ぽっぺん日記@karashi.org
2008-06-01(Sun) [長年日記] この日を編集
_ 無軌道なグローバル化を修正せよ──世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す(ジョセフ・E. スティグリッツ/Joseph E. Stiglitz/楡井 浩一)
本が好き!経由で献本されたものをシルフレイ様から回して頂きました。 御礼申し上げます。
著者はクリントン政権と世界銀行で政策立案に携わり、その後にノーベル経済学賞を受賞したスゴイ人。
そんな著者がグローバル化の軌道修正について提言したのが本書だ。 経済についてはまったくのド素人だが、経済用語を使わない平易な文章で書かれており、なかなか面白く読めた一冊だった。
先進国、途上国問わず、世界のどこであっても機会が均等に訪れるようになり、貧困も徐々に撲滅されていく、というものがグローバル化についての一般的な考え方である。
しかし、著者の主張はその逆。 グローバル化の加速によって先進国と途上国の格差は広がっているというものだ。
これだけであれば、コーヒー豆をテーマにしグローバル化の問題を告発した書、『コーヒーの真実―世界中を虜にした嗜好品の歴史と現在』を読んでいたので、まぁ、そうだろうなという印象なのだが、本書の特筆すべき点は、貿易や経済だけでなく、政治、外交、知的財産権、資源問題、地球温暖化などの環境問題、多国籍企業、借款、と非常に多岐に渡った角度からグローバル化の問題点を浮き彫りにするとともに、その解決策を論じていることだ。
- 最貧国はIMFや先進国から援助を得る代償として、様々な条件をむりやり押し付けられる。
- 先進国は途上国に不利な貿易協定をごり押しする。
- 先進国は途上国に市場開放を要求する一方、途上国が稼げるはずの農業分野については、国内農業の保護を優先し市場開放には応じない。
- 先進国や多国籍企業は途上国から資源を収奪し環境を破壊する。
など、様々な問題点が俎上に上げられるが、その中でも特に興味深かったものが、薬品に関する知的財産権問題である。
世界中には古来から伝わる植物を使った民間療法がある。 なんと欧米の製薬企業が中心になって、そのような植物を「再発見」し、特許を取得しているというのだ。 これを「バイオパイラシー」(「パイラシー」=「海賊行為」)と呼ぶらしい。 これだけでも怒りを覚えるところだが、さらにスパイスであるターメリックの治療目的効果の特許までも取得したというのだから怒りを超えてあきれてしまう(幸いにも、その特許は最終的には無効になったらしいが)。
このような破廉恥なふるまいをしているにも関わらず、エイズやマラリアなど命に関わる疾病のジェネリック薬品が開発途上国で出回るのを全力で阻止し、ブッシュ政権もそれを支持しているというのだから言葉を失う。著者がこの解決策のひとつとして示す、先進国は途上国に医薬品を原価で提供すべきという案には深く頷けた。
傾聴すべき意見が多く含まれている本書であるが、問題点があることも指摘しておきたい。 そのひとつが筆者の提示する解決策があまりにも理想主義的でありすぎることだ。
著者はまとめの第10章で、グローバル化を正常化するためには我々の意識改革が必要だと説き、次のように書いている。
わたしたちは日増しに強くグローバル経済の影響を受けていながら、依然として、不合理なまでに局地的な考えかたをする。(中略)わたしたちは、自分の福利に直接かかわりのある事柄にしか注意をむけない。アメリカの綿花生産者は補助金制度から自分が得るもののことだけを考えて、世界の何百万人もが失うもののことには思いがおよばないのだ。(p.403)
これが立派な提言だということは否定しない。 だが、実際、我々の一人一人がこのような気持ちを持てるかと言えば、難しいだろうというのが正直な感想だ。 だいたい、隣町の住人のことを考えて生活することさえ難しいのだ。 ましてや世界の人々のことを考えて生きるなどということは、全世界の住人が繋がるような、よほどのテクノロジーの発達でもない限り不可能ではないかと思わざるをえない。
もうひとつの問題にして最大のものが、著者は終始、第三者的な視点を崩さないが、本書で挙げられているグローバル化の問題のいくつかは、著者自らその立案に関わり実行したために生じたのではないかというという点だ。 誠実さを示すためにも、少なくともその弁明くらい記すべきではなかったのかとは感じた。
以上のように、問題点もなくはないが、グローバル化を考える上では非常に参考になる書であることは間違いない。 本書をグローバル化の「暗」の部分を記した本とするならば、その「明」の部分を書いた『フラット化する世界』と読み比べてみると興味深いのではないかと思う。
最後に、本書の序文(邦訳版のみ)で、著者はサブプライムローン問題の引き金となったアメリカにおける住宅バブルの崩壊に警鐘を鳴らしている。 この点は素直にさすがと言うべきだろう(残念ながら、著者の警告は政策担当者には受け入れられなかったようではあるが)。
- ジョセフ・E. スティグリッツ
- 徳間書店
- 1890円
書評/ビジネス
2008-06-02(Mon) [長年日記] この日を編集
_ 企業戦士たちへの哀悼歌──夜にその名を呼べば (ハヤカワ文庫JA)(佐々木 譲)
早川書房様より本が好き!経由で献本御礼。
佐々木譲についてはそれほど熱心な読み手ではないのだが、たまに読む度に「やっぱり、面白いなぁ」と感心させられる。
記憶にあるところだと『ベルリン飛行指令』や『昭南島に蘭ありや』、『総統と呼ばれた男』などはメチャクチャ面白かったし、最近では『制服捜査』が素晴しい出来の短篇集だった。
だが、本書『夜にその名を呼べば』については、その存在は知りつつも、なんとなく手に取る気にならず、ここまで来てしまった。 そんな作品の新装版が献本在庫に登録されたので、これもなにかの縁だと思い献本して頂いた次第。
結論から書くと、とても面白かったですよ。 昨日届いたのだが、あまりに面白くて一気に読んでしまった。
物語は1986年のベルリンからはじまる まだソ連が存在し、ベルリンも東西に分断されていた時代である。 欧亜交易のセールス・エンジニア、神崎哲夫は彼が関わった貿易が騒動になっていることを知る。 その取引が対共産圏輸出統制委員会(ココム)規則違反とされたのだ。 事件への対応をしようとした神崎だが、取引の仲介者が殺害されていた。 動揺する神崎を追い討ちをかけるように、彼もまた何者かに銃撃される。 証拠隠滅を図る親会社が彼の抹殺を企てたのだ。 さらには上司の殺害の濡れ衣をかけられ、警察にも追われる身となった神崎は東側に亡命することを決意。ベルリンの壁の向こうに消える──。
それから5年。 日本に住む神崎の母の元に統一されたベルリンから一通の手紙が届く。 それは神崎からのメッセージだった。 小樽港にきてください──。 同様の手紙は5年前の事件の関係者に届いていた。 神崎に殺されたとされた上司の娘、西田早紀の元にも。 続々と小樽へと向かう関係者たち。 神崎が帰国することを察知した警視庁公安部もまた小樽へ向かう。 関係者一同が集結した小樽の地で復讐劇の幕が開ける──というのが本書の骨子。
読書の興を削ぐので、本書の肝である復讐劇について書けないが、ラストは少々あっさり気味でありつつも、そこから溢れ出る寂寥感は胸にぐっとくる。 本書の解説で池上冬樹氏が、本書を「悲哀と孤独と絶望を醸しだして印象的」と表現しているが、まさにその通りだ。
本書を今まで手に取らなかった理由を考えるとみると、ココム違反という本書の導入部が1992年という本書の発表当時でさえ、古めかしく思えたせいではないかと思う。
しかし、今読んでみても、本書からは決して古びた印象を受けない。 その理由は、本書のテーマが「体制」や「組織」といったものではなく、忠誠を尽くしたにも関わらず報われない(それどころか切り捨てられる)個人という存在にあるからだろう。
親会社から抹殺されそうになっていることに気付いた神崎の嘆き、
終身の雇用を期待し、忠誠を尽くしてきた企業が、かくも冷酷に無慈悲に、社員の処分にかかっているのだ。(p.104)
や、神崎の母の述懐、
かわいそうなのは、日本の男性たちね。会社に尽くすだけ尽くして、生きる喜びなんて、ろくに楽しむこともできずに枯れ果ててしまう。企業戦士、なんて言葉をまるで讃えるように口にする人がいるものね。日本の男は、兵隊としての人生を生きればそれでいいと思っているみたい。(p.419-420)
はもちろんだし、穿った見方をすれば、殺害され「警察官はただ職務を果たしているだけなのに」と言われる刑事もそうだろう(個人的にはこの刑事については殺されても仕方がない感じはするが)。
「終身雇用」という言葉は既に半ば死語になりつつあるが、本書が書かれた当時はまだ日本全体で信じられていたものだった。 そんな状況の中で、身を粉にして働く「企業戦士」たちが活躍していたのだが、 本書は、そんな企業戦士たちへの「会社にいくら尽くしても報われない」という著者なりの警告とも捉えることができるかも知れない。
ひたすら重厚なストーリー展開で、「明るさ」がほとんどない本書であるが、営業本部次長が自分はビジネスウィークを定期購読しているのでアサヒゴルフしか読まない専務より能力があると心の内で呟いてみたり、石原裕次郎記念館を「正体不明の施設」と称してみたり、武闘派の刑事が印象そのままの「格闘技通信」を読んでいたりと、時折挿入されるユーモアとも皮肉ともつかない隠し味にニヤリとさせられたことも付記しておく。
傑作とまではいかないが、オススメできる佳作であることは間違いない一冊だ。
次の機会には、『このミステリーがすごい! 2008年度版』の栄えある1位に輝き、池上冬樹氏も大激賞の佐々木譲作品『警官の血』を読もうと思う。
- 早川書房
- 798円
書評/ミステリ・サスペンス
2008-06-04(Wed) [長年日記] この日を編集
_ 動物についてのトリビア満載の一冊──
動物の値段―シャチが1億円!!??(白輪 剛史)
atronさんがレビューされていて非常に面白そうなので読んでみた本。確かにこれは面白い!
