ぽっぺん日記@karashi.org
2008-06-27(Fri) [長年日記]
_ [読書感想]日本警察小説のひとつの頂点──
これはスゴイ本。
佐々木譲による三代に渡る警官を描いた大河警察小説が本書。
先日、『夜にその名を呼べば』で久しぶりに佐々木譲作品を読んだのがきっかけで手に取ったのだが、ハードカバーで約800ページという大作ながら、ぐいぐい引っ張られて一気読みしてしまった。 『このミステリーがすごい! 2008年版』の第一位に輝き、惜しくも受賞は逃したものの直木賞にもノミネートなので、こんなことを書くのもいまさらだが、文句なしに太鼓判を押せる大傑作である。
本書のストーリーは安城家の祖父、父、息子と受け継がれていく警官の血脈を軸に語られる。 戦後の混乱期に警察官に任官した清二、安保闘争の嵐が吹き荒れる60年代に父親のような駐在に憧れながらも北大の過激派に潜入する覆面捜査官になった民雄、90年代に警察官となるも汚職警官を密かに内偵することになる和也。 この3人の物語を貫くのが、昭和20年代に起きた男娼殺人事件と鉄道員殺人事件という二つの事件である。この事件を巡って3人は運命を翻弄されることとなる。
どのパートもその時代の空気とそこに生きた安城家の男たちを活写して読み応えがあるのだが、なんといっても圧巻なのが、和也が主人公をつとめる第3部である。 北海道で起きた稲葉事件を下敷きにしたと覚しき汚職に手を染める警察官と前述した2つの殺人事件の真相、そして祖父と父の人生を通して、正義とはなにか、警察官の本分──「地域の平和と市民の安全を守る」とはどういうことなのかを読み手に激しく突き付けてくる。
原稿にして2000ページという長さが目立つ本書であるが、個人的には、いくらでも長くなる要素を持った親子孫三代の物語にもかかわらず、ここまですっきり収めることができたことに驚かされた。 雑夾物を排し、ぎりぎりまで絞り込む手練の技があったからこそ、長さを感じさせないハイテンポの作品が成立したといえるだろう。 その過程で、伏線の回収がなされていないように感じられる箇所もあるが、これについては真相は読者に委ねられていると解釈したい。
真犯人が早い段階で分かってしまうという欠点はあるものの、本書が本邦警察小説史上のひとつの頂点として刻まれる作品であることは間違いない。強くオススメしたい作品だ。
稲葉事件について
この本についての個人的な読書感想はこちら。

第三部和也は「地域の平和と住民の安全を守る」という祖父の善良なおまわりさんの血をそのまま受け継ぐことなく変質したものになっていく。そのように暗示させて怖いです。
あー、なるほど。確かにそういう読み方もできますね。実は肯定的に読んでました。 > 第三部<br>ラストの笛を吹くシーンからすると、作者としては肯定しているんでしょうけども。