ぽっぺん日記@karashi.org
2008-12-10(Wed) [長年日記]
_ エコ・ブームに踊らされる前に、まずはこの本で温暖化予測を知るべし──
地球温暖化の予測は「正しい」か?―不確かな未来に科学が挑む(DOJIN選書20)(江守 正多)
地球温暖化問題の関心の盛り上がりは、今や、一大ブームと言っていいだろう。 CO2削減のスローガンを見ない日はないし、ブームだけ一人歩きしているような様への反動からか、地球温暖化に懐疑的な意見をネットや書籍で目にする機会も多くなってきた。
しかし、そもそも、地球温暖化の予測はどのようなプロセスを経て立てられているのだろうか。 結局、そこを曖昧にしたままに騒いでいるようであれば、「ブームに踊らされている」と非難されても仕方がないのかも知れない。
本書では、コンピュータ・シミュレーションである「気候モデル」を中心に、これまであまり触れられてこなかった地球温暖化予測の仕組みがまとめられている。
なかなか硬そうな内容であるが、さすがはDOJIN選書である。 地球温暖化のメカニズムから易しい語り口で解説されていて、門外漢にも嬉しい本になっている。 著者は、気候モデル作成の専門家であり、2007年にノーベル平和賞を受けたことも記憶に新しい国連機関「気候変動に関する政府間パネル」の活動に携わった経験を持つ、まさにその道のプロである。
本書でなんといっても目を引くのが、地球温暖化予測の主役とも言うべき気候モデルだ。
「コンピュータの中の地球」である気候モデルには、初期値として、国際情勢や経済状態を表わした「社会経済シナリオ」と、CO2などの排出ガスの吸収量を表現した「排出シナリオ」が与えられる。 そこから大気の運動量、エネルギーや水蒸気、陸面、海面など膨大な量の方程式が計算されていき、将来の地球の大気の状態が予測されていく。 なお、著者が関わる気候モデルは、あの地球シミュレータで動かされているそうだ。
しかし、2004年11月まで世界一の計算能力を誇った地球シミュレータとはいえども、地球全体をシミュレータできる訳では当然ない(ちなみに、現在、世界49位の地球シミュレータは2009年に倍速にアップグレードされるとのこと)。
まず、地球を一片100キロメートルの升目に分割する。 そして、その「グリッド」と呼ばれる升目の中で起きている、計算するにはあまりにも複雑すぎるミクロな現象を「パラメタ」として抽象化するのである。
このパラメタ化が気候モデルを作成する部分が、著者によれば「半分は理論、半分は経験」というもので、研究者の腕の見せ所になるらしい。 技術者は、そのパラメタをチューニングし、過去の観測データに適合するように調整していくのである。
ここで思い浮かぶのが、パラメタは恣意的なものになるのではないか? という疑問だ。 つまり、パラメタを好き勝手にいじれば、観測データに適合するようにいくらでも調整できるのではないかということである。
著者によれば、気候モデルを作成する際に、各グリッドでパラメタを変えるのは御法度。 全地球で同じパラメタを使用しなければならないという暗黙のルールがあるために、もちろん完全ではないが、信頼してもいいものなっているそうである。
気候モデルの信頼性を見る上で面白いエピソードが紹介されている。
気候モデルのパラメタを、ほとんどの過去の観測データにはそれなりに沿う形にチューニングしたのだが、どうしても1940年代の観測データとは適合しない。 どうしてなのかと悩んでいたところ、ある事実が判明した。 第二次世界大戦終結の前後に、アメリカの観測データが急減し、イギリスの観測データが急増したということがあったのだ。 両者で観測方法が異なるため、本来であるならば、データの補正が必要だったのだが、その補正が施されていなかった。 現在、その補正を組み込んで計算し直されている最中とのことだが、気候モデルの数値と観測データよりよく一致する方向になりそうだとのことである。
ちなみに、気候モデルについて、プログラミングを多少書く人間として興味深かったのが、次の一文。
気候モデルの「実体」はフォートランというプログラム言語で書かれた、数万行のプログラム(p.72)
科学技術の分野では、今でもFORTRANが使われているという話は読んだことがあるが、やっぱりそうなんですか、と驚かされた。 FORTRANは使ったことないのではっきりとは言えないが、数万行というのは、プログラムの規模にしては短いような気がするが、どうなんだろうか。
「温暖化予測業界」に身を置く著者であるが、できるだけ中立であろうとする著者の姿勢には好感が持てる。
著者は温暖化によって生じるであろう、平均気温の上昇や海面の上昇など様々な環境の変化と、それらが我々に与えることが考えられる影響──農業や水不足、健康上の問題──を挙げていくが、ことさらその危険性を大声で叫ぶようなことはしない。
また、エコ・ブームのひとつのきっかけにもなった米元副大統領ゴア制作の映画『不都合な真実』を俎上に載せて、地球温暖化をセンセーショナルに扱いすぎていると冷静に批判を加えている。
あとがきでは、地球温暖化を巡る騒ぎについての著者の本音がちらっと覗く。
地球温暖化の科学に対する一般向けの書籍は、どういうわけか温暖化研究の専門家でない人によって書かれたものが多いようです。そういう本を書いた人も、そういう本を読んだ人も、気候モデルや温暖化予測がどういうものか、勝手に想像して信じたり、勝手に想像して批判したりしていたのではないでしょうか。(p.235)
地球温暖化予測を肯定するにしろ否定にするにしろ、エコ・ブームに踊らされる前に、まずは本書で専門家の言葉に耳を傾けてはいかがだろうか。 本書を読むことによって、地球温暖化予測が信用できるものなのかどうかを判断する材料を得ることができるだろう。
地球温暖化に揺れる今だからこそ読むべき一冊である。
- 江守 正多
- 化学同人
- 1785円
書評/サイエンス




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