件を解決する「聖餐式の毒杯」、 友人に着せられた殺人容疑を晴らすべくフィデルマが奮闘する「ホロフェルネスの幕舎」、 宿屋で起きた幽霊騒動を描いた「旅籠の幽霊」、 アイルランド大王の王位継承を巡る事件の謎を解く「大王の剣」、 1500年もの間、開かれてこなかった墓陵にあった真新しい死体を巡る密室殺人「大王廟の悲鳴」と、バラエティに富んだ作品集となっている。
フィデルマは明晰な頭脳を武器に、今でいうところの「科学捜査」を展開して、事件を解決に導いていく。
科学捜査の発展の歴史を綴った『シャーロック・ホームズの科学捜査を読む』(E・J・ワグナー/日暮 雅通)
を読むと、現代的すぎるのではないかと違和感を覚えてしまうのだが、まぁ、それはご愛嬌。
本書の読みどころは、なんといっても作品に書き込まれる7世紀のアイルランドの姿。 王族から庶民まで様々な階級の人々。 アイルランドの政治体制や法律、風俗。 当時のアイルランドの空気がページから鮮やかに立ち上がり、作品に奥行きを持たせている。
逆にいえば、各作品からアイルランド的なものを省くと、ページ数の少なさと相俟って、かなり単純なストーリーになってしまう。 そのため、本格的なミステリを望む読者には少々物足りなく感じられるかもしれない。 ここは読み手の好みに大きく左右されるところだろう。
〈修道女フィデルマ〉シリーズは今回初めて読んだのだが、本書からでも充分楽しむことができる。 手軽に読める分、シリーズ入門書としてもオススメできる一冊だ。
- ピーター・トレメイン/甲斐 萬里江 訳
- 東京創元社
- 903円
書評/ミステリ・サスペンス

