最新 追記

ぽっぺん日記@karashi.org


2008-05-01(Thu) [長年日記] この日を編集

_ それは馬車からはじまった──自動車爆弾の歴史(マイク デイヴィス/Mike Davis/金田 智之/比嘉 徹徳) 自動車爆弾の歴史(マイク デイヴィス/Mike Davis/金田 智之/比嘉 徹徳)

1920年9月のある暑い日の正午。 ニューヨークのウォールストリートに停められた爆発物と散弾を積んだ四輪馬車が巨大な火の玉を上げ爆発した。 爆発はウォールストリートにクレーターを作り、付近の車や建物を破壊し、歩行者たちを殺傷した。 死者は40名、負傷者は200名以上。犠牲者の中にはエクイタブル・トラストの社長やJ・P・モルガン・ジュニアの息子も含まれていた。 この爆破事件によりその日は史上初めて株式取引が中止される日となった。

この事件を引き起こしたのはイタリア系移民のアナキスト、マリオ・ブダ。 友人が不当に逮捕されてことに対する報復だった。 ブダがたった一人で「盗んだダイナマイトと金属片の束、そして老馬」(p.11)だけで行なったこの爆破事件は、後に続く自動車爆弾の血塗られた誕生となったのだ。

本書は、ペンタゴンが「オープンソース兵器」と呼び、「iPodやHIV/AIDSと同じくらい」(p.15)地球規模のものとなった自動車爆弾の誕生から現在までの系譜を解説している。

ウォールストリートでの誕生の後、自動車爆弾はパレスチナでのユダヤ人とパレスチナ人の血を血で洗う闘争を皮切りに、ヴェトナムでは米軍兵士を標的に炸裂し、アイルランドではIRA、レバノンでは数々の武装組織、そして世界中のマフィアに用いられ、その威力とコストパフォーマンスの良さから「貧者の空軍」と呼ばれるまでに進化した。*1

その「貧者の空軍」が猛威をふるった結果が、ベイルートのアメリカ大使館爆破事件であり、オクラホマ連邦ビル爆破事件であり、最近のアフガニスタンやイラクである。 また、9・11テロ事件のハイジャックされた旅客機を「貧者の空軍」の新たな進化形と見なしてもあながち間違いではないだろう。

著者は本書の最後で次のように述べている。

南ベイルートの共同住宅やカンダハルの土壁の屋敷へと発射されたレーザー誘導ミサイルのすべてが、テルアビブの中心地や、もしかするとロサンゼルスの繁華街にさえも突撃することを辞さない将来の自爆トラック爆弾を準備する。ブダの荷馬車はまさにこの世の終末を呼ぶ爆走改造車となったのだ。(p.298)

なんとも不気味な予言である。

紛争地やテロ集団に関する歴史的背景の解説には頁がほとんど割かれていないため、それらに関する知識がない読み手にはなかなか手強い本であるが、地球規模で対テロ戦争の嵐が吹き荒れる現代において読む価値がある一冊といえるだろう。

メモ

  • CIA長官ウィリアム・ケイシーはアフガニスタンへ侵攻したソ連軍将校を狙った自動車爆弾をはじめとするテロ攻撃手段をムジャヒディンに教育することを指示した。それをバックアップしたのが、金髪女性を収集することとロシア人を殺すことに情熱を捧げたテキサス出身の民主党下院議員チャーリー・ウィルソンである。『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』もそのうち読む。
  • 著者は第二次世界大戦における特攻機を「日本軍の文化の計り知れない謎」などではなく「卓抜な戦術手段」と評している。同意できる見解だ。
  • カリフォルニアやテキサスの郊外のドライブウェイから盗まれたSUVが自動車爆弾へ転用するため中東へ輸出されている。イラクで用いられている自動車爆弾も米車が多いとのこと。

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 上 (1) (ハヤカワ文庫 NF 334) チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 上 (1) (ハヤカワ文庫 NF 334)
ジョージ・クライル/真崎 義博
早川書房
¥ 780

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 下 (3) (ハヤカワ文庫 NF 335) チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 下 (3) (ハヤカワ文庫 NF 335)
ジョージ・クライル/真崎 義博
早川書房
¥ 780

*1 さらに書けば、都市部ではステルス爆撃機などよりよほど隠密性に優れている。


2008-05-03(Sat) [長年日記] この日を編集

_ 夏の涯ての島 (プラチナ・ファンタジイ)(イアン R.マクラウド/浅倉 久志) 夏の涯ての島 (プラチナ・ファンタジイ)(イアン R.マクラウド/浅倉 久志)

英国SF作家イアン・R・マクラウドの日本オリジナル短篇集。

マクラウドの作品はこれまでS-Fマガジンや『90年代SF傑作選』などで何篇か紹介されてきたが、書籍として出版されたのは今回が初めて。 正直なところ、収録作の中には期待していたほど面白い作品は多くなかったのだけれども、マクラウド作品が一冊の本になったことは素直に喜びたい。

本書に収められている作品は下記の7篇。

  • 「帰還」
  • 「わが家のサッカーボール」
  • 「チョップ・ガール」
  • 「ドレイクの方程式に新しい光を」
  • 「夏の涯ての島」
  • 「転落のイザベル」
  • 「息吹き苔」

解説では

同世代の作家としては「グレッグ・イーガンと肩を並べる存在(ガードナー・ドゾワ)として注目された。(p.431)

なんて書かれているが、収録作を読んだ限りでは、ちょっと持ち上げすぎだなぁという印象。 イーガンのような驚くようなアイデアが見られる訳でもないし、センス・オブ・ワンダーもないし、純粋にSF作品として読むとかなり凡庸なんですな。 「ドレイクの方程式に新しい光を」にはナノマシン(?)による人体改造という技術も登場することはするのだが、ありふれた描き方で特筆すべきものでもないし。

ただ、ストーリー運びや人物描写は非常に巧みで、ここはイーガンに勝っていると言っていいのではないかと思う。 そういう意味でマクラウドの持ち味が発揮されるのは、SF性を剥ぎ取っても成立する「帰還」や「わが家のサッカーボール」、「ドレイクの方程式に新しい光を」といった人間関係を描いた作品であり、「チョップ・ガール」や「夏の涯ての島」といった歴史を扱った作品になるのだろう。

