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ぽっぺん日記@karashi.org


2009-06-21(Sun) [長年日記]

_ [読書感想]白人社会を笑いとばした架空の日本人留学生──ハシムラ東郷(宇沢 美子)

日本人移民への排斥運動が激化していた1900年代、アメリカの新聞や雑誌で人気のコラムがあった。 著者は白人家庭で下僕としながら働き大学に通っているという日本人留学生、ハシムラ東郷。

白人と黄人はごいっしょできるか? 答えはハイです。そういう色っぽい事があるの、私ご存知ですから。

というようなヘタクソな英語を操り、慣れぬアメリカ社会の常識に戸惑うという内容だが、その裏には白人社会を笑いとばすという批判精神があった。

しかし、どちらが苗字が分からない、日本人から見れば奇妙としかいいようのない名前から分かる通り、ハシムラ東郷は架空の人物だった。 ハシムラ東郷の作者は白人の諷刺作家ウォラス・アーウィン。

著者は、なぜアーウィンがハシムラ東郷という、今となっては忘れさられてしまったイエローフェイスの仮面をかぶるようになったのか。そして、黄禍論による日本人排斥から太平洋戦争に至る日米の緊張状態の中で、どのようにハシムラ東郷が変化していったのかを丁寧に浮き彫りにしている。

奇妙に感じられるのは、映画が制作されるまでになったハシムラ東郷のヒットを受け、20世紀初頭に日系の作者によるという触れ込みのコラムや小説がアメリカ社会で広く読まれたという事実だ。 しかし、そのすべてが日系人ではなく、アーウィンと同じく、日系人に偽装した白人や中国系アメリカ人だったという。 差別意識の複雑さが透けて見えてくる。

アーウィンによってその姿を描写されなかったハシムラ東郷は、挿絵家たちにより

  • 出っ歯
  • 吊り目
  • メガネ

という、アメリカ人がイメージする日本人のシンボルとなるものを与えられた。

後に排日小説の代表作と呼ばれる『日ノ本』を上梓するアーウィンだが、彼は決して排日を進めようというつもりではなかった。 アーウィンが目指したものは、政治的に正しくなくとも、互いに互いを笑いあうことを可能とする世界だった。

なにかとpolitical correctnessばかりが優先する昨今だが、本当に差別を解消するためには、アーウィンの思想から学ぶべきこともあるはずだ。 そんなことを考えさせられた一冊である。


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