ぽっぺん日記@karashi.org
2008-09-05(Fri) [長年日記]
_ マキリップの紡ぎだす幻想に溢れた短編15本が楽しめる一冊──
ホアズブレスの龍追い人 (創元推理文庫)(パトリシア・A. マキリップ/Patricia A. Mckillip/大友 香奈子)
幻想の紡ぎ手と称されるファンタジー小説の書き手、パトリシア・A・マキリップの初・短篇集が本書。 個人的には『オドの魔法学校』につづく、2冊目のマキリップの本である。
ファンに出版を待望されながらも、マキリップの作品の邦訳ペースはかなり遅いようだ。
本書が起爆剤となって、マキリップ作品の邦訳刊行が続くことを望みつつ、既刊を消化したいと思う。
[ オドの魔法学校 (創元推理文庫 F マ 9-1)(パトリシア A.マキリップ) - ぽっぺん日記@karashi.org (2008-02-20)より引用]
などと書いたが、こんなに早く翻訳が進むとは思わなかった。 嬉しいかぎり。
本書に収められているのは、1982年から1999年までの17年間に書かれた15の短篇。 すべてファンタジー作品ではあるが、その内容は幅広い。 たとえば、表題作「ホアズブレスの龍追い人」や「音楽の問題」では他のファンタジー作品でもおなじみのドラゴンや吟遊詩人が登場するし、「バーバ・ヤーガと魔法使いの息子」や「ひきがえる」は民話や童話を下敷きにしている。 その他、「悪い星のもとに生まれて」はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の翻案もの、現代風の「雪の女王」や「ジャンキットの魔女たち」なんていう作品もある。
それぞれの作品は短編なのでボリュームこそないが、長編と比較しても質が決して落ちていないのはスゴいところ(ただ、「灰、木、火」だけはなんだか訳が分からなかった)。
文章も適切な訳とあいまって美しい。 たとえば、「ホアズブレスの龍追い人」で龍追い人とその案内人となった主人公の旅を様子を描写する次の一節。
夜の空は昼間とおなじように重苦しく、陰気で星ひとつない。灰色の霧に目覚めて、旅をつづけた。冷気がまわりにたちこめ、古い象牙のように黄ばんだ氷の壁がふたりの上にそそり立っていた。冷たい汗に似た海のにおいがする。(p.26)
情景の眼前に浮かんでくるようだ。 さすがはマキリップと唸らせられる。 剣と魔法のありきたりのファンタジーに飽きた読み手はもちろん、ファンタジー初心者にもオススメしたい一冊だ。
最後に個人的な収録作ベストスリーをあげておこう。
- 1年のほとんどを氷に閉じ込められたホアズブレス島が龍を求め島を訪ずれた龍追い人をきっかけとして崩壊する顛末「ホアズブレスの龍追い人」
- 姿を消した女王お気に入れの吟遊詩人を探すため魔法の国に入った5人の戦士・兼・主婦の冒険「ドラゴンの仲間」
- スラブ民謡に登場する魔女バーバ・ヤーガの活躍をユーモラスに描いた「バーバ・ヤーガと魔法使いの息子」
- 大友 香奈子
- 東京創元社
- 1155円
書評/SF&ファンタジー





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