逆にダメなのが、背景世界の魅力で引っ張るタイプの「転落のイザベル」「息吹き苔」のような作品。 肝心の背景世界がなんとも魅力に欠けていてどうにも盛り上がらなかった。

収録作のベストは、第一次世界大戦に敗北したことによりファシズム化したイギリスを描く「夏の涯ての島」。

イギリスでは同性愛が違法だったことを下敷きにした、ユダヤ人や同性愛者に対する隔離政策という設定(第二次大戦下のイギリスにおける同性愛者への抑圧については『夜愁』(サラ・ウォーターズ)に詳しい)、ヒトラーと重なるファシズム英国の独裁者が権力の座を上り詰める様子など、史実からの一捻りのセンスもいいし、改変された歴史を俯瞰するのではなくあくまでも主人公の視点から描き出すストーリー展開もよく、 正統派と呼びたくなる改変歴史小説に仕上がっている。

ただ、作品中で日本が拡張政策を取り中国を侵略していることがほのめかされているが、第一次大戦に深くコミットこそしなかったが敗戦国であるはずの日本にそこまで出来るかどうかは疑問。 中国にプレゼンスを持つはずのドイツと利害の対立があるはずだしなぁ。 もしかすると、ドイツ弱体化のスキを突いて(史実と同様に)火事場泥棒的なことを行なっているのかも知れない。 でも、そうすると、ドイツに対抗して軍事力を強化しているはずのソ連との対立が激化して……と妄想が止まらなくなってしまいそうになる。

解説にも書かれていることだけど、個人的にも本書が出版された勢いで、ぜひ他のマクラウド作品の翻訳が進むことを希望したい。 改変歴史物が大好きな人間としては、エーテルがすべての産業の基礎となったヴィクトリア朝英国が舞台の『The Light Ages』と、その100年後『The House of Storms』が訳されれば嬉しいなぁ。

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]

_ arton [>逆にダメなのが 賛成。最後の2つは読むのが退屈になって、途中で投げてしまいました(イザベルは読み終えましたが)。あ..]

_ poppen [眠くなりましたが、がんばって読みました(笑) > イザベル & 苔 マクラウドには改変歴史ものの他、社会主義SFみた..]


2008-05-04(Sun) [長年日記] この日を編集

_ 愛すべきマンネリズム──バンガローの事件―ナンシー・ドルー・ミステリ〈3〉 (創元推理文庫)(キャロリン キーン/Carolyn Keene/渡辺 庸子)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

少女探偵ナンシー・ドルーが活躍するシリーズ第3弾。 あいかわらずの勧善懲悪なストーリーで、意外性はないものの、安心して子供に勧められるライト・ミステリだ。

今回のストーリーは、ナンシーと友人ヘレンが湖でボートに乗っていたところ嵐に襲われ、危ういところをローラという少女に助けられるところからはじまる。 彼女たちはすぐに意気投合し友人となる。 ローラが打ち明けた身の上話によれば、一月前に母を亡くし彼女は天涯孤独の身とのこと。 後見人となるアボーン夫婦に引き取られる予定なのだが、ローラは夫妻に不安を抱いていた。 ひょんなことからアボーン夫妻と知り合うことになったナンシーだが、ローラと同じく夫妻にはあまり良い印象を受けない。 夫妻が隠している思惑とは、いったいなんなのか──。

物語の骨子は、はっきりいってシリーズ第1作『古時計の秘密』とほぼ同じなのだが、一捻りしてあって「なるほど、そう来たか」と思わせるものとなっている (ちなみに、シリーズ最大のナンシー危機一髪的な展開もありますよ)。

とはいえ、前述の通り勧善懲悪なストーリー展開、 第一印象が良い人は善人で、第一印象が悪い人はやっぱり悪人という単純明快なキャラクター設定、 ナンシーの父カーソン・ドルーが手掛ける有価証券横領事件とのナンシーが追う事件がリンクするというご都合主義あたりは健在。

マンネリといえばマンネリなのだろうが、本書のターゲットとなっている児童にとっては、意外性のあるストーリーよりも本シリーズのような予定調和の方が安心して読めることは想像に難くない。 いってみれば、水戸黄門のような愛すべきマンネリズムなので、そこにツッコむのは野暮というものなのだろうね。

本書でちょっと気になったのが、行方不明のナンシーを探すために車を飛ばす(でも、法定速度はきちんと守る)カーソンが「ヘリコプターがあればどんなにいいかと思ってしまうよ」と言うくだり。

はて、原著が書かれた1930年にヘリコプターは実用化されていたかしらんと思いググってたところ、Wikipediaには次のように書かれていた。

1907年フランスのポール・コルニュ(Paul Cornu)が約2mの高さで20秒間のホバリングに成功した。 実際に、きちんと飛行できるヘリコプターが最初に飛行したのは、ハインリッヒ・フォッケにより1936年にベルリンで開発されたFocke-Wulf Fw61である。

1930年にはまだ実用化されていなかったと考えた方がよさそうだ。

カーソンのセリフは、我々が「自家用ジェット or 自家用ロケットがあればなー」とボヤくのに近い感覚なのかも知れないが、そのわりにローラが

「あのあたりは森ばかりですもの。きっと、降りられる場所が見つからないんじゃないかしら」

と冷静にツッコミを入れているあたりはちょっと変な感じではある。

そんな訳でストーリー以外に妙な部分が気になってしまう一冊でありました。


バンガローの事件

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書評/ミステリ・サスペンス


2008-05-05(Mon) [長年日記] この日を編集

_ 墓参りに行って来た

連休がはじまって2日間、自宅の用事ばかり済ませていたので、3日目の今日は気分を変えて墓参りに行って来た。

とは言うものの、墓のある寺は職場のある新宿からプラスαくらいのところにあるので、なんだか通勤しているような気分。 まぁ、妻と一緒だったので、そこはちょっと違うけど。

