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ぽっぺん日記@karashi.org


2009-05-17(Sun) [長年日記]

_ 一大歴史ノンフィクション、遂に完結!──第三帝国の興亡5 ナチス・ドイツの滅亡(ウィリアム・L・シャイラー/松浦 伶) 第三帝国の興亡5 ナチス・ドイツの滅亡(ウィリアム・L・シャイラー/松浦 伶)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

ナチスの勃興と第二次世界大戦の勃発を目撃したジャーナリストである著者が厖大な資料と証言からナチス・ドイツの誕生から終焉を描いた本シリーズも、本書で遂に完結。 いよいよ総ページ数、2300ページ以上に渡る一大ノンフィクションも幕を迎える。

本書の読みどころは三つある。

ひとつめがナチスによるユダヤ人大虐殺──ホロコーストだ。 目撃者の証言や捕虜に対する尋問などから、ナチスが「最終解決」と名付けたユダヤ人絶滅作戦の姿が浮き彫りにされる。

戦慄を覚えるのは、ユダヤ人をいかに効率よく殺すかに様々な試行錯誤が重ねられたことだ。 当初、銃殺された占領地のユダヤ人たちは「ガス・ヴァン」で殺されるようにあった。 ガス・ヴァンとは密閉された有蓋のトラックで、アクセルを吹かすと、排気ガスが車の中に入るように設計されているものだ。 「別の土地に移動する」と騙されてヴァンの乗せられたユダヤ人たちは、充満する排気ガスにより殺害された。 本書にはガス・ヴァン製作者の訴えが紹介されている。 それによれば、殺害したユダヤ人の遺体を荷台から下ろすために、殺害を担当した特別行動隊(アインザッツグルッペン)の兵士の間に、今でいうPTSDに似た症例が発症したことが報告されている。 無辜の人々を虐殺する自国兵士の心理状態を心配する、この矛盾!  一度に15人から20人を殺すことしかできなかったヴァンは「非効率」とされ、より巨大な殺害工場というべきガス室へと発展していくのである。

いったい何人のユダヤ人が犠牲になったのか。 ニュルンベルク裁判の法廷で示された起訴状に書かれた数字は570万人。 ある研究者によれば、犠牲者の数はもう少し低く、419万4200人から458万1200人の間とされている。 あまりにも厖大すぎてリアリティを感じることができない数字だ。 第二次世界大戦中にドイツが占領した地域に住んでいたユダヤ人の数は約1000万人。 その約半数、つまり2人に1人が殺されたのである。 ちなみに、ホロコーストの代名詞ともいえるアウシュビッツ強制収容所では90万人が殺されたとの研究がある。60万人がガス室で殺され、30万人以上の「不明者」が銃殺や収容所の過酷な環境といったなんらかの原因で命を落とした。

ふたつめの読みどころはドイツ国内の反ナチ勢力によるヒトラー暗殺未遂事件だ。 特にクローズアップされているのが〈ヴァルキューレ〉と名付けられた暗殺計画。 トム・クルーズが主演して話題になった映画『ワルキューレ』の元ネタといえばいいだろうか。

興味深いのは、ドイツ人全般について厳しい視線を持つ著者が、計画の実行者クラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐(映画でトム・クルーズが演じた人物である)だけはベタ誉めといってもいいほど持ち上げていることだ。 好機が何度もあったにも関わらず、暗殺を実行することを躊躇い、シュタウフェンベルクによる暗殺計画発動後も腰の定まらない対応をとってクーデターの失敗を招いた参加者たちを扱き下ろしているのとは対照的である。

当初、暗殺計画の参加者たちはヒトラーの排除に成功した暁には、英米と和平を行ない、共同で東部戦線でソ連と戦うつもりであったらしい。 その論拠はチャーチルの共産主義嫌いというもの。 今から見ればあまりにも現実離れした考えだったといえるだろう。 ここから思い起こされるのは、敗戦直前の日本政府が和平の仲介をソ連に依頼しようとしていた歴史的事実。 戦争の負けがこんでくると楽観主義が蔓延するのは東西関係なく起きる現象のようだ。

そして三つめの読みどころは本シリーズのクライマックスというべき、ドイツの終焉である。 ノルマンディー上陸作戦、西部戦線でのドイツ軍一大反攻作戦──「バルジの戦い」、ソ連軍のベルリン侵攻、ヒトラーの死。 様々なエピソードから12年3ヶ月と9日つづいたドイツ第三帝国の滅亡が綴られていく。

本書から受ける印象は、ドイツ国民に対する著者の視線は厳しすぎるのではないかというものだ。 たしかにヒトラー率いるナチスに国を任せたことをはじめとして、その責任は限りなく重い。*1 しかし、ソ連軍兵士によるベルリン市民に対する略奪(特に女性に対するレイプ事件の多さは筆舌に尽しがたい)に代表されるように、ドイツ国民も安くはない代償を支払ったのだ。 著者は占領政策について

占領軍によって統治され、彼らのおかげで法と秩序を保った(p.416)

と書いているが、それほど生易しいものではなかったはずだ。

さらに指摘しておきたいのが、『消えた百万人』(ジェームズ・バグー著, 申橋昭翻訳)で明らかにされているように、ソ連だけでなく、米英軍もドイツ軍捕虜の虐殺を行なっていたということだ。

著者は1990年に書かれたあとがきで統一ドイツに対する懸念さえ表明しているが、これは、はっきりいって妄想レベル。 時の西ドイツ首相は著者を「ドイツ嫌い」と罵ったそうだが、それもむべなるかなという気がする。

著者は1993年に亡くなったが、もし現在まで存命だったとしたら、母国であるアメリカのジョージ・W・ブッシュ政権が起こしたイラク戦争によって、無辜のイラク国民が10万近く(場合によってはそれ以上)犠牲になったという事実をどう考えるのだろうか。 ブッシュ大統領を批判しただろうか。 それともアメリカ流の正義を唱えただろうか。 結局、著者が言うような「正義の戦争」などというものは存在しないというのが私の結論だ。

異も唱えたが、『第三帝国の興亡』が将来も読み継がれていく第一級のドキュメンタリであることは間違いない。 戦争をなくすためには戦争を知らなければならない──我々が『第三帝国の興亡』を読み、過去を振り返る最大の意義はそこにある。

最後に、もう一度、本シリーズ全5巻を献本していただいた東京創元社様にお礼を述べたい。 素晴しい本をどうもありがとうございました。

シリーズを通しての読書感想



第三帝国の興亡5

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書評/歴史・時代(F)

*1 それは日本にもいえることだが、ここでは措いておく。

_ 今日のできごと

午前中は雨降りだったので晴耕雨読モードで読書。ヤバい社会学(スディール・ヴェンカテッシュ/望月 衛) ヤバい社会学(スディール・ヴェンカテッシュ/望月 衛)を読了。

午後は強風が吹き荒れる中、買い物や掃除や畑など。

_ 今日の畑

強風でトマトハウスが崩壊しそうになったので、慌てて応急処置。

柱に使っている竹が何本か折れたので、今度の土日に交換しないといけないなー。

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