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2008-05-26(Mon) [長年日記]

_ 官僚が存在する限り色褪せない不朽の名作── 司政官 全短編 (創元SF文庫)(眉村 卓)

異星文化人類学SFであるとともに、官僚SFでもある作品である。

眉村卓によって書かれた〈司政官〉シリーズのうち、現在までに発表された全短篇を一冊にまとめたものが本書。

惜しくも中断している佐藤大輔の軍事SFシリーズ、〈地球連邦の興亡〉の元ネタのひとつと知って以来、読みたくて仕方がなかったものの、絶版で入手難だったシリーズが手軽に入手できるようになったことをまずは喜びたい。東京創元社GJ!

本書に収められている作品は下記の7篇。

  • 「長い暁」
  • 「照り返しの丘」
  • 「炎と花びら」
  • 「扉のひらくとき」
  • 「遙かなる真昼」
  • 「遺跡の風」
  • 「限界のヤヌス」

ここにボーナストラックとして作品世界ガイド「司政官制度概要」が収録されている。 なんと、全727ページ*1! これで1575円(税込)というのだから、SF者はマストバイのお値打ち価格といえるだろう。

本シリーズの主役というべき司政官とはなにか。手っ取り早く解説から引いておく。

地球人類が宇宙に進出し、数多の植民惑星から成る広大なネットワークを築いている時代。各植民惑星を征服した連邦軍の軍政が、自由を求める植民者や原住者とのあいだに摩擦を生み、その軋轢が限界に達してとき、連邦経営機構は軍政に代わる統治制度を設けた。それが司政官制度だ。司政官とは連邦から植民惑星に派遣される官僚であり、惑星統治の技術を徹底的にたたきこまれた専門家である。その司政官がロボット官僚群を駆使して惑星の統治にあたるのが司政官制度であり──(後略) (p.716)

まず書いておきたいのが、本書の収録作が純粋にSFに見た場合、決して洗練されている訳ではないということだ。

たとえば、司政官に仕えるSQ-1をはじめとするロボット官僚は柔軟性に欠き、命令を杓子定規に解釈しすぎる嫌いがあるあたりは、今日的なSFから見ると少々、首を捻りたくなる。

また、登場するガジェットについても、「扉のひらくとき」において原住民の民族大移動をロボット官僚団が世界地図上で模型を動かして表わす(そして、移動の複雑化とともについていけなくなる)ワンシーンが代表するように、書かれた時代が1970〜80年初頭という点から考えると仕方がないにせよ、古臭いと言わざるを得ない。

しかし、本シリーズについていえば、上記のような「古臭さ」はなんら欠点となっていない。

なぜなら〈司政官〉シリーズのテーマは、異星民族を守りつつ植民政策を進めるという根本的に矛盾した使命を課せられた、地球連邦という巨大組織の一官僚──司政官の苦悩そのものだからである。 それは司政官制度の黎明期から、内に抱えた矛盾が徐々に露呈し、制度自体が形骸化していく過程を追うように並べられた収録作からも明らかだろう。

官僚組織が存在する限り、本書のテーマはいささかも色褪せることはない。 イラク戦争後の軍政の失敗とそれにつづく混乱という世界情勢を踏まえた読み方が出来るように、将来も時代時代に合わせた読まれ方をしていくシリーズになるのではないだろうか。 不朽の名作という言葉がふさわしい一冊だ。

本書のラストに収められた「限界のヤヌス」で崩壊の序曲を迎えた司政官制度だが、つづく『消滅の光輪』、『引き潮のとき』で新たな局面に直面するとのことだ。 両作品については、現在入手しづらい状況にあるようなので、出来るだけ早いうちに復刊されることを希望したい。

*1 あとがき、解説含む。

_ 『引き潮のとき』は黒田藩プレスから全5巻のうち1〜2巻が復刊されているとのことだけど

http://www.kurodahan.com/j/catalog/titles/j0005.html

1冊2409円(税込)は高すぎ!

Tags: SF