墓参りを終えて、新宿で食事して、妻の婦人服バーゲンに付き合って帰ってきたのだが、帰路の電車の中で、妻が向かいの席に座った女の子二人組を「鼻と前歯の形が似ているから、きっと姉妹だよ」(まぁ、姉妹みたいだったけど)とか「あの娘、荒川静香に似ていると思わない?」(確かに似ていたけど)とか聞いてきて、夫婦揃ってジロジロ見る訳にもいかず、かなり困った。


2008-05-06(Tue) [長年日記] この日を編集

_ 連休をふりかえって

今年のGWはカレンダー通りの4日間の連休だった。

連休中にはJavaScript 第5版(David Flanagan/村上 列) JavaScript 第5版(David Flanagan/村上 列)を読んで、時間があればPythonかPerlでも勉強しようかなんて、大それたことを考えていたんだけど、結局、サイ本も読了できない体たらく。

その代わり、墓参りに行けたし、畑仕事や竹薮の整理、自宅の掃除も出来たので、まぁ、悪くない過ごし方だったんじゃないかと思う。 (技術書ではない本の)読書も昼休みや夕飯後に進められたしね。

目下の心配は、衝動的にチケットを買ってしまったYAPC::Asia 2008に出席するにあたって、全然Perlが分からないことだったり。:-)


2008-05-07(Wed) [長年日記] この日を編集

_ 20世紀初頭のアメリカ農村部での暮らしを生き生きと描く──ホーミニ・リッジ学校の奇跡! (sogen bookland)(リチャード ペック/Richard Peck/斎藤 倫子)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

インディアナ州の片田舎の学校を舞台にしたヤングアダルト作品が本書。

ティーンエイジャー向けとちょっと軽く見て読みはじめた本書だが、傑作の太鼓判が押せる良作品で思わぬ拾い物(というのは作者に失礼か)。 年齢にかかわらず楽しめること請け合いの一冊だ。

本書の語り手は勉強嫌いの15歳の少年ラッセル。 弟のロイドとともに父の農業を手伝う良い少年なのだが、学校がいやで仕方がない。 学校なんかやめてダコタで一刻も早く働きたいといつも夢見ている。 夏休みも終わる頃となり、ラッセルは憂鬱な日々を送っていた。 そんな彼のもとにニュースが飛び込んでくる。大嫌いなオールドミスの教師、マート先生が急死したというのだ。教師が1人しかいない(ついでに書けば、教室も1つ)のホーミニ・リッジ学校もこれで閉鎖されると大喜びするのだが、その期待も虚しく、臨時の代理教師が雇われることになった。 その代理教師こそ、彼が最も苦手とする人間の一人、姉タンジーだったのだ──。

17歳の教師タンジーと、6歳から20歳(教師より年上!)のあまりにも個性的すぎる生徒たちが織り成すドタバタ劇が展開されるのだが、もうはっきりいってメチャクチャ。

たとえば、主人公ラッセルは馬車の鞭をタバコ代わりに吸った際(!)の火の不始末でトイレを燃やすわ、パイプの掃除をしようとしてストーブに火薬を放り込み教室ごと吹き飛ばしそうになるわの失敗をやらかすし、 教師であるタンジーにしてから、学校を存続させるため自ら生徒のリクルートに出掛けるわ、苦手な算数の授業をはじめようとして生徒から「やめたほうがいいです」とツッコミを入れられるわ、といった具合なのだ。

ドタバタ劇も楽しいのだが、本書を傑作たらしめているのは、学校生活とともに20世紀初頭のアメリカ農村部での暮らしが活写されている点だ。 年に一度、蒸気機関車で訪れる鋼鉄製の脱穀機のセールスショーに近隣の男たちが集まり、初めて見るレーシングカーに目を見張り、豚を屠畜して近所の人たちにふるまう──まるで見て来たかのようにそんな様子が生き生きと描かれている。

訳者あとがきによれば、作者でリチャード・ペックが自身の作品の舞台として好んで20世紀初頭を取り上げるのは、その時代を知らない子供たちへの教育的側面もあるようだ。 考えてみれば、日本の約100年前がどんな様子だったか想像しろと言われても、きちんと思い浮かべることが出来ないのであるから、まぁ、当たり前といえば当たり前。

教育的側面といえば、「なぜ勉強をする必要があるのか」という問いにも本書は答えている。 読書の興を削ぐので詳しくは述べないが、決して押し付けがましくないところは作者の持ち味なのだろう。

しかし、だからといって浅い訳ではない。 村の鼻つまみ者一家の長男が勉強について語る、

自分自身を高めようとしない連中は、ほかの人間が自分を高めようとするのをいやがる。(p.229)

という言葉には、大人の読み手であってもはっとさせられるはずだ。

ラストで明かされるタンジーと生徒たちの「その後」も爽やかな読後感を残してくれる。

作者リチャード・ペックは優れた児童文学に贈られるニューベリー賞を受賞した作家であるが、本書でも〈2005年度優秀ヤングアダルト図書〉および〈2005年度の傑出した児童文学作品〉に選出されたとのこと。 それも納得の一冊だ。


ホーミニ・リッジ学校の奇跡!

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書評/海外純文学


2008-05-09(Fri) [長年日記] この日を編集

_ プリオン発見の歴史を紐解くスゴイ本──眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎(ダニエル T.マックス/柴田 裕之) 眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎(ダニエル T.マックス/柴田 裕之)

『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』並みに面白いノンフィクションがないなぁと思っていたら、とんでもなく面白い本がktkr。

これはスゴイ本! 医療系のノンフィクションなのだが、ミステリー的な面白さもあり、一気読み。

本書は、イタリアのある高貴な一族の物語からはじまる。 彼らは18世紀から現代まで続く原因不明の奇病に悩まされていた。 一族のうち2人に1人という高確率で、50代になる頃に異常な発汗と瞳孔縮小という症状が生じた後、全く眠れなくなり徐々に衰弱しながら死亡してしまうのだ。

当初は呪いとも考えられていたこの奇病は、その後「致死性家族性不眠症(FFI)」と名付けられたものの原因は分からずじまいだった。 その原因が特定されたのはつい最近のことである。

