ぽっぺん日記@karashi.org
2008-09-09(Tue) [長年日記]
_ めちゃくちゃ面白い幻のエンタメ小説が復刊だ──
エヴァ・ライカーの記憶 (創元推理文庫)(ドナルド・A. スタンウッド/Donald A. Stanwood/高見 浩)
1912年4月14日に起きた〈タイタニック〉沈没事件をテーマにしたミステリが本書。 1978年に原書が刊行され好評を博し、翌1979年には文藝春秋から邦訳が出版され、その年の「週刊文春傑作ミステリー・ベスト10」の4位に輝いた作品である(ちなみに、当時の「ミステリー・ベスト10」には国内・海外作品を一緒に集計していたとのこと)。
長らく絶版状態にあって、幻の名作ともいわれていたそうだが、実際に読んでみたら、これがめちゃくちゃ面白い! 評判に違わぬ大傑作である。
本書のストーリーは1941年11月30日、日本海軍による真珠湾攻撃直前のハワイからはじまる。 風光明媚なその地で、2件の殺人事件が起きる。 犠牲者となったのは、フロリダから来た観光客の夫婦。 夫アルバート・クラインは毒殺され、妻マーサはホテルの自室でバラバラ死体となって発見された。 マーサの死体を見付けたハワイ警察巡査ノーマン・ホールはショックのあまり職場放棄をし、警察を放逐されることとなる。
それから20年余の1962年──。 第二次世界大戦を経て、ホールは作家として成功しパリに住んでいた。 そんな彼のもとに舞い込んできたのが、ジュネーブに隠者のように住む大富豪ウィリアム・ライカーが立ち上げた〈タイタニック〉遺留品引揚プロジェクトに関するルポルタージュの執筆依頼だった。
ホールの脳裏に警察を辞める原因となった殺人事件の記憶が甦る。 生前のマーサ・クラインが夫婦が〈タイタニック〉沈没事件からの生還者であることを話していたのだ。 偶然の一致に驚きながらも、ホールは〈タイタニック〉へ執着するライカーと殺人事件が迷宮入りとなっていたクライン夫妻へ興味を抱き、仕事を引き受ける。 しかし、それは50年前と20年前の悪を目覚めさせるものだった。 関係者へのインタビューをするため世界各地を飛び回るホールへと延びる妨害の魔の手。 そして、遂に殺人事件が……。
〈タイタニック〉沈没とクライン夫妻殺人事件を結ぶものはなにか? ライカーの真の目的とは? 〈タイタニック〉から生還しながらも刹那的な人生を送るライカーの娘エヴァの記憶の闇に隠された真実とは? 謎が謎呼ぶ展開に手に汗握りながら一気読みしてしまうこと間違いなしだ。
本作の最大の特徴をあげるならば、ミステリはもちろんのこと、サスペンス、ハードボイルド、パニック小説、冒険小説まで、これでもかといわんばかりにエンターテイメイント要素を詰め込んだジャンルミックス小説ということだろう。 並の作家であれば、こんなことをすれば収拾のつかない事態に陥ってしまうのではないかと思うが、きっちりひとつの作品にまとめつつも、こんな「めちゃくちゃ面白いエンタメ小説」に仕上げた作者の手腕は見事の一言に尽きる。
ストーリー構成もまた素晴しい。 第1部では主人公ホールがイギリス、オーストラリ、スペイン、スイス、アメリカ各地、そして日本と、まさに世界をまたに掛け調査をし、徐々に真相に近付いていく。 そのまま、ハードボイルド・タッチで事件解決に進むのかと思いきや、なんと第2部では一転、関係者一同を集めた謎解きへと雪崩れんでしまうのだ。 ミステリファンであれば、ここで両手を叩いて喜んでしまうに違いない。 さらに、それは〈タイタニック〉の処女航海出港から沈没までの5日間のドラマあり、どんでん返しありの200ページなのである。 これほど長大かつ濃密なミステリ解決篇は例を見ないのではないだろうか。
本書を読む前にぜひ、未見の方は
劇場公開10周年記念/セリーヌ・ディオン来日記念 タイタニック (アルティメット・エディション) [DVD]を鑑賞してから頂きたい。
〈タイタニック〉の最後がヴィジュアル面で補完され、本書を読む楽しさが2倍、3倍になること確実である。
ちなみに、この映画、個人的には出来はいまひとつだと思うのだが、〈タイタニック〉をてっとりばやく知るという意味では類を見ない資料ではないかと思う(研究者によって間違いがいくつも指摘されているが、それはご愛嬌)。
本書は作者ドナルド・A・スタンウッドのデビュー作にあたる。 川出正樹氏の解説によれば、この後、スタンウッドは幻の名車ブガッティ・ロワイヤルをテーマにしたミステリを書いたそうだが、箸にも棒にも掛からぬ出来だったそうで、小説家としての経歴は本作で終わってしまったようだ。 そういう意味で典型的な一発屋だった訳だが、このような傑作を書き上げたということは充分、歴史に名を残す偉業といえるだろう。
別にいいじゃないか。これだけ見事な一発を打ち上げてくれたのだから。(p.557)
という川出氏の言葉に大いに頷ける一冊だ。 エンタメ小説好きには一も二もなくオススメしたい。
- 高見 浩
- 東京創元社
- 1470円
書評/ミステリ・サスペンス





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