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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-10-26(Sun) [長年日記]

_ [読書感想]トム・ロブ・スミス『チャイルド44』を全力でオススメする

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)(トム・ロブ スミス/Tom Rob Smith/田口 俊樹)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)(トム・ロブ スミス/Tom Rob Smith/田口 俊樹)

各所で絶賛されているので読んでみた本作だが、たしかに評判に違わぬスゴイ本。 大傑作の太鼓判を押せる一作だ。

時は1953年。 スターリン体制下にあるソ連・モスクワで男児の死体が発見される。 様々な不審な点があったにも関わらず、その死は単なる事故として処理される。 なぜなら、ソ連には幼児殺しのような重大犯罪は存在しないという大前提があったからである。 遺族を説得し事故として納得させた国家保安省のエリート捜査官レオ・デミトフは、 あるスパイ容疑者の拘束に成功するものの、部下の策謀により片田舎の警察官へと左遷される。 モスクワを遠く離れた地でレオが見たものは、彼が事故として処理した遺体の状況にそっくりな少年の死体だった。 一般人の移動が厳しく制限されているはずのソ連を徘徊する連続殺人犯が存在するのか? すべてを失ったレオは独自の捜査を開始する……。

実際にあったチカチーロ事件をモチーフに、時代を30年以上ずらしたソ連を舞台にして作者が徹底的に描いていくのは、ソ連という全体主義国家が内包していた「歪み」である。

その歪みを体現しているのはレオを陥れた部下ワシーリーだ。 出世の階段を昇るためならば、兄を告発することも厭わないという性格の持ち主として設定され、レオを苦しめることに暗い情熱を燃やす。

レオもまたその歪みと無縁でいる訳ではない。 ストーリーが進展すると、一見愛しあっている理想的な夫婦に見える彼と妻ライーサに存在する歪みが明らかになっていく。

だが、それも当たり前なのだ。 国家保安省の辣腕捜査官であるレオは、数々のスパイ容疑者を収容所や処刑台に送った経験を持つ。 内心でその無実を確信しながらも、である。 言ってみれば、ソ連という巨大な暴力装置の走狗なのである。 普通の結婚生活を営める訳がないのだ。

ある出来事によりソ連の体制に疑問を持つようになったレオは幼児連続殺人事件についての捜査を進める。 しかし、それは常に逮捕される危険性を伴い、場合によっては命を奪われかねないものだ。 なぜなら、体制が「ソ連には犯罪は存在しない」としている以上、そこから外れる行動はすべて国家への反逆なのである。

殺人鬼はこれからも殺しつづけるだろう。それが可能なのはそいつが並はずれて利口だからではない。そういう人間がいることを国家が認めようとしないからだ。(下巻・p.200)

とレオが考える通り、国家が連続殺人犯を結果的に擁護してしまうというグロテスクな状況が浮き彫りにされていく。

読み進めている間、ひりひりとした空気を終始感じさせる本書であるが、ラストには希望の光が見える。 それをリアルではないと感じる向きもあるのではないかと思うが、個人的には歓迎したい。 たとえフィクションであったとしても、やはり人生には希望が必要だと思うからだ。

デニス・ルヘイン の『運命の日』と並び、今年の収穫のひとつとして数えられる海外小説作品だ。 全力でオススメする次第。

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)
トム・ロブ スミス/Tom Rob Smith/田口 俊樹
新潮社
¥ 740

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)
トム・ロブ スミス/Tom Rob Smith/田口 俊樹
新潮社
¥ 700

参考


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