その原因となる物質こそ、本書のテーマであるプリオンだ。

プリオンはウィルスやバクテリアと違い、ただのタンパク質すぎず、生きている訳ではない。それにも関わらず、感染性、遺伝性、散発性を持ち、

煮沸してもだめだし、熱も効かない。放射線でも確実にプリオンを「殺す」ことはできない。プリオンは、ホルムアルデヒドを注ぎかけても無害にならないどころか、ますます強靭になる。漂白剤もプリオンを死滅させるとはかぎらないし、有効なものも、高濃度で使用しなければならない。(p.31)

という不死性さえ持っている。 感染した後、自分と同じ折り畳まれ方のタンパク質を増やしてゆくという増殖方法をとるプリオンは、今までの医学の常識を打ち壊す存在だった。

著者は、18世紀のイギリスの羊の間で大流行した「スクレイピー(こすり病)」、パプアニューギニアの奥地に住むフォレ族に猛威を奮った「クールー(震え病)」、そして世界を震撼させた狂牛病を通してプリオンが発見された歴史を紐解いていく。

特に狂牛病では、日本のそれに劣らないイギリスの強烈な官僚主義により対策が後手後手に回った経緯を詳細に記していて、非常に興味深い。 なんと、人間の食品よりもペットフードの方が牛の扁桃や腸、脾臓といった危険部位の使用の禁止が早かったことさえあったのだ。 著者はその対策の遅さを

つまりイギリスでは五ヶ月のあいだ、人間でいるよりも犬でいるほうが安全だったというわけだ。(p.239)

と痛烈に非難している。

本書では、プリオンを発見した功績によりノーベル賞を贈られたガイジュシェックとプルジナーという2人の科学者が取り上げている。 ただし、この2人、お互いに相手のことを嫌悪している点は横に措くとしても、はっきりいってまともな人間ではない。 ガイジュシェックは少年を対象にした小児性愛者で、後に性的虐待の罪で投獄されるし、プルジナーはプルジナーで強烈な上昇指向を持ち、他人の研究結果や論文の剽窃などなんとも思っていない人間なのだ(ちなみにプリオンと名称はプルジナーによる。その命名理由のひとつが、自分の名前に似ているからだそうだ)。 しかし、このような2人がいなければ、プリオンの研究が進んでいなかったかもしれないというのは歴史の皮肉というべきだろうか。

本書はまた、イギリス人にはプリオンに罹患し難い遺伝子コードを持つ人間が多いことを明らかにする。 それが狂牛病に汚染された食品が6400億食分があったにもかかわらず、死者がイギリス全体で約150人に留まった理由だった。

では、なぜプリオンに感染しやすい人、その反対に感染し難い人がいるのか。 著者は80万年前に人肉食が行なわれていたとの仮説を提示する。 人肉食を行なった人間の子孫がプリオンに罹患し難い「ヘテロ接合体」で、行なわなかった人間の子孫が「ホモ接合体」だというのだ。 日本人の多くはホモ接合体であり、そのためアメリカで狂牛病が発生した際、日本政府が過敏に反応した理由だそうである。 日本人としては気になる情報だ。

あとがきでは、眠れない一族に同情を寄せるとともに、珍しい症例の患者たちをモルモット扱いする研究者たちの態度を冷静な筆致で批判している。

自身も遺伝病を患う著者の渾身の書である。


2008-05-10(Sat) [長年日記] この日を編集

_ 備えあれば憂いなし──「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム(デーヴ・グロスマン/ローレン・W・クリステンセン/安原 和見) 「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム(デーヴ・グロスマン/ローレン・W・クリステンセン/安原 和見)

『眠れない一族』に続いて、これまたスゴイ本!

退役軍人にして軍事学教授である著者が上梓した『戦争における「人殺し」の心理学』の続篇が本書。

前著は去年読んだノンフィクションの中で最も衝撃受けた本のうちの一冊だが、本書もスゴイ。 600ページという大著だが、ぐいぐい引き込まれて一気読みしてしまった。

本書のテーマは、「なぜ兵士は敵を殺せないのか」を命題にした前著より一歩踏み込み、「では、戦士たち(著者は兵士や法執行官といった職業として戦闘に携わる人々をこう呼んでいる)が精神的なダメージを受けずに敵を殺すためにはなにが必要なのか」というもの。

今回は、前著『戦争における「人殺し」の心理学』のときとはちがって、実際に戦士──毒と腐敗と破壊に満ちた戦闘という環境に、実際に身を投じる人々──の役に立つ本を書くことにより力を入れた。(p.10)

と著者が謝辞に書いている通り専門家を対象にしてはいるが、前著と同様、軍事知識のない一般人でも読めるリーダビリティの高い本となっている。

これまで極限状態の体験談として語られてきた、いつもは簡単に出来るなんでもないこと(弾倉を交換する、引き金を引かない、警察に電話する等)が出来なくなる、聴覚が抑制され銃声さえ聴こえなくなる、視野が極端に狭くなる、時間が遅く進んでいるように感じるといった現象に著者は生理学的観点から光を当てている。 それらは単なる思い込みなどではなく、万人に共通する現象なのだ。

そういった現象に対処するために実践的な訓練が必要であることを著者は述べている。 射撃訓練には板ではなく写真を貼り人間を模したターゲットやヴァーチャルリアリティを用い、対抗訓練にも空砲ではなく当たれば痛いペイント弾を使用する、などがそれである。

また、戦闘に打ち勝つためには、危険な相手を制止する必要がある時には躊躇なく中枢神経に弾丸を叩き込む、撃たれても立ち上がって反撃する、最後には生き延びることに全力を尽くすという決意を持つことが大事だとも語られる。

心臓を撃たれテニスボール大の穴を開けられた後にも強盗を追跡して撃退し、手術中に心臓が二度止まりながらも生き延び現職に復帰した女性警官、ショットガンで撃たれ脳に散弾が入る重傷を負いながらも反撃し犯人を射殺した警官といった逸話には、人間の意思がどれだけ力を持つものであるかを強く感じさせられる。