動物園で飼われている動物たちがどうやって入手されるかご存知だろうか。 動物商という専門の業者から買われるそうである。
そんな動物商である著者が「商品」として扱われる、様々な動物の値段から輸入方法、輸送手段、飼育方法まで解説しているのが本書。 知らないよりは知っていた方がいいが、たぶん、大部分の人の役には立たない知識が満載の一冊だ。
のっけから驚かされるのが、「百獣の王」と名高いライオンの価格がその名前に反して45万円とかなり安いこと。 その理由というのも、ライオンは交尾すればたいてい妊娠するという多産系なためで、各動物園は殖えすぎないように苦労しているそうだ。
うむむ。まったく知りませんでした。
このほか、
- ペンギンの糞はとんでもなく臭い!
- シャチは虫歯と口臭に悩まされている。特に口臭がヒドい。
- アナコンダの価格は1cmあたり500円。ただし、全長3mを超えると、1cmあたり約2000円まで跳ね上がる。
なんていう、たぶん本書でしかお目にかかれない情報が、最近話題になったパンダの年間レンタル料1億円といった話とともにバシバシ紹介されている。 トリビア好きの読み手にはたまらないに違いない。
冒頭では、個人が猛獣を飼う時の心構えが記してあるが、
万一、食い殺されても「おいしかったかい?」と言えるくらいの心構え(p.9)
が必要だそうである。 なんとも凄い覚悟が要求されるのですなぁ。
著者の夢は、キリンを見たことがないレバノンの子どもたちのために、キリンを買ってレバノン唯一の動物園に寄付することだそうだ。 素晴しい夢なのだが、その一方で、2005年に著者は「絶滅のおそれのある動植物の種の保存に関する法律違反」で逮捕され、現在公判中とも書かれていて、うーむとうなってしまった。
動物商とは清濁あわせ持った、誠に人間臭い商売と言うことができるだろうか。
2008-06-06(Fri) [長年日記] この日を編集
_ ドイツ第三帝国の誕生を描く──第三帝国の興亡〈1〉アドルフ・ヒトラーの台頭(ウィリアム・L. シャイラー/William L. Shirer/松浦 伶)
東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。
同時代を生きたジャーナリストである著者が膨大な資料を駆使しながら、「千年帝国」と呼ばれつつもわずか12年余で幕を閉じたドイツ第三帝国の興亡を描いた歴史書シリーズの第1巻が本書。
名著の声が高かったにもかかわらず、長らく絶版状態にあった本シリーズが訳も新たに復刊されたことをまず喜びたい。
個人的には『第三帝国の興亡』というと、スティーブ・エリクソンの『黒い時計の旅』の冒頭で引用されていたことが記憶に残っているが、『黒い時計の旅』を読んでから10年近くも経って本書を読むというのも、なんだか感慨深いものがあったりする。
本書で扱われる時期は、ヒトラーの誕生から1934年にナチスによる独裁体制が確立するまで。 ヒトラーの生い立ちから筆を起こし、赤貧を洗うような青年期、第一次世界大戦、ナチス入党、ビアホールプッチの失敗といった歴史を追うとともに、第三帝国の思想の背景にあるものを冷静な筆致で描き出している。
軍事オタクのはしくれであるので、第三帝国についてはある程度知っているつもりでいたのだが、いざ「ヒトラーはどうやって権力を握ったのか?」と問われれば、「ナチスに入党して、ミュンヘン一揆(ビアホールプッチ)を起こして投獄されて、獄中で『我が闘争』を書いて、出獄したあと、えーと、それからどうしたんだっけかな……」と答えに窮してしまうような、あやふやな知識しか持っておらず、本書で第三帝国の誕生の経緯をまとめて読めたのは収穫だった。第三帝国の歴史の概略程度の前提知識は要求されるため、「入門書」としては少々難しい書であるが、第一級の資料であることは間違いないと言っていいものと思う。
本書で一番興味深かった箇所は、ナチスが議会で議席数を増やしつつ独裁体制を確立していく過程だ。
ヒトラーが激烈なインフレにさらされたドイツ国民に掲げた公約、
ドイツをふたたび強国にする、賠償金支払いを拒否する、ヴェルサイユ条約を破棄する、汚職を一掃する、金満家どもを(とくにユダヤ人を)やっつけ、国民各員が仕事を持ち、パンが買えるようにする。(p.279)
によって、第二党までに躍進するというあたりは、 時代と関係なく、国民の耳に心地良いスローガンを打ち出せる政治家が国民の人気を得られるんだなぁと分かって面白かった。
だが、ここで注目したいのは、ナチスが議会の過半数を占めた訳ではないことだ。 ヒトラーが首相に就任した後の、ヒトラー生涯最後の民主的な選挙においてのナチスの得票率は全体の約44%。 ふんだんな資金を遣った
国営ラジオからヒトラー、ゲーリング、ゲッペルスの声をはじめて電波に乗せて、全国津々浦々に流した。鉤十字旗のはためく通りには、SA(引用者註:突撃隊)の靴音がリズムを刻んだ。大集会、松明行列があち、広場という広場では拡声器ががなりたてた。掲示板にはけばけばしいナチのポスターが貼られ、夜は篝火が丘を照らし出した。(p.388)
という未曾有の選挙キャンペーンを張った結果がこうなのである。
ヒトラーについては、よく言われる「大衆の絶大な支持を得たため」という見方よりも、脆弱なワイマール(ヴァイマル)体制を利用した天才的な政治センスの方が独裁体制を確立する上ではより強い意味を持っていたのではないかと思う。
というのも、当時、ドイツは
- 少数政党が乱立し政権が安定しない。
- ヒンデンブルク大統領が老齢のため、指導力が低下していた。
- 陸軍が「国の中の国」と呼ばれるほど政府から独立しており、文民統制下にない。
- 司法は右翼活動には甘く、左翼活動には厳しく罰した。
- 政治団体が私兵集団を持ちテロ活動が横行した。
などなど、枚挙にいとまがないほどの政治的な問題点を抱えた上、 さらに権力者の間では、
誰が誰を裏切っているやら、陰謀を企てている当人にもわからなくなってしまった。(p.352)
という奇っ怪な陰謀の網が張り巡らされている始末だったのだ。 そのような政治状況下をうまく立ち回り、権力を奪い取ったヒトラーの姿が本書から立ち上がってくる。
その後、反対する議員を逮捕するという、なんと評していいのか分からない非民主的な手段によって「全権委任法」を可決し政治的なフリーハンドを得たヒトラーは、一気に独裁体制を進めていく。1年間でヒトラー内閣が成し遂げたことは次のようなものだ。
自党を除く他の政党をつぶし、領邦政府とその議会をなくして連邦制を廃止し、ドイツ帝国の統一を果たした。労働組合を一掃し、あらゆる種類の民主主義的結社を踏み潰し、ユダヤ人を公職と知的専門職から追放し、言論出版の自由を否定し、裁判の独立性の息の根を止め、長い歴史と教養にあふれた国民の政治、経済、文化、社会生活をナチの規制で"統制"した。(p.423)
さらに、陸軍との軋轢を増していたエルンスト・レーム率いるSAを粛清し、陸海軍の支持を取り付け、ヒンデンブルクの死後、遂に名実ともにヒトラーはドイツ第三帝国のトップになるのである。
その他、本書でもその日記が数多く引用され、のちにヒトラーの死を見届けることになるゲッペルスが当初はヒトラーと敵対していたことや、『わが闘争』が1940年までに600万部を売り上げる大ベストセラーだったが筋金入りのナチ党員でも読むのが楽ではないとこぼす内容だったこと、ヒトラーは税務当局との悶着に絶え間がなかったことなど、新たな発見の多い書だった(ただ、ヒトラーが唯一愛した女性をアンゲラ(ゲリ)・ラウバルとするのは異論もあるところだとは思う)。
