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2008-06-26(Thu) [長年日記]

_ スカイシティの秘密―翼のない少年アズの冒険 (創元推理文庫)(ジェイ エイモリー/Jay Amory/金原 瑞人/圷 香織)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

大異変が起きた後の世界を舞台に、空中都市と地上で繰り広げられる冒険を描いたジュブナイルSFが本書。


スカイシティの秘密

Amazonで購入
書評/SF&ファンタジー

ハイテンポなストーリーに引っ張られて一気に読める作品である。 その一方で、やはりSFには屁理屈であっても理屈が欠かせないことを逆説的に再認識させられる作品でもあった。

本書の主人公は、地表数キロの柱の上に建設されたスカイシティに住む16歳の少年アズ。 大異変後、生存者が作り上げたこの空中都市群に住む天空人(エアボーン)たちは翼を生まれ持つ人々だった。 しかし、アズは生まれつき翼を持たない数少ないエアボーンであり、それゆえコンプレックスを抱えた人生を送っていた。 折しもスカイシティを統べる行政都市シルバーサンクタムでは深刻な問題が持ち上がっていた。 スカイシティが物資の供給源として全面的に依存している地上からの輸送が途絶えたのだ。 その原因調査を行うために派遣される人物として白羽の矢が立った者こそ「翼がない地上人(グラウンドリング)にそっくり」なアズだった。 アズはかつてどんなエアボーンも赴いたことのない未知の地へ送り込まれることに……。

ジュブナイルSFの王道とでもいうべき、地上へ降りたアズの成長譚 + 地上人の少女キャシーとのボーイ・ミーツ・ガールなストーリーが展開されるのだが、去年読んだ『移動都市』(フィリップ・リーヴ)と同じく、少年がひ弱で、少女が男勝りという人物造形はなかなか面白い。 そういえば、どちらもジュブナイルSFであると同時に、英国SFでもある。 日本と同じく(?)あちらでも、女性の方が男性より元気なのかもしれない。

内容的には、あらすじからその『移動都市』ばりの傑作冒険SFを想像していたのだが、結果から書けば、少々期待はずれの出来だった。

その理由のひとつがストーリーがあまりに平坦であること。 全体的な雰囲気は悪くはないのだが、盛り上がる場がほとんど見られず、だらだらと続いているような印象を受ける。 それなりに魅力的な主人公たちに対する悪役がキャラ立ちしていない点もその印象を強めている。

もうひとつの理由が背景世界に説得力がないということだ。 これが冒頭で

やはりSFには屁理屈であっても理屈が欠かせない

と書いた理由。

たとえば、作中では天空人たちがどのように翼を持つに至ったかについて全く触れられていない。 ちらっとでもいいので過去に行なわれた遺伝子改良や、理論を実証した科学者の名を偉人として登場させておけば、設定にぐんと深みが増したと思うのだが。 せっかく冒頭に博物館のシーンを持ってきているにもかかわらず、非常にもったいないと感じた。

また、スカイシティと地上に関係にリアリティがないところも気になる。 荒れ果てた地上とそこから資源を搾取することにより成立している空中ユートピアという構図は、木城ゆきとのSF漫画『銃夢』に登場する「クズ鉄町」と空中都市「ザレム」と同じものである。

だが、『銃夢』と本書で大きく異なる点は、ザレムがクズ鉄町に暴力的な手段を含む、様々な「働きかけ」を行ない、その関係を永続させようとしていたのに対し、スカイシティは物資の供給がストップするまで地上に対してなんのアプローチもしてこなかったことだ。 作中でも示唆されるようにスカイシティ自体が構造的に脆弱な面を持っていることをあわせて考えれば、不自然すぎる政策と言わざるをえないだろう。

ジュブナイル小説であるがゆえに、小難しい設定やダークな要素を省いたとも考えられるが、そのために本書は「SF」というよりはおとぎ話に近いという意味での「ファンタジー」になってしまっているのは残念だ。

本国では本書の続篇が刊行されているとのことである。 邦訳が読めるまでまだ時間がかかりそうだが、続篇は主人公アズの成長にあわせて、おとぎ話ではなく、SFへと成長していることを期待したい。

移動都市 (創元SF文庫)
フィリップ・リーヴ/安野 玲
東京創元社
¥ 987

銃夢 1 (YOUNG JUMP愛蔵版)
木城 ゆきと
集英社
¥ 2,625