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2009-03-30(Mon) [長年日記]
_ これからの環境問題と経済を考える上での必読書──『グリーン革命』(トーマス・フリードマン著/伏見 威蕃訳)
日本経済新聞出版社様より本が好き!経由で献本御礼。
『フラット化する世界』で、インターネットを中心とする情報革命により世界の貧困層がミドルクラスへと引き上げられていることを説いた著者が、「フラット化」のその先にある環境問題を浮き彫りにするとともに、その解決策を提言しているものが本書。
本書上巻のオビによれば、本書を読んだオバマ米大統領は
「21世紀を制するのは、グリーン・テクノロジーとグリーン・エネルギーで主導権を握った国である」
と言ったそうだが、その言葉を裏付けるかのように、オバマ大統領は経済危機を乗り越えるために、温暖化防止ビジネスへの積極的な投資を掲げた「グリーン・ニューディール」政策を打ち出し、ポスト京都議定書でも積極的にイニシアティブを握っていくことを表明している。 まさに、オバマ政権のネタ元といっても過言ではない本である。
著者は
- エネルギーや天然資源への需要の増大
- 産油国と石油独裁者への莫大な富の集中
- 地球温暖化を中心とした破壊的な天変地異(著者は温暖化という表現ではなまぬるいいので「地球惑乱」と呼ぶべきだとしている)
- 電力を持つものと持たざるものを二分するエネルギー貧困
- 動植物を絶滅に追いやる環境破壊
という五つの地球を脅かす環境問題を描き出すとともに、地球を救うための施策「コード・グリーン」を提言している。
著者のいうコード・グリーンで目を引くのは、環境問題対策をビジネスチャンスとしているところだ。 これまで環境保護といえば、とかくボランティアベースの反資本主義的なものが多かったように思うが、コード・グリーンはそのような動きとは正反対だ。 環境を守りながら経済的成長を目指すという指標は、非常に現実的なアプローチといえるだろう。
ただ、著者の主張はいちいちもっともなものなのだが、どうしても引っかかりを覚えるのは、取り上げられている環境問題のかなりの部分が、著者が「環境問題対策によって世界をリードしていく国」とするアメリカによって引き起こされたものだからだ。
最近になって中国によって抜かれるまで温室効果ガスの最大排出国(それも断トツの一位)だったのはアメリカだ。 京都議定書より離脱し、その効力をいちじるしく減じたのもアメリカ。 世界中に物や文化を売り捌くことによって、大量消費を是とするライフスタイルを拡散させたのもアメリカ。 サウジアラビアに原油取引を通じて多額の資金を渡し、テロリストを支援し、女性を抑圧する独裁政権を支えているのもアメリカである。
さらに書けば、間違った情報でイラク戦争を始めたばかりか、その後の占領政策に失敗し、凄まじい数の無辜のイラク国民が命を落とす原因をつくったのもアメリカ。 めちゃくちゃな金融政策によって金融危機を招き、世界を恐慌に叩き込んだのもアメリカだ。
そんな訳で本書を読んでいて鼻白む箇所は多々あるのだが、それでもアメリカの底力を感じるのは、かの国が持つ自浄作用だ。 国民は、環境問題にはまったく目を向けなかったブッシュ大統領のあとに、環境問題を重視するオバマ大統領を選んだ。 本書の下巻後半で語られているように、石油産業などの抵抗勢力の力は依然根強いが、これまで燃費規制に強硬に反対してきた自動車産業がビッグスリーの衰退によって崩れたことにより、オバマ政権がグリーン政策を進める障壁はぐっと低くなったといえるだろう。
アメリカ国民の気運は環境重視に傾いている。 最近のニュースでは、なんとカリフォルニアでは冷却効率の落ちる黒塗りの車が禁止されそうだという。 もし、規制法案が州議会を通過すれば、他州にも波及することは必至のようだ。
著者は本書の中で日本を環境重視先進国として持ち上げている。 日本人としては嬉しくない訳ではないのだが、勘違いというか、美しい誤解があるように感じるのが正直なところだ。 著者は日本の高いガソリン価格について次のように書いている。
税制と価格統制によって、日本の現在のガソリン価格……市場に先導されているアメリカの倍に及ぶ。政府はその税収を、太陽光のような再生可能エネルギーで日本が主導的な立場を得られるよう利用している。(下巻:p.128)
そうであれば、どんなに良かったことか。実際にはガソリンの税収の大部分が道路に遣われていることはご存じの通りである。 つい先日には、経済危機を脱する政策として、CO2排出削減に逆行するかのような「1000円高速道路」がはじめられた。 本気を出したアメリカに、リードしているはずの日本が追い付かれてしまうのも、あっという間ではないのかという危惧を覚える。 為政者も日本国民もそれを真剣に考える時が来ている。
原著の出版後に起きたリーマン・ショックに端を発する世界同時不況は、本書で語られている様々な動きにも確実に影響を受けているはずだ。 それが良いか悪いかは不明だが、これだけは胸に刻んでおきたい。 環境問題のツケを払うことになるのは我々ではない。 我々の子どもたちであり、その孫たちなのだ。
これからの環境問題と経済を考える上での必読書である。
- トーマス・フリードマン/伏見 威蕃 訳
- 日本経済新聞出版社
- 1995円
書評/社会・政治




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