第2巻ではヒトラーが総統に就任してからチェコスロヴァキアの併合が描かれるとのこと。 楽しみだ。
- 松浦 伶
- 東京創元社
- 2415円
書評/歴史・記録(NF)
2008-06-08(Sun) [長年日記] この日を編集
_ 米国発・医療版『地球の歩き方』──メディカルツーリズム(ジョセフ・ウッドマン/斉尾武郎)
医療版『地球の歩き方』(ただし、米国人向け)とでも言えるのが本書。
本書で扱われるメディカルツーリズムとは、
- 費用の節約
- 質の高いケア
- 保険でカバーされない治療
- 特殊な治療
などを求めて国境を越え海外で治療を受けることをいう。
日本ではあまり浸透していない言葉だが、米国では治療の選択肢のひとつとして認知されつつあるようだ。 ただ、これまでメディカルツーリズムをもてはやすメディアやblogがある一方、そのいかがわさしや危険性を指摘するメディアやblogもあるという状況が続いており、その評価は揺れている。
本書は「メディカルツーリズム」という言葉から連想される「レジャー」面を排し、純粋に医療面に焦点を当て、メディカルツーリズムが取り得る治療の選択肢であることを伝えるとともに、
ずっと安上がりで、合法的かつ安全に海外で治療する方法(p.12)
を伝授し、読者を「かしこい患者」へとアップグレードさせるためのガイドブックだ。
本書は3つのパートから構成されている。
まず、パート1「かしこいメディカルツーリストになるために」では、大はメディカルツーリストになる心構えからはじまり、信頼できる病院や医師、代理店の見分け方、かかる費用の算定、小は飛行機のチケットの取り方から持ち物、現地でのインターネット接続方法までと、まさに「微に入り細を穿つ」といった解説がされている。
つづくパート2「メディカルツーリストがよく訪れる地域」では、世界各地のメディカルツーが行なわれている医療機関がどんな治療を行なっているか、JCI(米国医療施設認定合同委員会国際部)の認証は受けているかといった情報が、言語やタイムゾーンといった基本情報とともに紹介されている。
リストに国家事業としてメディカルツアーを行なっているキューバ(『世界がキューバ医療を手本にするわけ』(吉田 太郎)を参照のこと)が入っていないのだが、米国と国交がないせいなのか、それほど高度な医療技術を持っているとは評価されていないのか、少し気になるところだ。
そして最後のパート3「情報源と参考資料」では情報源となるWebサイトや医療用語解説がされている。
ガイドブックとして非常によく出来ている本書であるが、問題は米国人向けに書かれているという点だ。 これが本書を
(ただし、米国人向け)
と表現した理由。
日本語訳版独自の補遺でも追加されていれば、こんなことを書く必要はなかったのだが、残念ながら本書はあくまでも原著を翻訳しただけで、日本人向けの情報が一切含まれていない。 現在のところ、メディカルツーリズムについて書かれた日本語の書籍が皆無な状況なので、本書の価値が非常に大きいことは認めるが、ガイドブックとしてはかなり実用度が下がるといわざるをえないというのが正直な感想だ。
パート2「メディカルツーリストがよく訪れる地域」で紹介されている病院のリストに「日本語が通じるか」という項目を追加する、または日本語が使えるメディカルツアー代理店を付け加えるだけでもだいぶ違ったと思うのだが。
日本人向けのメディカルツーリズムについてググってみたところ、アジア諸国で盛んになりつつあるようだ。
たとえば、本書でも紹介されているタイ・バンコクのバムルンラード国際病院は日本語のWebサイトを用意しているし(ただし、まだ翻訳中のページもある)し、台湾も
対外貿易発展協会は、「今後3年以内に、医療や美容目的で台湾を訪れる人の目標を年間10万人とする」と意気込む。台湾は特に日本人観光客の人気が高く、年間約116万人が訪れることから、当協会では今後、日本語に対応したホームページの作成や日本語のメールでの問い合わせ先を設けるなどしてPRに努め、医療や美容目的の日本人観光客の獲得をめざすとしている。
[【レポート】激化するアジアの医療事情 - 「メディカルツーリズム」市場に台湾が参入 | ライフ | マイコミジャーナルより引用]
というように力を入れている。
日本と米国の医療制度を比較した場合、一番大きな違いが国民皆健康保険制度の有無だろう。 個人的には給与明細の健康保険料負担の額を見る度に「高いなぁ」と思わず溜め息を吐きそうになるが、米国の次のような莫大な医療費と比較すれば安いものである。
カリフォルニア州サンタアナに住んでいるマーガレットさんは、抜歯1本、インプラント2ヶ所、歯冠2ヶ所で6600ドルかかると言われた。(p.14)
1ドル=100円としても、日本ではこの額の1/3程度の医療費で済むだろう(物価の違いを考えれば、その差はさらに開くはずだ)。
そう考えれば、
(1)国内では医療費が高い臓器移植を割安で受けられる、(2)国内未承認の新薬が使える、(3)美容整形などの保険外診療の費用が安く抑えられるなど
[【レポート】激化するアジアの医療事情 - 「メディカルツーリズム」市場に台湾が参入 | ライフ | マイコミジャーナルより引用]
といった一部のメリットを除けば、いくら海外の方が医療費が安いといっても、渡航費や滞在費、さらに海外で治療を受けるという潜在的なリスクが必要となるメディカルツーリズムの利点はあまりないように思える。
ただ、医療費が増加にともない国民健康保険の財政が圧迫されていることや、過酷な労働条件や訴訟の増加のため医療の現場を去る医師が増えていることなどから、日本の医療は崩壊の一歩手前だとも指摘されている。 もちろん、そのような状況に陥らないのが最善なのだが、メディカルツーリズムが選択肢のひとつとなる時代が訪れることも大いに考えられる。
そのような時代に備えるためにも、次回は日本人向けのメディカルツアー・ガイドブックが出版されることを期待したい。
そんな訳で日本人のためのガイドブックとしては少々物足りない面もなくはないが、メディカルツーリズムの概念を知りたい人、またメディカルツーリズムを検討している人にとっては大いなる一助となる書だといえるだろう。
- 斉尾武郎
- 医薬経済社
- 2940円
書評/健康・医学
_ Net::Whois::Rawをacドメインに対応させるpatchを書いた
whois.nic.acが、availableかNot availableしか返さないというダサい仕様なので、webからwhoisを引っ張ってくる Net-Whois-Raw-1.52 用のpatchを書いてみた。
http://www.karashi.org/files/Net-Whois-Raw-1.52.diff
慣れないPerlいじりをやって今日は疲れたので、明日にでもPerlハッカーの人にircでこれでOKなのか聞いてみる。 < TODO
2008-06-12(Thu) [長年日記] この日を編集
_ J・P・ホーガンもアッチに行ってしまいました──『揺籃の星』
本が好き!経由でシリーズ第2弾『黎明の星』を献本して頂いたので、長らく積ん読になっていた本書を引っ張り出してきて読了。
なぜ、ずっと積ん読になっていたかというと、金子隆一氏の解説が本書のトンデモ具合をこれでもかといわんばかりに強調していたため、恐れをなしてしまったからなんですな。
で、実際に読んでみたの感想。
……やっぱり、トンデモでした!!
