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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-09-11(Thu) [長年日記]

_ 「騙された!」と唸ること請け合いの秀作パズル・ミステリー──ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)(D.M. ディヴァイン/Dominic Devine/中村 有希) ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)(D.M. ディヴァイン/Dominic Devine/中村 有希)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

英国ミステリー作家、D・M・ディヴァインの長篇ミステリーが本書。

個人的には、昨年、創元推理文庫から刊行された『悪魔はすぐそこに』につづく、2冊目のディヴァイン作品になる。

さすがはパズル・ミステリーの名手、ディヴァイン。 読了後、思わず「騙された!」と唸ること請け合いの秀作ミステリーに仕上がっている。

ストーリーは歴史学者モーリス・スレイターが、著名な作家にして兄弟同然に育てられた幼なじみジョフリー・ウォリスの屋敷〈ガーストン館〉を訪ずれるシーンからはじまる。 ジョフリーの妻、ジョリアから夫の様子がおかしいとの連絡を受け、来訪を請われたためだった。 久しぶりに再会したジョフリーは老け込み、憔悴しきっていた。 どうやら、ジョフリーの兄ライオネルから脅迫を受けて悩んでいるようだった。 ジョリアに支えになってほしいと頼まれ、〈ガーストン館〉にしばらく滞在することを承諾したモーリスだが、彼もまた悩みを抱えていた。 離婚した妻に引き取られたひとり息子クリスがジョフリーの長女アンと婚約しようとしていたが、名家との結婚を望むジョリアに強行に反対されていたのだ。 様々な人間が〈ガーストン館〉に集まり、それぞれの思惑や緊張感をはらんだやりとりがなされる中、悲劇が起きてしまう……。

本書の特徴をあげるとするならば、なんといっても、まず筆頭にくるのがフーダニット隠しの秀逸さだ。 種明かしをされてみれば、「なんで分からなかったんだろう」と思わずにはいられないシンプルさなのだが、さらっと書かれている上、ストーリーに融合したミスディレクションに幻惑され、つい見過ごしてしまうのだ。 ディヴァインの手練の技が光っているといっていいだろう。

次にくる特徴が、書き込まれた人間模様の巧さだ。 大成したジョフリーにコンプレックスを持つ主人公モーリス、 母親に吹き込まれたことを信じ、モーリスに胸襟を開くことを拒むクリス、 ジョフリーとライオネルの因縁など、掘り下げられた登場人物と彼らの関係がストーリーに深みを与え、本書を単なる「犯人探しミステリー」からひとつ上の次元の作品へと押し上げている。

キャラクター描写の巧みさは脇役について同様だ。 たとえば、モーリスとスコットランドヤードのカズウェル警視がモーリスと事件について話すシーンの一節。

警視は私にお茶と食べ物の皿を手渡す作業で忙しくしていた。手慣れたその動作に、彼が家庭的であることがうかがえる。(p.164)

これ以上、警視の家庭的な面には触れられないのであるが、警視という登場人物へ命を吹き込む一文といっていいのではないかと思う。

ただ、犯人のホワイダニットの面だけはどうにも腑に落ちない。 これは『悪魔はすぐそこに』の感想

犯人の考えが理解できない(○○していた○○を○○するなんて!)

と書いた通り、両作品に共通している要素なので、もしかするとディヴァインの特徴なのかもしれない(まだ2作しか読んでいないので断言できないが)。

少々文句も書いたが、ミステリーとして高水準の一冊である。安心して読める良作ミステリーといっていいだろう。

訳者あとがきによれば、『悪魔はすぐそこに』と本書は「ディヴァインをなるべくたくさん訳そう」企画の一環とのこと。 つづく第3弾、第4弾を楽しみに待ちたい。


ウォリス家の殺人

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書評/ミステリ・サスペンス

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