ぽっぺん日記@karashi.org
2008-11-02(Sun) [長年日記]
_ [読書感想]ポワンカレ予想に関わった数学者たちの姿を描く一冊──
先日読んだ『世界の測量』|の主人公のひとり、カール・フリードリヒ・ガウスは「微分幾何学」の創始者とされている。 その「微分幾何学」と双璧をなすのが、フランス人哲学者にして数学者アンリ・ポアンカレが大系づけた「位相幾何学」(トポロジー)である。
ポアンカレが生み出し、100年に渡って数学者たちを悩まし続けた「ポアンカレ予想」が解き明かされる歴史と、その解明者である数学者に迫ったのが本書。 昨年末に放送されたNHKスペシャルの書籍化である。
1904年、アンリ・ポアンカレはある命題を自分の論文の最後に記した。
「単連結な三次元閉多様体は、三次元球面と同相と言えるか」
数学的素養のない人間にとっては、なんのことだがさっぱり意味が分からないが、一般人向けにそれは次のように訳される。
宇宙に巡らせたロープが回収できるなら、宇宙は丸いと言えるはずだ。
これが「ポアンカレ予想」である。
100年間に渡り解かれることのなかったこの命題は2002年、ロシア人数学者グレゴリ・ペレリマンが突如発表した論文によって解き明かされる。 この功績を讃えられペレリマンにノーベル賞以上に権威があると言われる数学会最高の栄誉、フィールズ賞が与えられることになったが、彼はその受賞を辞退し、100万ドルの賞金も受けとらずに姿を隠した。
なぜ、ペレリマンは姿を隠さなればいけないかったのか。 そして、なぜ、ポアンカレ予想はこれまで解かれなかったのか。 これまでポアンカレ予想に関わってきた数学者へのインタビューを軸に、本書はその歴史ドラマを描いていく。
本書を読み終えて「ポアンカレ予想がなんなのか分かったのか?」と問われれば、「なんとなくどういうものだか理解できたような……」くらいにしか答えられないのだが、とにかく数学者という「人種」がかなり一般からかけ離れた知性の持ち主だということは理解できた。
面白いのは、著者自身もポアンカレ予想について理解できなかったと告白していることだ。 著者はあとがきで次のように述べている。
ご協力くださったどの数学者も、素人のレベルに合わせようと懸命に噛み砕いて話してくださるのだが、その内容が九割がたわからない。(p.225)
数学者たちの話す内容を理解するためには「数学語」という言語を身につける必要があると本文で著者は書いている。
著者の意見には賛成なのだが、私でも少しだけ理解できたのが、1960年代にポアンカレ予想の研究にブレークスルーをもたらした数学者スティーブン・スメール博士の語る内容だ。 四次元や五次元といった高次元をどうやって想像するのだと問われた博士はこう答える。
三次元では、ひとつの点を三つの数で表しますね。座標(X1, X2, X3)です。これが五次元の場合、五つの数(X1, X2, X3, X4, X5)で記述できます。(p.111)
プログラムで言えば、変数を増やすということだろう。 初心者向けのプログラムを解説した本には「変数は値を入れる箱で……」云々といったことが書かれているが、ある程度プログラムを書くようになると、そんなことは意識せず、あくまでも「変数」としか認識しないようになる。 たぶん、それに近いことなのではないかと思う。*1
本書の元になったドキュメンタリーも見たが、どちらが理解しやすかったと言えば、やはりビジュアル的に補完されていたテレビ・ドキュメンタリーに軍配が上がる。 しかし、書籍版も分からないところはじっくり読めるという長所があるので、やはり両者を(読む|見る)ことで相乗的に理解が深まるのではないかと思う。
ちなみにYouTube探したところ、テレビ・ドキュメンタリーがアップされていたので、リンクを貼っておく(ニコ動にもあったようだが、削除されていた)。 視聴するならば、お早めに。
NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影
日本放送出版協会
¥ 1,365
*1 ロクなプログラムが書けないオレが、こんなことを書くのもおこがましいが。