土星の衛星に移住し科学者のユートピアを建設したクロニア人が地球を訪れ、「金星は木星から飛び出してできたんだよ! 地球も土星の衛星だったんだよ!!」とぶち上げる。 しかし、世界は
ΩΩΩナンダッテー
とはならず、まったく取り合わない。 クロニア人と古くから付き合い、その理論を信じる主人公は奮闘するも逆に世間の疑惑を深めるばかり。 そんな時、木星から分離し彗星と化したアテナが地球に影響を与えるほど接近することが判明する──というのが本書の骨子。
元ネタになったヴェリコフスキーの『衝突する宇宙』については、「と学界の本で読んだかも」くらいのことしか覚えていないのだが、そのトンデモなさは解説を読めば一発で分かる代物。 なんで、こんなトンデモ本を題材に使うかなー。 > ホーガン
ホーガンがデビュー作『星を継ぐもの』からずっと科学的な整合性よりも「センス・オブ・ワンダー」を優先する作風なのは承知していたが、「宗教は害悪だ」とでも言わんばかりの強烈な科学第一主義はそれなりに好きだった。 しかし、本作で展開される理論となると、科学というよりは『神々の指紋』や飛鳥昭雄のショックサイエンス、MMRの人たちに限りなく近い、オカルトや新興宗教に限りなく近いものだ。
いや、「ウソと分かりつつ大ボラを吹く」という態度ならいいのだ、別に。 だが、どうも本作を読んでいる限り、ホーガンはこの理論をある程度信じちゃっているようなのだ。 そうなると、「あぁ、ホーガンもアッチに行っちゃったのね」とちょっと悲しくなってしまう。
そんな訳で心情的には受け入れ難い作品なのだが、それでも後半から加速するジェットコースター・ストーリーにはぐいぐい引っ張られまくってしまった。 やっぱり、ホーガンのストーリーテリングの妙はすげぇーなーと感心した次第。
アテナ接近にともないバシバシ発生する天変地異の数々に、人はゴンゴン死ぬわ、都市は壊滅するわ、国家という枠組みは崩壊するわ、暴徒と化した難民は暴れまくるわで、パニック小説が好きな向きには特に楽しめるのではないかと思う。 まぁ、個人的には巨視的なカタストロフィ描写が好きなので、主人公べったりなミクロな視点の描写ばかりなのは、少し物足りなくもないが。
つづけて読む『黎明の星』がどういう展開になるのか。 怖い反面、ちょっと期待。
2008-06-13(Fri) [長年日記] この日を編集
_ ブラッドベリ(83)の珠玉の短篇集──
猫のパジャマ(レイ ブラッドベリ/Ray Bradbury/中村 融)
レイ・ブラッドベリの2004年発刊の最新短篇集が本書。
収録作は全21篇。 ブラッドベリの仕事場で日の目を見ず長年埋もれていて最近になり「発掘」された1940〜50年代の旧作と新作がほぼ半々の割り合いだ。
どの作品にも卓越したブラッドベリの筆が冴え渡っていて、まさに珠玉の作品集といっていい一冊だろう。 新旧をほぼ交互に配した構成でありながら、まったく違和感がなく読めるあたりは、さすがはブラッドベリである。 SF作品はほとんど収められていないので、SF者ならずともオススメできる書だ。
ちなみに本書の発刊当時、ブラッドベリは御年83歳! いつまでもこのような素晴しい作品を書き続けて欲しいと強く願う。
最後に、個人的な収録作ベスト5を挙げておく。
- ぬこ好きにはたまらない表題作「猫のパジャマ」
- 最後のどんでん返しが胸にずんとくる「完全主義者」
- 人種問題を鋭く描いた「さなぎ」
- なんとも物悲しいラストが印象的な「ふだんどおりにすればいいのよ」
- 変わった時間改変もの「マフィオーソ・セメント・ミキサー」
2008-06-14(Sat) [長年日記] この日を編集
_ やっぱり、ホーガン節は健在でした!!──『黎明の星』
黎明の星 上 (創元SF文庫 ホ 1-25)
東京創元社
¥ 882
黎明の星 下 (創元SF文庫 ホ 1-26)
東京創元社
¥ 882
J・P・ホーガンの最新作にして、 地球文明を壊滅させてしまったトンデモSF『揺籃の星』に続くシリーズ第2弾が本書。 全篇に渡ってストーリーテラー、ホーガンの技が冴え渡り、ぐいぐい読ませる傑作冒険SFに仕上がっている。
彗星アテナの通過により生じた大カタストロフィにより地球文明が壊滅してから3年。 アテナの影響でいまだ変動が続く太陽系だが、土星の衛星群に独自の科学文明を築いたクロニアは最後の人類文明の担い手として、力強く生き延びていた。 しかし、クロニア内にも新たな対立の火種が生まれようとしていた。 地球から脱出しクロニアに受け入れられた地球人の一部が、社会体制の改変を求め政治闘争を開始したのだ。 折しも、アテナによってもたられた激変が治まりつつある地球に調査団が派遣されることが決定される。 大陸の形さえも大きく変わってしまった災厄後の地球で調査団を待ち受けるものとは──。
まずは訂正をしておかないといけない。
前作『揺籃の星』についてはJ・P・ホーガンもアッチに行ってしまいました──『揺籃の星』 - ぽっぺん日記@karashi.org (2008-06-12)で
……やっぱり、トンデモでした!!
や
「あぁ、ホーガンもアッチに行っちゃったのね」とちょっと悲しくなってしまう。
なんて酷評したが、本書を読了してシリーズを通しての感想を次のように改めなくてはいけないと感じた。
それでも、やっぱり、ホーガン節は健在でした!!
前作の最大の問題点であるトンデモ理論は本書でも健在なのだが、既に所与のものとして扱われ、その成否を巡るような論争がないため、それほど違和感なく受け入れることができる(こちらが慣れてしまったせいもあるとは思うが)。
トンデモ理論に代わって本書でクローズアップされるのが、前作ではあまり言及されなかったクロニアの独自の文明だ。 貨幣制度を捨て、他人からの評価でその個人の価値が決まるというクロニア人の極端かつ、ちょっとムリのある考え方は、いかにも科学第一主義なホーガンらしく、ホーガン作品に馴染んだ読み手であればニンマリしてしまうだろう。
さらに、ニンマリさせられてしまうのがホーガン節炸裂の大団円だ。 読書の興を削ぐので書けないが(うー、書きたい)、すっかり変貌した地球の大地でのサバイバルや危機に次ぐ危機などの絶望的な状況を一気に爽快なラストへと着地させる手腕は見事。 たっぷりとホーガン流のカタルシスを味わうことができるはずだ。
文明の崩壊というテーマである以上、仕方がないのだが、『揺籃の星』に足りなかったものはこのカタルシスなのだ。 ホーガン作品の醍醐味は「センス・オブ・ワンダー」とともに、危機的な状況から一転して爽快なラストに至るカタルシスにあるということを再確認できた一作だ。
トンデモ理論が展開されてしまうあたりはご愛嬌だが、そこに我慢できる読み手であれば、『揺籃の星』とともに読む価値がある作品と断言しておきたい。
なお、本シリーズは三部構成になるとのことだが、最終巻になる第三部はまだ執筆されていないとのこと。 もう何年か待つことになりそうだが、読める日が楽しみだ。
- 内田 昌之
- 東京創元社
- 882円
書評/SF&ファンタジー
2008-06-15(Sun) [長年日記] この日を編集
_ 大量殺人者と秋葉原事件の犯人像との共通点に戦慄する──
犯罪捜査の心理学―プロファイリングで犯人に迫る (DOJIN選書 17)(越智 啓太)
文句なしにスゴイ本。 「鳥肌もの」と表現しても決して大袈裟ではない一冊だ。
犯罪心理学を専門とする心理学者である著者が犯罪心理学の一分野であるプロファイリングを中心に、どのように心理学が犯罪捜査に応用されているのかを解説しているのが本書。
猟奇殺人や連続殺人を扱った映画や小説ではある意味欠かせない存在となったプロファイリングだが、実際どのような分析を行うのかと問われれば、ミステリーマニアであっても「犯人は黒髪の女性に執着しているってヤツ?」と答えられるのがせいぜいというところではないだろうか(もちろん、これもプロファイリングの一種だが)。
本書は
テレビや映画で映画で描かれるプロファイリングは、派手でかっこよく、犯人の特徴を間違いなく言いあてることができますが、現実のプロファイリングやプロファイリング研究は、残念ながらテレビのようにかっこいいものでも、犯人を確実に言いあてられるものでもありません。(p.2)
という現実を教えてくれるとともに、プロファイリングが名人芸なのではなく、
一定の学習をし、一定の経験と訓練を積んでいれば、だれでも同じ結論に達する(p.26)
という存在であることを、その手法や実例を織り交ぜながら解説していく。
本書で扱われているプロファイリングは次のようなものだ。
- FBIによって開発された、犯人を「秩序型」と「無秩序型」に分類するプロファイリング
- FBI手法では説明のできない犯人をカテゴライズするために統計的な手法を用いた「リヴァプール方式プロファイリング」
- 犯罪現場の地理情報から犯人の住んでいる地域や次に犯罪を行なう場所を推定する「地理的プロファイリング」
- ストーカーや人質立てこもり犯の危険性の分析手法
- 大量殺人者の動機の分析手法
専門的であるが、心理学の素人であっても理解できる平易な語り口で解説されている点は非常に好感が持てる。 著者の言う通り本書で語られる実際のプロファイリングは決して派手な存在ではないが、驚くような指摘が多数書かれていて思わず唸ってしまう内容となっている。
プロファイリング研究のためには欠かせない存在であると統計学については多少、説明不足なところもあるが、本書はあくまでも入門書である。 リーダビリティの面ではこれくらいの方がちょうどいいのだろう。