著者は 「テロリストや犯罪者といった悪から一般人を守るためには番人たちが法や正義に基づいて行使する暴力が必要」という実利的なスタンスで本書を記している。 そこに「正義とはなにか」や「どんな状況で暴力は許されるのか」といった抽象的な問いが入る余地はない。 それゆえに本書を受け入れ難く感じる人もいるとは思うのだが、どんな信条の人であっても読む価値がある書だと断言しておきたい。 なぜなら思想・心情に関係なく降りかかる事件や事故、災害に対処するためにも本書は役に立つに違いないからだ。

たとえば、著者は様々なインタビューやリサーチから危機的状況に立ち向かった戦士たちと暴力的な事件(9・11テロや学校での銃乱射事件など)の被害者たちに共通する、次のような身体的・心理的影響があることを示す。

  • 危機的な状況になると大小の失禁してしまう。
  • 友人や仲間が殺されるような場面を生き延びた場合、「自分ではなくて良かった」と最初に思う。
  • 犠牲者が亡くなった理由を根拠なく自分の所為だと思い込む。

最初の失禁は措いておくにしても、残りの2つについては知らないと事後、自分が利己的であり、救える命も救えなかった人間だと思い悩む原因となりかねない。

著者は精神的なダメージを軽くするために関係者一同が集まり、なにがあったかを話し合う事後報告会が有効であると述べている。 日本においても事件や事故、災害などで被害者がPTSDを発症するケースが多い。 被害者の二次被害を防ぐためにも事後報告会のような取り組みが必要とされるのではないだろうか。 著者が唱える事後報告会の意義、

人の命を救うためにあるのだ。(p.528)

は重く受け止めるべきだろう。

その他の興味深かったことについても触れておきたい。

そのうちのひとつが睡眠の重要性を示すために著者が引いている、ある砲兵大隊で行なわれた実験だ。 その実験とは大隊を4個中隊に分け、睡眠時間をそれぞれ7、6、5、4時間とし、20日間に渡り起きている時間はずっと砲撃訓練をするというもの。 その結果が

七時間眠っていた第一群は最高で九八パーセントの命中率をあげたが、第二群は五〇パーセント、第三群は二八パーセント、そして一日わずか四時間睡眠だった気の毒な第四群は、最高一五パーセントの命中率しかあげられなかった。(p.62)

というものだったそうである。 一般的な勤め人であればミスの連続といった感じだろうか。 1日4時間睡眠でずっとやっていけると考えている人(著者の言うところの「ミスター1日4時間睡眠」)は考えを改める必要がありそうだ。

また、前述した通り、極度の緊張状態となった際には911(日本でいえば、110や119)にダイヤルすることさえ難しいという事実も興味深かった。

  • 何度やっても番号案内にかけてしまう。
  • 外線発信番号をプッシュすることを忘れる。
  • 携帯電話で「番号をダイヤルしてから『通話』ボタンを押す」ことが思い付かない。

そんな状態に陥ってしまうそうだ。 対策として、普段から緊急電話へダイヤルすることを普段から練習をすることを著者は提案している(もちろん、電源を切るなり、電話線を抜くなりして実際にはかからない状態にしてから)。

普段の練習の他に、ストレスを軽減するために著者が推奨しているものが「戦略的呼吸法」と名付けている腹式呼吸だ。 これは怪我をした時やパニックに陥りそうになった時といった危機的な状況だけでなく、キレそうになった時などにも活用できると思うので引用しておく。

まず、ゆっくり四つを数えながら鼻から息を吸い、腹を風船のように膨らませる。そこで息を止めて四つを数えながら今度は口から息を吐き、空気の抜けた風船のように腹をへこませる。息を吐ききったところで、息を止めてまた四つを数えたら、この手順をまた最初からくりかえす。(p.537)

非常にシンプルな方法だが、「ゆっくりと深呼吸する」ことを普段から行なっている人であれば納得できるのではないだろうか。

著者はまた本書の中で暴力的な映画やテレビ、ゲームが子供に与える悪影響についても繰り返し警告している。 これまでにも散々言われていることであるし、「ゲーム脳」云々という名前を持ち出して反発する向きもあるのではないかと思うが、著者が事例として引いているスタンフォード大学が小学生を対象に行なった実験を読んだ限りでは信憑性があるように感じられる。 その実験によれば、テレビの視聴時間を一学期間減らした時、暴力の顕著な現象が見られたそうである。 この実験結果を信用するかどうかは別としても、少なくとも6〜7歳の人格形成期に暴力的なメディアに子供を接しさせないという対策は推奨されるべきだろう。

本書を読んだだけで、極限状態における精神的・身体的なコントロールが出来るようになる訳ではないのは当然である。 しかし、どういう現象が起きるかを頭の片隅にでも入れておけば、いつか役に立つ時がくるかも知れない。

備えあれば憂いなし。そんな言葉を実感させてくれる書だ。

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫) 戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)
デーヴ グロスマン/Dave Grossman/安原 和見
筑摩書房
¥ 1,575


2008-05-11(Sun) [長年日記] この日を編集

_ 蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)(ジョン・スラデック/柳下毅一郎) 蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)(ジョン・スラデック/柳下毅一郎)

SF作家ジョン・スラデックの短篇集。

実は、スラデックは本書で初めて知ったのだが、その芸風はSFに留まらず、ミステリーやホラーからナンセンス小説、文学までと非常に幅広いもので驚かされた。

様々な雰囲気が味わえる一冊だ。

本書に収められている作品は全23篇。 印象の残った作品を10篇を挙げておく。

  • 誰も理由が分からないままお互いにスパイ合戦を繰り広げている家庭を描き、陰謀論大好なアメリカ社会をおちょくった「古カスタードの秘密」
  • マッドサイエンティストにより車がレイプ魔となる(ただし相手は機械)という怪獣SFパロディなユーモアポルノ「ピストン式」
  • 風光明媚な休暇旅行に出掛けたサラリーマンの終わらないバス旅行を陰鬱な筆致で描く「高速道路」
  • デニケンの宇宙考古学(最近だと『神々の指紋』な?)をおちょくった「神々の宇宙靴──考古学はくつがえされた」
  • 密室トリックをこれでもかとぶち込んだメタ・ミステリー「密室」
  • テディベアをモチーフにしたホラー「小熊座」(グレートゴーストダンスなんかが登場してちょっとShadowrunを思い出した。ちなみに、あとがきによれば、ロンドン大学にあるジェレミー・ベンサムの剥製は実在するとのこと。ホント?)
  • ハインラインの『人形つかい』ぽい侵略物だが、最後に皮肉が効いている「ホワイトハット」
  • なんとも分かり難いタイムパラドックス物「蒸気駆動の少年」
  • 大人と子供が役割が入れ替わった世界を描き、レジャーにうつつを抜かす現代社会を皮肉った「おとんまたち全員集合!」
  • 突如、本が鳥のように「渡り」をはじめる「教育用書籍の渡りに関する報告書」

