ぽっぺん日記@karashi.org
2008-12-06(Sat) [長年日記]
_ [読書感想][HORROR]親の七光りなんて言わせない! スティーブン・キングの息子の傑作短篇集──
今年はあまりホラーを読んでいないオレが書くのもおこがましいが、これは今年の翻訳ホラーの中でもベスト級の一冊ではなかろうか。
作者ジョー・ヒルは、なんと、あのスティーブン・キングの次男。 最初、「スティーブン・キングの息子」というアオリを読んだ時、比喩的な意味かと思っていたら、実際にそうなのでビックリさせられた。
ホラー界の大御所の息子ともなれば、どうしても「親の七光り」という言葉が付いて回る気がするが、ヒルについてはそんなものとは無縁。 なにしろ、身元を隠して書き上げたデビュー作である本書でブラム・ストーカー賞、英国幻想文学大賞、国際ホラー作家協会賞に輝いているそうだ。 なんというか、「ホラー作家の血」でしょうかね。
本書には全部で18篇の作品が収録されている(謝辞の6ページ強の短篇も含む)。 古びた映画館に出現する女の幽霊譚を通じて映画と怪談への愛を謳い上げる表題作「二十世紀の幽霊たち」をはじめとして、どれも高水準のものばかりだ。
いくつか印象に残った作品を挙げておこう。
子供を標的にした誘拐殺人鬼と攫われた少年との息詰まる対決を描いているのが「黒電話」。 単体でも充分面白いが、雑誌掲載時にカットされた最終章が「黒電話[削除部分]」として収録されているため、カットが正解だったのか失敗だったのか、読者が判断するという別の楽しみ方もできる。
「おとうさんの仮面」では、子供の目を通して危うい家族関係が幻想的な筆致で描き出される。 色々と深読みできる一作だ。
「自発的入院」は、本書のベスト。 子供の頃、男の子であれば、ダンボールかなにかで秘密基地を作った経験があるのではないかと思うが、それをホラーに仕立っててしまう手腕が素晴らしい。 「レン高原」というフレーズが登場するので、もしかしてクトゥルフ神話? とか思っていたところ、やはり、そうだったらしい(東雅夫氏の解説より)。
充実したノンホラー作品群についても特筆しておきたい。
たとえば、4作目として収録された「ポップ・アート」は、声を大にして告げたい大傑作である。 ごくたまに風船として生まれる人間がいるというスーパーナチュラルな舞台設定でありながらも、友情と別れのストーリーには、思わず涙腺が緩くなってしまった。
障害を持つ主人公とメジャーリーグの監督を勤める父親との交流をテーマにした「うちよりここのほうが」も余韻の残るラストが堪能できる作品だ。
ジョージ・A・ロメロの大ヒット作となる『ゾンビ』に、ゾンビ役のエキストラとして出演し再会することになった元・恋人たちのほろ苦い人生と恋に迫る「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」は、なんとも変わった舞台で繰り広げられる同じくノンホラーの短篇だが、作者のゾンビ映画への愛が感じられて微笑ましい。
日本語版『20世紀の幽霊たち』には、欧米では200部限定の函入りハードカバーにしか収められなかったボーナス・トラックが入って総分量700ページ弱の読み応えのある一冊となっている。 それでいて、価格が980円(税込)という千円札1枚でお釣りがくる嬉しい価格設定は、まさにお値打ちもの。
ホラー小説好きにはもちろんのこと、普段「ホラー小説なんて」と嫌厭する向きにも強く強くオススメしておきたい一冊である。 後悔はしないはずだ。