本書に記されている様々なプロファイリング手法については本書に譲るが、個人的に驚いた連続犯罪と角度の関係は紹介しておきたい。 連続犯罪の場合、犯人の住居から各犯行現場の角度を測った場合、罪種(侵入窃盗、レイプ、殺人)によってその角度が変わってくるそうだ。 侵入窃盗なら31〜60度、レイプなら61度〜90度、殺人では91度〜120度といった具合である。 第一犯行現場から第二犯行現場の角度についても統計がとられていて、やはり殺人の場合、角度が大きくなるそうだ。 なぜ、このような結果が出るのかについては分かっていないが、犯罪という陰惨なものを通してさえ、人間の心理の奇妙さを思い知らされる。
本書の中でも読んでいて激しく揺さぶられるのが、なんといっても大量殺人事件について書かれた箇所だ。
著者は、米サンディエゴ市のマクドナルドで銃を乱射して8ヶ月の赤ん坊から74歳までの老人を含む21名を殺害し、20名に重傷を負わせたジェイムズ・ユベルティと、岡山県苫田郡西加茂村で村民30人を殺害し、3名を負傷させた都井睦雄の事例を引き、その犯人像の共通点を浮き彫りにする(後者の事件は、横溝正史の『八つ墓村』のモデルになった津山事件として有名である)。
この2つの事件は時代も場所も異なっていながら多くの共通点があることが指摘される。 全部で11の共通点が挙げられているが、そのうちのいくつかを抜粋してみる。
- 犯人の生活は期待どおりにいっておらず、挫折や絶望のなかにいる。特に事件直前は、大きな絶望を体験している。
- この原因として自分が悪いのではなく、別の何者かが悪いと考えている。この何者かは個人ではなく、学校や会社、集団などのカテゴリーとしての存在である。
- 犯人は事前に襲撃を計画し、その計画を人に話したり、日記に書いたり、インターネットに公開したりする。
- 犯人は犯行前に遺書や手記を書く。
- 犯人は最終的に自殺するか、警官と無謀な撃ち合いをする。逮捕された場合には死刑を望む。反省はしない。
- 犯人は過剰な武器を携帯する。
- 犯人はできるだけ多くの被害者を殺傷することを目的に行動する。
- 犯人は覆面をしたり、防犯カメラを避けるといった自分を隠す行為はしない。
- 犯人は逃走を考えない。
これらがつい先日、6月8日に起きた秋葉原無差別殺傷事件の犯人像とぴたりと重なることは一目瞭然だろう。 無差別大量殺人者に共通する要素がこれほど明確なものだということに戦慄を覚えた。
この手の事件になると、自称「犯罪心理学者」をはじめとする様々なコメンテータがテレビで好き勝手に犯人の異常な行動を憶測で語るのが通例だし、今回の事件もそのような展開になっているようだ。 しかし、著者は次のように異を唱える。
これらはいずれもこの種の犯罪における典型的な要素です。個々の事件について、なんらかの理由や原因をこじつけて説明する前に、この種の犯罪に共通する動機や行動パターンをしっかり把握することが重要でしょう。(p.162)
著者は大阪教育大学附属池田小学校事件以来、公立私立学校でとられている防犯対策についても言及している。 現在とられている校門施錠、防犯カメラの設置、不審者の侵入を想定しての教員に対する格闘訓練の実施といった防犯対策が窃盗犯やわいせつ犯などの一般的な不審者には有効ではあるが、大量殺人犯にはほとんど意味がないことが指摘されている。 なぜなら、そのような犯人は上掲のように、簡単な障害はものともせず、自分が逮捕されることにはなんの興味も覚えず、殺傷能力の高い凶器を複数持っているからである。
だからといって、部外者を一切近付けないようにし、ガードマンを巡回させるなどして「学校を要塞化」すればいいのかといえば、結局のところ、そこまでしても在校生による事件は防げないことを著者は指摘する。 地域との連携強化やいじめ対策に予算をかける方がよほど犯罪抑止に繋がるかもしれない、という著者の主張には深く頷けた。
殺人事件やレイプ事件などの実例が感情をまじえない冷静な筆致で記されているため、陰鬱な気分に捉われそうになる本書であるが、各章の最後に載せられた映画を題材にした犯罪心理学に関するコラムが良い意味で息抜きになっている(著者紹介によれば、著者は重度の映画マニアのようである)。
映画好きなのでどのコラムも非常に面白かったのだが、その中でも意外だったのがサミュエル・L・ジャクソンとケビン・スペーシー主演の『交渉人』の中で登場する
人がなにか話した場合、目が右上に動いていたら、そこは脳のなかで想像を司る部分だから、その発言は嘘である。
というルールになんの科学的根拠もないという話だ。 実はずっと信じていたので、かなり恥ずかしくなってしまった。 なお、熟練した捜査員の嘘見破り能力(「俺は長年デカをやっているんだ。すぐに嘘は見抜けるさ」)についても、今のところの研究では実用的な水準にはほど遠い実験結果しか出ていないそうである。
防犯というと、どうしても目に見えるものに頼り価値になる。 秋葉原無差別殺傷事件以来、論議の的になっている掲示板の犯罪予告監視システムの開発(これに呼応して予告in - 犯行予告共有サービスや予告.out - 予告ができる掲示板なんてサイトが立ち上げられたが)やサバイバルナイフの規制などが好例だろう。
しかし、犯罪を犯すのはいつであっても人である。
個々の犯罪の個別性によって説明されなければならないのは、共通点を取り除いたあとの部分であるはずです。今後はこのようなアプローチの研究をさまざまな罪種について徹底的に行っていくことが必要でしょう。(p.176)
と著者が語るように、プロファイリングをはじめとする犯罪心理学は、犯罪捜査という面はもちろんだが、将来的な犯罪抑止を考える上でも欠かせない学問である。
プロファイリングが決して映画や小説の小道具ではなく、罪のない市民を理不尽な犯罪から守るために存在しているということを改めて実感させてくれる好著だ。
- 越智啓太
- 化学同人
- 1470円
書評/心理・カウンセリング
参考として
戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)(デーヴ グロスマン) - ぽっぺん日記@karashi.org (2007-09-15)で紹介した『戦争における「人殺し」の心理学』では、殺人という行為に対してまったく躊躇を覚えない人間が一定の割り合いで存在することを指摘している。
未読の読者は本書とあわせて読むと興味深いのではないかと思う。
2008-06-16(Mon) [長年日記] この日を編集
_ 今日のできごと
連日の外回りで、歩きまくりで疲れる。 暑いし。
直帰で早く帰れるのはいいけどな!(ぉ
夕飯食べて、風呂入って、「麦とホップ」飲んで、石川じゅんの『漫画ノート』を読んでいたら、いつの間にかうたた寝。 23時近くまで寝てしまった。 何時間か、ムダにした。 ムキー。
ってことで、今日もPerlいじりしませんでしたとさ。
2008-06-17(Tue) [長年日記] この日を編集
_ 今日のできごと
10日ぶりくらいで丸一日、デスクワークの日。
外回りに慣れたせいか、なんだか逆に疲れた。 基本的に歩くの好きなんだな。 > オレ
帰路に小林泰三の『モザイク事件帳』読了。 帰宅して、石川じゅんの『漫画ノート』を読み終えた。
PCの起動もせずに寝る。
2008-06-18(Wed) [長年日記] この日を編集
_ 吹き出しまくりのサブカル誌──hon-nin vol.07(宮藤 官九郎/中川 翔子/西原 理恵子/町山 智浩/松尾 スズキ/中村 うさぎ/みうらじゅん/吉田 豪/西島 大介/リリー・フランキー/清涼院 流水/天久 聖一/西原理恵子/皆川猿時/湯村輝彦/新井英樹/D[di:]/白根ゆたんぽ/天谷ひろみ/真木よう子)
- 西原理恵子、皆川猿時、湯村輝彦、新井英樹、D[di:]、白根ゆたんぽ、天谷ひろみ、真木よう子
- 太田出版
- 950円
書評/エンタメ・タレント
hon-nin vol.03以来のhon-ninである。 「うーん、面白いけど毎号買うほどではないかなぁ」という感じのvol.03だったのだが、1年ぶりに読んだ本誌は記事のクオリティが非常に上がっていてビックリ。 昨日届いたのだが、面白くて1日で読んでしまった。
特に西原理恵子の「世間の車窓から」と西島大介の「魔法なんか信じない。でも君は信じる。」はバックナンバーを買って読んでもいいかなと思えるくらい面白かった。 そのうち単行本になるんだったら、ちょっと待ってもいいかも知れないけど。
以下、面白かった記事をピックアップ。
本人特集 真木よう子
- 真木よう子のインタビュー
- 真木よう子 & 漫画家のうすた京介の対談
を収録した特集。
テレビはあまり見ないし、芸能界にも疎いので「はて、真木よう子って誰だったかしらん」と思いながら読んだのだが、途中でドラマ「SP」に出演していた女優さんか! と思い出した。 「SP」のシーンといえば、ジャケットを羽織るとこやホルスターを着ける時にこう胸がぐっと強調されて……ゲフンゲフン、まぁ、なんか印象に残っておりますな。
さて、意外なことに、真木よう子はそのクールな顔立ちに似合わず(?)、うすた京介*1の大ファンとのこと。
そんな大ファンである、うすた京介との対談のメロメロ具合が最高におかしい。 インタビューでは犬について
バカなんだ。だから嫌いなんです。(p.14)
と答えてるにもかかわらず、対談では、犬が好きといううすたに対して
犬、可愛いです。犬が断然好きです!(p.20)
と180度違う返答をしていて吹き出してしまった。
さらに、うすたとディズニーランドに行く約束までしているし。
ツンデレな真木よう子が見られる好特集といえるのではないかと思う。 まぁ、ファンは嫉妬にかられるかもしれんけどな。:-)
西原理恵子「世間の車窓から」
『毎日かあさん』や『ぼくんち』などの作者である、あのサイバラが色々な職場を探訪するという記事。 今回はマンガ作品の装丁を手掛けるデザイン事務所、ボラーレの関善之さんと星野ゆきおさんと対談している。
いやー、これはおかしい。 サイバラの歯に衣着せない物言いが最高!