収録作には3篇のミステリーが含まれているが、トリックにばかり注力して、事件の背景説明等は「どうでもいい」とばかりにほとんど無視されているのには笑ってしまった。 スラデックのミステリーは売れなかったらしいが、さもありなんという感じだ。

スラデックの作品の中には世界初のゲームブックもあるらしい。 どんなもんだか、ちょっと読んでみたい気がする。 本書が刊行されたことがきっかけで訳されればいいなぁ。

_ 雨の合間に畑仕事&庭仕事

山椒

080511-165125

山椒の実はまだ小さい。 収穫は来月だね。

トマト

080511-165258

080511-165244

080511-165313

GW中に植えたトマトの苗木は順調。


2008-05-13(Tue) [長年日記] この日を編集

_ YAPC::Asia 2008の件

仕事がちょっとアレなんだけど、木曜日のYAPC::Asia 2008 第1日目には出席できそう。 そんな訳で聞きたいセッションを選択中。

2日目はビミューなんだけど、なんとか出たいなぁー。

今日はじめて知ってびっくりしたんだけど、YAPC::Asiaって昼食が出たり、夕食が出たり、オヤツが出たりするんだね。 豪勢だ (カンファレンス中の食事について)。

夕食(カンファレンスディナー)は300名限定だということなんだけども、チケットを買ったのが早かったためか参加できるようだ。 嬉しい。:-)

Perlはほとんど分からないオレだけど、当日は、『実用Perlプログラミング』(黒ヒョウ本)を読みながら、なんとか話についていけるよう準備しながら行くよ(ぉ


2008-05-14(Wed) [長年日記] この日を編集

_ 死者を起こせ (創元推理文庫)(フレッド ヴァルガス/Fred Vargas/藤田 真利子) 死者を起こせ (創元推理文庫)(フレッド ヴァルガス/Fred Vargas/藤田 真利子)

フランスの本格ミステリー・シリーズ第1弾が本書。

シリーズ第2弾の『論理を右手に』を献本して頂いたので、未読だった本書を発注して読了。

本書の主人公は歴史学者崩れの3人、マルク、マティアス、リュシアン。 3人とも失業中または希望の職に就けずアルバイトの身の上だ。 それぞれの専攻が中世、先史時代、第一次世界大戦で、互いに自分の専門分野こそ素晴しいと考えているがなぜかウマが合い、パリ市内のボロボロの屋敷の家賃を折半して、元刑事のマルクの伯父を加えた4人で共同生活を営むことなった。 ある日、そんな3人+1人の元を隣家の元オペラ歌手の夫人が尋ねてくる。 自宅の庭に、知らぬ間にブナの若木が植えられていたというのだ。 不気味に思った彼女は夫に相談するものの大したことと思わず感心を示そうとしない。 仕方なく、彼女は隣人に相談をすることにしたのだ。 マルクの伯父の勧め(と夫人が提示した手間賃)もあり、3人は木の下を掘ることに──。

フランス人の馴染みのない名前と、冗長な文体(元からそうなのか訳のせいなのかは不明だが)に「なんだか読みづらいなぁー」となかなかペースが上がらなかったのだが、それも事件発生前の導入部まで。 事件が起きてからは、2転3転する容疑者と、どこに着地するか分からないストーリー展開にぐいぐい引っ張られて一気読み。

いやー、これはオススメできる傑作ミステリーですよ。

ストーリーをぐっと引き立ていると同時に適度なユルさを与えているのが、キャラ立ちしまくった主人公3人組。

マルクは黒づくめでキレやすい離婚歴のある男で、マティアスはなぜか全裸で生活することが好きなワイルドかつ寡黙な男。

極めつけが、第一次世界大戦絡みの資料を見付けると、事件そっちのけでそちらに熱中してしまう男、リュシアン。 いったん燃え上がってしまうと人の話を聞かず、自己主張ばかり大声で話すという軍事オタクぶりに、オタクの気質に東西の違いはないんだなぁと変な感心をさせて貰った。

そんな3人に、深謀遠慮を巡らすマルクの伯父にしてクビになった元刑事のヴァンドスレールが加わって事件を解決すべく奔走する、というのが本書の骨子。

原著は英訳されて2006年にダンカン・ローリー・インターナショナル・ダガー賞を受賞したとのこと。 邦訳は2002年に刊行されているので欧米より紹介が4年も先んじていた訳だ。 日本の出版業界もなかなかやるじゃないかと思ったのは、たぶん、オレだけではないはず。

ちなみに、夕飯のために店から野うさぎのパイやエビ盗んできて、みんなでしれっと食べてしまったりして「なんというか、ラテン系っていうのはスゴイね」と、文化の違いも感じさせられる一冊でもある。 そういえば、本書のパリは全然、オサレじゃないですなー。

つづけて第2弾も読みますよ。

_ 明日はYAPC::Asia 2008

今日の前夜祭は残念ながら出られなかったんだけども、明日はフルに参加できる予定(明後日はまだ未定)。

明日は、寝床で積ん読になっているラクダ本を持って行こうかと思ったんだけど、さすがに重すぎるので諦めた。

行き帰りの読書は、黒ヒョウ本だと、ちとオレには早すぎるような気がするので、『続・初めてのPerl』に変更した。

明日は早いので、今日は早寝する。


2008-05-15(Thu) [長年日記] この日を編集

_ YAPC::Asia 2008 1日目に参加した

Perlは簡単なスクリプトとPlaggerの簡単なpatchを書いたことがあるくらいで、ほぼ完全な素人で場違いなんだけども、YAPC::Asia 2008に参加してきた。

