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2009-04-24(Fri) [長年日記]
_ [読書感想][SF]プレ〈特異点〉にある近未来を描いた一作──レインボーズ・エンド(ヴァーナー・ヴィンジ著/赤尾 秀子訳)
ヴァーナー・ヴィンジの7年ぶりの作品にして、ローカス賞およびワールドコン・Nippon2007のヒューゴー賞受賞作が本書。 〈特異点〉を唱えたヴィンジだが、本作では高度にコンピュータ・ネットワークが発達しつつも、〈特異点〉を迎えるまでには至っていない近未来を描き出している。
時は2030年代。 ラホールで行なわれていたサッカーのハーフタイムに流れた、なんの変哲もないヌガーのCM。 しかし、それはマインドコントロールを目的とした細菌兵器の実験だった。 事態を察知したEU、インド・ヨーロッパ連合、日本の諜報機関の合同チームは、サンディエゴのバイオ研究所で行なわれていると思われる細菌兵器開発の証拠を押えるべく、"ウサギ"と呼ばれるクラッカーを潜入させれる作戦を立案する。 しかし、その背後には世界の運命を左右する陰謀が隠されていた。 一方、サンディエゴでは、末期のアルツハイマーにあった高名な詩人、ロバート・グーが高度治療の成功により、ティーンエンジャーの外見となって死の淵から生還した。 情報化された社会を知るため、フェアモント校に通いはじめたロバートだが、そんな彼に"ウサギ"が接触してくる──。
『遠き神々の炎』
ではNewsgroup(懐しい!)をモチーフにした銀河情報ネットワーク、
『最果ての銀河船団』
ではOSI参照モデルを元ネタにした、人間を素材とするコンピュータ・ネットワークを創造したヴィンジだが、本書に登場するものは、ずばり現代のインターネットを延長した社会。
作中の2030年代には、人々のほとんどはウェアラブル・コンピュータを身につけ、常にネットワークと接続されているというユビキスタス社会が到来している。
人々は喋りながら、自分が知らないことについてググり(2030年代にもGoogleがある!)、裏でサイレント・メッセージと呼ばれる、インスタント・メッセージやtwitter、wassrのプライベート・メッセージに相当するものでテキスト・チャットをしている。 AR(拡張現実)も日常のものとなっていて、様々な情報は視界にスーパーインポーズされるだけでなく、現実にファンタジーなど好みの世界観をオーバレイさせることや、遠く離れた友人のもとにアバターを飛ばし会話することさえ可能になっている。
また、現存するすべての本を裁断しデジタル化をしようとする、最近、日本でも著作権の関係で問題になっているGoogleブック検索を過激にしたようなリブラレオーメ計画も進展している。
家族の絆の再生や、一見繁栄を極めながらもその実は滅亡の淵に立つ世界といったファクターもストーリーに織り込まれているが、それらは言ってみれば刺身のツマ。 本書のメインテーマは近未来世界の日常を描くことにある。 読者は、2030年代についてなんの予備知識もないロバートの視点で、徐々に世界の姿を知ることとなる。
ただ、日常に重点が置かれた分、ストーリーに少々盛り上がりが欠けている面もあるというのが正直な感想だ。 個人的にはもうちょっとアクションシーンや、諜報機関によるエスピオナージュ要素が読みたかった気がする。
とはいえ、SF者のツボを突くイーガン・サッカーのようなネタや、ピング(ping)やレイヤー、ルータ、ノードなんてテクニカル・ワーズがなんの説明もなくぽんぽん飛び出すあたりにはニヤニヤさせて貰いました。 一般読者にはちょっとツラいが、SF属性な人にはオススメ。
解説によれば、本作と同じ設定を使った未訳の中短編が2本あるとのこと。 なんだか決着がついていないような感じ("あの人物"の正体も分からないし!)の本書の続篇に期待しつつ、中短編がS-Fマガジンにでも訳されないかなーとwktkしておこう。
- ヴァーナー・ヴィンジ/赤尾 秀子 訳
- 東京創元社
- 987円
書評/SF&ファンタジー