ふたりに経歴を聞く導入部からして
ほら、みんな桑沢(デザイン研究所)とか東京モード学園に行かないとデザイナーになれないと思っているから、そこでお金を騙し取られちゃうわけじゃん。おふたりがどうやってデザイナーになったかをまずは話してもらわないと。(p.117)
ってな感じだし、マンガ「キャッツアイ」を評して
あのレオタードで盗みに入る気のふれたマンガ?(p.119)
さらに
枕営業ってすごい大事だと思うんだ。(p.121)
名(迷?)言も炸裂している。
さいとうたかを、藤子A、ジョージ秋山、水島新司といったマンガ界の大御所をつかまえて
そろそろ危ないのばっかり。(p.129)
というのにも盛大に吹いた。
オススメ。
吉田豪「hon-nin列伝 出川哲郎」
プロインタビュアー吉田豪による出川哲郎インタビュー。
アクション芸人、出川哲郎のユルく見える態度の裏に隠された芸人魂を浮き彫りにしていていて興味深かった。
ちなみに、下世話な話で申し訳ないが、一番印象的だったのが、今はなき「電波少年」の企画で出川がゲイの溜まり場に潜入するエピソード。 仕込みじゃないかなーと思っていたんだけど、なんと実際に「掘られ」ちゃったらしいですよ。
西島大介「魔法なんか信じない。でも君は信じる。」
SFマガジンでもカットを描いているマンガ家、西島大介の実録マンガの第3回。
出版前の書下し原稿を出版社に紛失されたという、なかなかタイムリーな話で非常に面白かった。
その補償に関する生々しい話が『星のカービィ』を思わせる可愛らしい絵柄で描かれていて、そのギャップもおかしい。
原稿1枚あたりの補償額が原稿料の10倍。 そこに単行本の初版部数をかけた額が補償総額というのは、ずいぶん大きな数字に思えるけどどんなもんなんだろう。 出版社(河出書房新社)の誠意ある態度と見るべきかどうなのか、業界のことについてはまったく無知なので分からない。
こちらもオススメ。
海猫沢めろん「全滅猫フィーチャー!!!」
SFマガジンでもたまに小説が掲載されている海猫沢めろんの小説の第3回。
なんつーか、気が狂っています(注:誉め言葉)。
殺伐としたストーリーにも関わらず、アニソンの歌詞が挿入されるあたりには笑った。
町山智浩「宝のかけら」
映画評論家、町山智浩の自伝小説の第1回。
町山智浩がアニメ・パロディのエロ同人誌を描いていたとは知らなかったな。
ガッチャマンのパンチラシーンを編集したビデオなんて代物が登場してしまうので、町山ファンのみならず、80年代のオタク界に興味がある人(そんな人いる?)は読むと面白いと思う。
*1 知らない人のために書いておくと、『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』、『ピューと吹く!ジャガー』というシュールな味わいのギャグマンガの作者です。
_ Firefox 3が正式リリース
会社と自宅のFirefoxを全てアップデート。
常用しているPCは既にFirefox Portable Edition 3を使っていたので、プロファイルだけコピーして簡単に移行完了。
Firefox + Vimperatorは最高ですな。
_ 各地の図書館で運営状況に差 背景に財政難
「全国的には休館日は減らす傾向にあり、祝日開館をしている図書館も多い。中には、月1回しか休館しない図書館もある。だが、開館時間を増やしても、人件費が抑えられれば、サービスが低下する恐れもある。住民にとって何が有益なのか、図書館側もきっちりと検討し、丁寧に説明する責任があるだろう」
[各地の図書館で運営状況に差 背景に財政難 - MSN産経ニュースより引用]
勝手な感想をいうと、財政的にそれで助かるなら、祝日と平日2日間くらいは休館日にして貰っても構わないような気がするな。 連休が続く場合には、貸出期間を延長すればいいだろうし。
2008-06-19(Thu) [長年日記] この日を編集
_ 古今東西の絵画を楽しむ──
綺想迷画大全(中野 美代子)
『本の雑誌』2008年4月号でエンタメノンフの書き手、宮田珠己氏が絶賛していたので手に取った本。
「中国文学者にして、シノロギー図像学の第一人者」(著者略歴より)であり、『西遊記』の訳者としても有名な著者が古今東西の絵画をテーマに、描かれたモチーフや時代背景、隠された細部、技法など様々な角度から思考を広げているエッセイ集が本書だ。
いやー、これは面白い。
取り上げられている絵画は、前口上で著者が
自分の目でえらびとり、勝手に自分の論理を展開することの快楽が得られる絵画こそが、「私にとっての絵画」というだけのこと(p.8)
と記すだけあってヴィジュアル的に面白く、奇妙な味わい深いなものばかりなので、「変わったもの」好きにはたまらない一冊だ。 文章も柔らかく、敷居も非常に低いので、オレのような美術オンチでもまったく問題なく楽しめる内容となっている。
女性の年齢について書くのは重々失礼なのは承知な上で書いてしまうが、著者はなんと1933年生まれ! なんとも若々しい文体で驚かされた。 やはり、探究心旺盛な精神がいつまでも若いままにさせておくのだろう。
掲載されている図版がないかなーとググってみたところ、p.43の『聖ヴォルフガングと悪魔』がPassion For The Future: 綺想迷画大全で紹介されていたので、パクってマネして貼っておく。
マルコ・ポーロの『東方見聞録』に画家が勝手に想像した挿絵(!)が入った『驚異の書』の
ひっくり返って巨大な一本足を上にもちあげている怪物スキヤポデス(p.49)
を描いた図版も面白いのだが、ググっても見付けらなかったので本書を参照されたい。 『驚異の書』は岩波書店から2002年に全訳が発刊されたようなのだが、残念ながら現在、絶版のようだ。 興味のある向きは図書館にリクエストするといいのではないかと思う。
その他、2章を使って解説されている、河沿いの街の様子を活写した『清明上河図』(清明上河圖 - Wikipediaを参照のこと)が住人のひとりひとりまで非常に細かく描き込まれていて、どことなくマンガちっくで印象に残った。 ちなみに、リンク先の『清明上河図』にぺたぺた捺されているハンコは、後世のコレクターのものとのこと。 皇帝が所有していた場合には、その絵画を鑑賞した歳が彫られたハンコを捺していたそうだ。 同じアジアでも日本と絵画の扱いがずいぶん違うことを感じさせる逸話だ。
本書は初出は『歯医者さんの待合室』という変わった月刊誌の連載であるそうだ。 通っている歯医者では目にしたことがない雑誌だが、こんなに面白い連載が読めるなら、ぜひ置いて欲しいぞ、と思ったのだが、出版社のWebサイトにも掲載されていないし、ググっても古本しか出てこないので、こちらももう廃刊ぽい。 残念。
本書でちょっと気になったのが、見開きの図版のいくつかで細かい部分がページの折り目に入ってしまって確認しづらいこと。 図版が大きな意味を持っている本なので、なんらかの配慮が欲しかったところだ。
絵画というと、どうしても身構えてしまうものだが(美術オンチであればなおさらだ)、実はそれほど肩肘張らずに楽しめるということを教えてくれる好著である。
2008-06-20(Fri) [長年日記] この日を編集
_ 小林泰三によるミステリー7つのお題──
モザイク事件帳 (創元クライム・クラブ)(小林 泰三)
小林泰三による「犯人当て」、「倒叙ミステリ」、「SFミステリ」など古今東西の探偵小説の「お題」をテーマにしたミステリ短篇集。
収録作は全7篇。 小林泰三らしく、どれも一捻りしてあって楽しめる作品集に仕上げっている。 きつくはないけど、やっぱりグロ描写もありますよ。
各作品の探偵役は、『密室・殺人』をはじめとする他の作品のキャラクターたちなので、昔からの小林泰三ファンであれば、なおいっそう楽しめるはずだ。
また、小林泰三・初心者は、本書で入門して別の本に進んでみるというのもなかなかいい入り方ではないかと思う。
収められた作品の中では
- 『水からの伝言』を痛烈に扱き下ろした「自らの伝言」
- 「神の手」騒動をおちょくったバカミス「更新世の殺人」
- 無邪気に見えてなかなか意地の悪いオチが効いている「路上に放置されたパン屑の研究」
が秀逸。
「現代の科学では分からないこともある」とかいって『水からの伝言』を擁護している人は「自らの伝言」を読めばいいんじゃないかと思うのだが、まぁ、そういう人は読んでも怒るだけかもしれないなぁ。
_ basejailのupdateにfreebsd-updateを使ってみた
ezjail を使ってみる 準備編 - markun日記を参考にして。
いやー、これは便利。
basejailのupdateにfeebsd-updateが使えるなら、ますます、make buildworldをすることも少なくなるなーと思ったり。
それにしても、
# /usr/local/etc/rc.d/ezjail stop # mv /home/jail/basejail /home/hail/basejail.old # ezjail-admin install
で、basejailを作って
# mkdir /home/jails/freebsd-update # freebsd-update -b /home/jails/basejail -d /home/jails/freebsd-update fetch # freebsd-update -b /home/jails/basejail -d /home/jails/freebsd-update install
でSAに追随。
# /usr/local/etc/rc.d/ezjail start
でjailを再起動して、basejailの入れ替えができてしまう手軽さは、いまさらながらすげぇーなー。
2008-06-21(Sat) [長年日記] この日を編集
_ 漫画と漫画家への深い愛が感じられる評論集──
漫画ノート(いしかわじゅん)
これはスゴイ本。