セッションは充実していた上に、天気も素晴しい、東工大のキャンパスもきれいと、良いとこばかりの一日だった。

以下、参加して印象に残ったセッションのメモ。

Welcome to YAPC::Asia 2008

miyagawaさんの話で印象の残ったものとオレの感想。

  • YAPCに参加した人は、もうPerl mongers
    • すげー、オレもPerl mongerなんだ。でも、このスキルでそう言うのは恥ずかしい。
  • 仕事で参加できないという人がいるけど、YAPCと仕事どっちが大事なの? 仕事はいつでも出来るけど、YAPCは年にこれだけの期間なんだぜ。
    • たしかに。死ぬ前に「もっと仕事しておけばよかった」と思う人はいないって言うからなー(でも、2日目は仕事で出られなかった、ヘタレなオレ)。

あと、YAPCの読み方が「ヤプシー」だというのをはじめて知った。

A Standard That Is Meant To Be Broken, 本当に!

Larry Wall御大によるPerl6の解説。

  • Perl6は冗談じゃない!
  • Perl6は文法自体も拡張できちゃうんだぜ。

正直、Perl5の文法もあやふやなオレにとってはハードルが高い内容だった。

セッション会場になった講堂の外で遊ぶ子供の声が聞こえてきて、なんだか穏かな気持ちになって眠くなったり。

Continuous Testing

最近、RailのテストをRSpecするようにしていて、すっかりテスト廚になってしまったので外せないセッション。

紹介されたのは、Test::Continuousというテスティング・ツール。

変更をsaveすると同時にテストが走るというもので、RubyでいうところのZenTestのautotest相当のツールと考えれば間違いない。

まだモジュールの依存関係の検知が甘いらしいけど、将来、オレがPerlで開発する時には欠かせないツールになるのではないかと予想。

PSL = Perl as a Second Language

Perlが最初の言語ではない人のためのセッション。

OOを学ぶならPerlという話はちょっと?という感じではあったんだけども、最初の言語を見直すためにPerlを学ぶという話はなるほどと頷けた。

オレのような初心者でもよく分かるセッションだった。

スライド→YAPC::Asia::2008 - Perl as a Second Language

昼食

サンドイッチとペットボトルが出た。ウマー。

Perl Testing (and Automation) Basics

テスト廚としては、こちらも外せないセッション。

Perlに限らず参考になる内容だった。

以下、メモ。

  • テストの仕組みが揃っているので、CPANモジュール形式で開発すると楽。
  • 闇雲にテストをしても仕方がない。書くテストは次の通り。
    1. 正常値
    2. 異常値
    3. 限界値
    4. 特殊値
  • サーバが必要なテストはApache::Testを使う。
  • バグは必ず再現コードをテストに残す。→間違いは2度しない。
  • 環境に左右されないように、ポータブルなテストを書く。
    • File::Spec/Path::Classを使う。
    • 必要なダミーファイルを作成する。
  • Makefile.pl→Makefileの過程で、初期設定の設定・確認をする。
  • 外部からの情報は環境変数を使う。
  • テスト後の後片付け、もしくはテスト前の掃除をする。
  • モックにはTest::MockObjectを使う。
  • テストを書かなくていいのは小学生まで。
  • テストの「書けない」対象はほとんど存在しない。

「TDDは理想であるが、コードを書いて飯を食べているのでなかなかそうはいかない。締め切りもあるし」(大意)という話は印象に残った。

最近、TDD(というか、RSpecなのでBDD)を実践するようにしている。 バグ修正や将来の仕様変更にかかる時間などを考慮すると、トータルでは時間短縮になるはずだが、一発目にリリースする時には時間がかかってしまい、タイムリミットがあるとやっぱりキツイと思う。

ただ、オレのような頭の悪い人間には、TDDの方が「テストしやすいAPI」を考えながら設計できるメリットもあるんだよなー。 最近、テストを全然書かないで作ってしまったRailsアプリにテストを追加して苦労した経験からそんなことも思った。

問題は、どこで妥協するかなんだよな。

Web is not the only one that requires frameworks

セッション開始前に仕事の電話が入って全然聞けなかった。 ちなみにこの電話で2日目は不参加が決定。

セッションの内容じゃないな、コレ。

The Fastest Template Engine in Perl World

Tenjin、超速いよ、というセッション。

速いというのももちろんだけど、テンプレート用言語を覚えるのはムダというのは納得。

Tenjinは一回、CGIを書く時に使おうと思ってみたことがあるけれど、結局、使う機会がなかった。 また試してみよう。

ちなみに、Tenjinの由来は、テンプレートエンジンとのこと。うほ。

Lightning Talks

収支概算を公表します

ここまで詳細に収支を発表すると、他のイベントの参考にばりばりなるんじゃないかと思った。

あと、Hotel DANが支出の削減に非常に貢献しているというのは、やっぱりすげーなと思った。

Open Fastladder with Plagger

サーバが用意できなくて、いまだにOFLのインストールしていない。

そのうち使いたい。

Everybody wanna know where you belong!

日本人CPAN Authorは200人弱しかいないということで、名前を売るなら今じゃね? とか思った。

ちなみにリストはhttp://coderepos.org/share/browser/lang/perl/Acme-JapaneseCPANAuthors/trunk/lib/Acme/JapaneseCPANAuthors/Registered.pmに。

懇親会

寿司多い! オードブルもたくさん! アルコールはビール、日本酒、ワイン!

引っ込み思案なもんだから、ビールを飲んで適当に酔って気を大きくしてから、何人かの参加者と名刺交換させて頂いた。 こういう時はもうちょっと気が大きくならんかなぁと思う。

ちと自宅が辺鄙なとこなので、早めにお暇させて頂いた。 よく考えたら会社に泊まるようにすればよかったんだな。 失敗。

その他

Larry Wall御大にサイン貰った!