「BSマンガ夜話」の論客として活躍する漫画家、いしかわじゅんの漫画評論集が本書。
週刊アスキー連載の「だってサルなんだもん」で刊行されることを知り手に取ったのだが、それまで著者の本を読んだことがないこともあって、実はそれほど期待していなかった。
しかし、本書を開いてみて驚いた。 どの評論も作品とともにその作者という人間まで描き出す鋭い切れ味であるし、文章の質も高い。 正直なところ、内容、文章ともにこれほど高いレベルでバランスのとれた漫画評を読んだのは初めてではないかと思う。
収められた評論は書籍紹介に
アクション、プロレス、怪奇、スポ根、ガロ系、脱力系、時代もの、エロ、少女、パチンコ、SF、古典から大ヒット作まで……21世紀のニッポンを覆い尽くす「漫画」の世界をご堪能ください。
[basilico - 漫画ノート / いしかわじゅん(著)より引用]
とある通り、『ドラえもん』やあだち充作品といった国民的ヒット作品から、士郎正宗の『攻殻機動隊』や小林源文のミリタリー漫画といった一部のマニアしか読まないものまでカバーする幅広いものだが、どれも漫画家ならではの視線が光っていて秀逸だ。
本書で繰り返されるのは、著者自身がかつて描いたストーリーギャグ漫画の衰退だ。 その切っ掛けは、いしいひさいちが現れたことにあると著者は記す。
いしいひさいちは、ある日関西から上陸し、四コマ漫画の四つのコマがあれば大河大ロマンだって描けるということを証明してしまった。四コマ漫画は、漫画の基礎であるだけでなく、コマ数が少ないという制約ゆえに増幅される強力な物語性を持っていることを示した。四つのフレームがあれば、できないことなどなにもないということを、満天下に知らしめてしまったのだ。(p.94)
四コマ漫画は
十六ページ待たなくても、とりあえず四コマがあれば、ひとつのオチが見られる。(p.96)
という手軽さから 「燎原の火のように」広まり、ページ数の長いストーリーギャグ漫画を駆逐して業界標準となった。
なるほど。漫画を読む機会が少なくなったので断言はできないが、子供の頃に読んだ『ハイスクール奇面組』や『燃える!お兄さん』のようなストーリーギャグ漫画は最近見掛けなくなった気がする。
さらには漫画全般の読者人口さえ減っていることが次のように語られる。
以前、ライトノベルの編集者と話していたら、最近の読者は漫画は難しくて読めなのでライトノベルに移ってきているといっていた。一部の漫画は表現力が上がりすぎ、それを読み解くのにも努力が能力が必要になってしまった。それで、より楽な方に読者も流れていったのだ。(p.262)
ライトノベルを読まなくなって10年以上経つので、最近の状況は分からないのだが、ビジュルアルという強みを持った漫画よりも簡単に読み解ける内容になってしまったのだろうか。 是非は分からないが、興味深い指摘である。
特筆しておきたいのが、本書の最後に収録された吾妻ひでおへのインタビューだ。 『失踪日記』やその補遺ともいえる『逃亡日記』でも分からなかった漫画家、吾妻ひでおが内に秘めたプライドと苦悩を浮き彫りにする。 これは同業者でなければ引き出せなかった本音だろう。 また、このインタビューからは同じストーリーギャグ漫画を出自とした著者自身の思いも見えてくる。
A5判型443ページ(あとがきを含む)というボリュームと充実した内容を考えれば、本書の2100円(税込)という価格は非常にお買い得と言い切っていいだろう。
著者の漫画とその作者への深い愛が感じられる好著である。 強くオススメしたい。
なお、本書で、軍事評論家の岡部いさくとイラストレーターの水玉蛍之丞が兄妹だと知ってびっくりしたことも付記しておく(なお、ふたりの父はマンガ家、岡部冬彦。姉はイラストレーター、おかべえりか、とのこと)。
_ copy.jsがさらに便利になった
copy.js をアップデート よりカスタマイズ可能になりました - hogehogeより
.vimperatorrcに
javascript <<EOM
liberator.globalVariables.copy_templates = [
{ label: 'amazon', value: 'tDiary isbn plugin', custom: function()"{{isbn \'" + content.document.getElementById('ASIN').value + "\'}}"}
];
EOM
ってな感じで書いておけば、Amazonで目当ての本のページを開いて、
:copy amazon
すれば、クリップボードに
{{isbn 'ASIN'}}
がコピーされてしまう。 tDiaryにAmazonへのリンクを張るのが激しく便利になる。 すげー。 id:teramako++
custom: function()を使えば、もっと色々できそうだな。 ちょっと考えてみよう。
2008-06-22(Sun) [長年日記] この日を編集
_ 主人公とともに事件を追ううちに、ガードナーに関する知識が身に付くミステリー──E・S・ガードナーへの手紙 (創元推理文庫)(スーザン カンデル/Susan Kandel/青木 純子)
ミステリー作家、E・S・ガードナーの軌跡と殺人事件を絡めたミステリーが本書。
〈ペリー・メイスン〉といえば、高校時代に一ヶ月ほど入院生活を送っていたことがあって、その間、平日の夕方にNHKで放送していたドラマ「新・弁護士ペリー・メイスン」を見ていた覚えがある。 なんとも恥ずかしい話だが、ミステリー初心者なため、ペリー・メイスンに原作があることは本書を読むまで知らなかった。 その作者こそ、本書のメインテーマであるE・S・ガードナーである。
本書の主人公はミステリー作家の評伝を専門とする伝記作家シシー・カルーソー。 39歳、元ミスコン女王にして、離婚歴のある女性である。 現在、ガードナーの伝記を執筆している彼女はガードナーが立ち上げた民間冤罪再調査機関〈最後の法廷〉についての記録を調べるうちに、ガードナーのメモが添えられた一通の手紙を発見する。 それは45年前に妻殺しの罪で終身刑に処された男からの無実の訴えだった。 手紙の送り主である囚人が現在も服役中であることを知ったシシーは取材の一環として面会することを思い付く。 囚人に面会し、同情心から思わず真犯人探しを請け負ってしまったシシーは、事件が起きた地であり、かつてガードナーが弁護士と活躍し、ペリー・メイスンを生み出すバックグラウンドともなった町、ヴェンチュラで調査を開始する。 しかし、その調査が新たな殺人事件を引き起こしてしまうことに……。
シシーとともに事件を追ううちに、ガードナーに関する知識が自然と身に付けられる構成はなかなかいい(ただし、ペリー・メイスンくらいは知っておかないと少々辛いかもしれない)。
ただ、事件と直接関係のない要素──ヴィンテージ・ファッションやシシーの暮らすハリウッドのライフスタイル、シシーや登場人物たちとのロマンス、家族の問題──にかなりページが割かれている点はいただけない。 もしかすると想定した読者がロマンス好きでファッションに関心のある女性だったのかもしれないが、個人的にはミステリー部分やガードナーのトリヴィアにもっと力を入れた方が作品として引き締まったのではないかと思う。 ここは少し残念な点だ。
まぁ、コージー・ミステリーのように気軽に読むスタイルこそ本書にはふさわしいのかもしれない。
あとがきによれば、伝記作家シシー・カルーソー・シリーズは現在4作まで発表されているとのこと。 その中には少女探偵ナンシー・ドルーを生んだストラテマイヤー工房を扱った作品もあるということなので、ナンシー・ドルー・シリーズを第1作から第3作*1まで読んでいる身としては非常に楽しみである。 期待したいシリーズだ。
- 青木 純子
- 東京創元社
- 945円
書評/ミステリ・サスペンス
*1 すべて東京創元社様からの献本。どうもありがとうございます。 > 東京創元社様
_ 今日のできごと
雨なので自宅の掃除をしたり、RubyKaigi2008のustreamを見たりしながら過ごす。
妻の友人の旦那さん(元・料亭の板前さん)が近所に和食屋さんを先月開店して、何度か食べに行った妻によると「すごく、おいしい」ということなので、昼にはじめて食べに行った。
いやー、ホントにおいしかった。 マグロのカマ定食を食べたんだけど、あんなにおいしいカマを食べたのは初めてじゃないだろうか。 値段は850円也。
ご主人によると、今の季節は毛蟹が旬ということで3日ほど前に予約を入れてくれれば、良いものを吟味して仕入れるとのこと。 お値段も3500円くらいと、まぁまぁ手頃。
「インターネットでカニを買っても何を送ってくるか分からないんだから、私に任せてもらった方が絶対にお得」という言葉には納得。 カニ料理が一番得意ということなので期待できそうだ。 来週か、再来週に予約を入れることにした。
うーん、自宅から車で5分くらいの場所にこんな店ができるとは幸せだなー。
2008-06-24(Tue) [長年日記] この日を編集
_ copy.jsのmy.rb設定(Wikiスタイル向け)
今までWikiスタイルで
[[ふがほげ|20080624#01]]
のようなmy.rb用の書式をcopy.jsでコピーするのはちょっと不便だったんだけど、 こないだのアップデートで追加された、cunstom: function()を使えば簡単にできるようになった。
環境依存だけど、誰かの役に立つかもしれないので設定を貼っておく。
javascript <<EOM
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正規表現がかなり適当なのはご容赦。:-)
2008-06-26(Thu) [長年日記] この日を編集
_ スカイシティの秘密―翼のない少年アズの冒険 (創元推理文庫)(ジェイ エイモリー/Jay Amory/金原 瑞人/圷 香織)
大異変が起きた後の世界を舞台に、空中都市と地上で繰り広げられる冒険を描いたジュブナイルSFが本書。
- 金原 瑞人、圷 香織
- 東京創元社
- 1155円
書評/SF&ファンタジー
ハイテンポなストーリーに引っ張られて一気に読める作品である。 その一方で、やはりSFには屁理屈であっても理屈が欠かせないことを逆説的に再認識させられる作品でもあった。
本書の主人公は、地表数キロの柱の上に建設されたスカイシティに住む16歳の少年アズ。 大異変後、生存者が作り上げたこの空中都市群に住む天空人(エアボーン)たちは翼を生まれ持つ人々だった。 しかし、アズは生まれつき翼を持たない数少ないエアボーンであり、それゆえコンプレックスを抱えた人生を送っていた。 折しもスカイシティを統べる行政都市シルバーサンクタムでは深刻な問題が持ち上がっていた。 スカイシティが物資の供給源として全面的に依存している地上からの輸送が途絶えたのだ。 その原因調査を行うために派遣される人物として白羽の矢が立った者こそ「翼がない地上人(グラウンドリング)にそっくり」なアズだった。 アズはかつてどんなエアボーンも赴いたことのない未知の地へ送り込まれることに……。
ジュブナイルSFの王道とでもいうべき、地上へ降りたアズの成長譚 + 地上人の少女キャシーとのボーイ・ミーツ・ガールなストーリーが展開されるのだが、去年読んだ『移動都市』(フィリップ・リーヴ)と同じく、少年がひ弱で、少女が男勝りという人物造形はなかなか面白い。 そういえば、どちらもジュブナイルSFであると同時に、英国SFでもある。 日本と同じく(?)あちらでも、女性の方が男性より元気なのかもしれない。
内容的には、あらすじからその『移動都市』ばりの傑作冒険SFを想像していたのだが、結果から書けば、少々期待はずれの出来だった。
その理由のひとつがストーリーがあまりに平坦であること。 全体的な雰囲気は悪くはないのだが、盛り上がる場がほとんど見られず、だらだらと続いているような印象を受ける。 それなりに魅力的な主人公たちに対する悪役がキャラ立ちしていない点もその印象を強めている。
もうひとつの理由が背景世界に説得力がないということだ。 これが冒頭で
やはりSFには屁理屈であっても理屈が欠かせない
と書いた理由。
たとえば、作中では天空人たちがどのように翼を持つに至ったかについて全く触れられていない。 ちらっとでもいいので過去に行なわれた遺伝子改良や、理論を実証した科学者の名を偉人として登場させておけば、設定にぐんと深みが増したと思うのだが。 せっかく冒頭に博物館のシーンを持ってきているにもかかわらず、非常にもったいないと感じた。
また、スカイシティと地上に関係にリアリティがないところも気になる。 荒れ果てた地上とそこから資源を搾取することにより成立している空中ユートピアという構図は、木城ゆきとのSF漫画『銃夢』に登場する「クズ鉄町」と空中都市「ザレム」と同じものである。
だが、『銃夢』と本書で大きく異なる点は、ザレムがクズ鉄町に暴力的な手段を含む、様々な「働きかけ」を行ない、その関係を永続させようとしていたのに対し、スカイシティは物資の供給がストップするまで地上に対してなんのアプローチもしてこなかったことだ。 作中でも示唆されるようにスカイシティ自体が構造的に脆弱な面を持っていることをあわせて考えれば、不自然すぎる政策と言わざるをえないだろう。
ジュブナイル小説であるがゆえに、小難しい設定やダークな要素を省いたとも考えられるが、そのために本書は「SF」というよりはおとぎ話に近いという意味での「ファンタジー」になってしまっているのは残念だ。
本国では本書の続篇が刊行されているとのことである。 邦訳が読めるまでまだ時間がかかりそうだが、続篇は主人公アズの成長にあわせて、おとぎ話ではなく、SFへと成長していることを期待したい。
2008-06-27(Fri) [長年日記] この日を編集
_ 日本警察小説のひとつの頂点──
警官の血 上巻(佐々木 譲)
これはスゴイ本。
佐々木譲による三代に渡る警官を描いた大河警察小説が本書。
先日、『夜にその名を呼べば』で久しぶりに佐々木譲作品を読んだのがきっかけで手に取ったのだが、ハードカバーで約800ページという大作ながら、ぐいぐい引っ張られて一気読みしてしまった。 『このミステリーがすごい! 2008年版』の第一位に輝き、惜しくも受賞は逃したものの直木賞にもノミネートなので、こんなことを書くのもいまさらだが、文句なしに太鼓判を押せる大傑作である。
本書のストーリーは安城家の祖父、父、息子と受け継がれていく警官の血脈を軸に語られる。 戦後の混乱期に警察官に任官した清二、安保闘争の嵐が吹き荒れる60年代に父親のような駐在に憧れながらも北大の過激派に潜入する覆面捜査官になった民雄、90年代に警察官となるも汚職警官を密かに内偵することになる和也。 この3人の物語を貫くのが、昭和20年代に起きた男娼殺人事件と鉄道員殺人事件という二つの事件である。この事件を巡って3人は運命を翻弄されることとなる。
どのパートもその時代の空気とそこに生きた安城家の男たちを活写して読み応えがあるのだが、なんといっても圧巻なのが、和也が主人公をつとめる第3部である。 北海道で起きた稲葉事件を下敷きにしたと覚しき汚職に手を染める警察官と前述した2つの殺人事件の真相、そして祖父と父の人生を通して、正義とはなにか、警察官の本分──「地域の平和と市民の安全を守る」とはどういうことなのかを読み手に激しく突き付けてくる。
原稿にして2000ページという長さが目立つ本書であるが、個人的には、いくらでも長くなる要素を持った親子孫三代の物語にもかかわらず、ここまですっきり収めることができたことに驚かされた。 雑夾物を排し、ぎりぎりまで絞り込む手練の技があったからこそ、長さを感じさせないハイテンポの作品が成立したといえるだろう。 その過程で、伏線の回収がなされていないように感じられる箇所もあるが、これについては真相は読者に委ねられていると解釈したい。
真犯人が早い段階で分かってしまうという欠点はあるものの、本書が本邦警察小説史上のひとつの頂点として刻まれる作品であることは間違いない。強くオススメしたい作品だ。
稲葉事件について
稲葉事件については
北海道警察の冷たい夏 (講談社文庫)(曽我部 司)が詳しいので、興味がある向きは一読を。
この本についての個人的な読書感想はこちら。
2008-06-28(Sat) [長年日記] この日を編集
_ 今日読み終えた本
日本版 シャーロック・ホームズの災難
論創社
¥ 1,995
なんの先入観ももたずに読みはじめた『そうか、もう君はいないのか』は、胸にずんと突かれる内容で思わず泣いてしまった。 たぶん、既婚者や同棲している人が読むと、かなり「来る」んじゃないかと思う。
読書感想をあとで書く。
2008-06-29(Sun) [長年日記] この日を編集
_ Net::Whois::Rawをacドメインに対応させるpatchを取り込んで貰った
Net::Whois::Rawをacドメインに対応させるpatchを書いた - ぽっぺん日記@karashi.org (2008-06-08)のつづき。
ircでPerlの偉い人たちに意見を聞いたこと*1を参考にpatchをちょっと手直したんだけど、英語メールを書くのが面倒で塩漬けにしていた。
やっぱり、そのままなのももったいないので、がんばって英語メール書いて作者の人にメールしたところ、取り込んで貰って、Net-Whois-Raw-1.54がリリースされた。 案ずるより産むが易しってヤツですな。
同じ作者のNet-Domain-ExpireDate-0.90を確認したところ、acドメインのWHOIS infoがきちんとparseできないようなのでpatchを書いたんだけど、眠いので明日メールしよう。
*1 実はあまり理解できなかったのはナイショだ。
2008-06-30(Mon) [長年日記] この日を編集
_ Net::Whois::Rawのsourceの話
モジュール中の関数やメソッドでは、必ずこちらを使うよう心がけましょう。.pmならcarp/croakを、.plならwarn/dieと覚えておけばよいでしょう。
[404 Blog Not Found:perl - use Carp; # warn() と die() だけじゃなくてより引用]
ってことなんだけど、Net::Whois::Rawではdie()使いまくりなんだよね。
Net::Whois::RawのNOTEには
Some users complained that the die statements in the module make their CGI scripts crash. Please consult the entries on eval and die on perlfunc about exception handling in Perl.
[Net::Whois::Raw - Get Whois information for domains - search.cpan.orgより引用]
って断り書きが書いてあって、ちょっとおかしかった。




まぁ、まずくはないが、これをビールとは間違えないだろー。 > 田村正和








まで頂ければ幸いです。
マタタビ潔子の猫魂(ねこだま) (ダ・ヴィンチブックス)(朱野帰子)
殺す者と殺される者 (創元推理文庫)(ヘレン・マクロイ/務台 夏子)
Xに対する逮捕状 (創元推理文庫)(フィリップ・マクドナルド/真野 明裕)
一角獣の殺人 (創元推理文庫)(カーター・ディクスン/田中 潤司)
ジャンピング・ジェニイ (創元推理文庫)(アントニイ・バークリー/狩野 一郎)
_ よっちゃん [第三部和也は「地域の平和と住民の安全を守る」という祖父の善良なおまわりさんの血をそのまま受け継ぐことなく変質したもの..]
_ poppen [あー、なるほど。確かにそういう読み方もできますね。実は肯定的に読んでました。 > 第三部 ラストの笛を吹くシーンから..]