Larry Wall御大にサインを貰った! でも、サイン貰ったの『続・初めてのPerl』!(ぉ

重いの我慢してラクダ本持っていけばよかったなぁ。

with Larry Wall

Larry Wall御大と写真を撮った!

Danさんにサイン貰った!

Dan Kogai氏にサインを貰った!

まとめ

ホントに素晴らしいイベントだった。

2日目に参加できなかったのは残念。

運営スタッフの方々に感謝するとともに、来年もぜひ参加させて頂きたいと思う(それまでに、もうちょっとPerlを覚えて)。


2008-05-16(Fri) [長年日記] この日を編集

_ YAPC::Asia 2008の2日目行けなかったー

仕事とYAPC、どっちが大事なんだ! > オレ

すいません。世間のしがらみに負けました。


2008-05-17(Sat) [長年日記] この日を編集

_ 公衆衛生の幕開けを描いたスゴイ本──感染地図―歴史を変えた未知の病原体(スティーヴン・ジョンソン/矢野 真千子) 感染地図―歴史を変えた未知の病原体(スティーヴン・ジョンソン/矢野 真千子)

『眠れない一族』につづいて、とんでもなく面白い医療系ノンフィクションがktkr。

こちらも文句なしにスゴイ本! 一気読み間違いなしの傑作だ。

本書が扱っているのは、1854年の晩夏にロンドンのソーホーで発生したコレラ禍。 このコレラ禍は700人以上が犠牲となる甚大な被害をもたらすとともに、後の科学的公衆衛生の幕開けともなった事件だった。

当時、コレラの感染ルートと一般に流布していたものは瘴気だった。 スラムの不潔な空気からコレラが発生し伝播するとい考えられていたのだ。

その背景には差別意識があるのだが、同時にスラムの衛生状態があまりに酷かったかという現実も多大に影響している。 本書の中で当時のロンドンがいかに不潔であったかをよく表わしている箇所をいくつか引いておこう。

両家の地下室はすべて三フィートもの人糞で埋まっており(中略)廊下を抜けた中庭も、深さ六インチほどの便所からあふれ出た汚物でいっぱいになって……(p.20)

小さな家一軒ほどの高さの人糞の山(p.20)

バケツから水路に汚物があけられるときのしぶきの音がときおり聞こえた。(中略)住民はそこにバケツから汲んできた水をうつし、一日か二日そのままにして汚物と害毒と病気の粒子である固形物を沈殿させ、上澄みをすくいとるのだという。子供が水路の水をかき混ぜないようにそっと空き缶を下ろしていると、別の人がやってきて、屎尿が入ったバケツの中身をあけた。(p.21)

このようになんとも凄まじい状況になっていたのだ。

瘴気説を支持していたのだが、偏見に凝り固まった人々だけではなく、ナイチン・ゲールをはじめとする偏見とは無縁の社会推進者たちも含まれていたことは、スラム街の不潔さを示す証左と言っていいだろう。

1854年、ソーホーのブロード・ストリートから突如はじまったコレラ禍について、従来の瘴気説に疑問を持った2人の男たちがいた。 一人がコレラの発生源を突き止めることに情熱を注いでいた麻酔医ジョン・スノー。 もう一人が地元の教会に勤める副牧師ヘンリー・ホワイトヘッドである。 2人はお互いの存在を知ることなく、個別にソーホーを歩き回り情報収集に務めた。

スノーはデータを積み重ねた末、遂にブロード・ストリートの井戸水がコレラの伝播ルートであることを確信する。 彼は打つ手のない地元教区役員会を説得して井戸のポンプの柄を外させた。 コレラ禍がそれ以上拡大することを防いだのだ(ただし、その時点で井戸のコレラ菌が死滅していた可能性が高いことも著者は示唆している)。

これは歴史の転換点だった。 著者は次のように書く。

このとき、公的機関はコレラという疫病にたいしてはじめて科学的理論の情報に基づく介入をおこなった。(中略)コレラ菌はこのときはじめて、迷信ではなく理性で武装した人類に行く手を阻まれることになったのだ。(p.172)

だが、本書のスゴイところは、スノーが井戸のポンプを外させたという一点だけでは、この事件が決して歴史の転換点とはなり得なかったと指摘していることだ。 それには大衆を納得させるだけの力を持った支持者の存在が不可欠だった。 そうでなければ、

珍説をふりかざす医者がパニックとなっている教区役員を言いくるめてポンプの柄を取り外させた(p.208)

という歴史の一エピソードになりかねなかったのだ。

その支持者の役割こそホワイトヘッドが担ったものだった。

当初、スノーが示した飲料水媒介説に懐疑的だったホワイトヘッドも、スノーが提示したデータと自分が聞き込みで得た知識を照合した結果、スノーが正しいことを確信した。 ホワイトヘッドの支持が原動力となり、教区役員会は井戸がコレラ菌に汚染されていた旨の報告書を作成することになる。 それは未だに瘴気説にこだわる行政とは真っ向から対立するものだった。

事件の何年か後、スノーは固い友情で結ばれることになったホワイトヘッドに次のように語ったという。

「あなたも私もそんな未来に生きていないでしょうし、そのころには私の名前も忘れられているでしょうけれど、いずれコレラの流行が過去のものとなるでしょう。この病気の伝播方法がわかって予防策がとれるようになるときが」(p.190)

この予言は半分だけ当たった。

スノーの死後、しかし、ホワイトヘッドが現役の牧師と活動している時期に、行政も遂にコレラが飲料水を媒介として伝播するということを認めたのだ。 ただし、あたかも自分たちが当初からスノーの説を支持していたかのような態度をとって。

スノーの飲料水媒介説が認められるようになって、世界の公衆衛生の観念は変わった。 瘴気説は消え、下水道は作られ、飲料水もきれいになった。

ウィルスの遺伝子は親から子への「垂直降下」だけで伝達される訳ではなく、

茶色の髪の女性が一年間、赤毛の同僚と肩を並べて仕事をしていて、ある日、目が覚めたら赤毛になっていた(p.254)

というように他のウィルスから遺伝子を借りてくる「水平方向」の伝達があることも分かった。

その結果、現在はヒトからヒトへ感染しないウィルスが新たな遺伝子コードを獲得して変異する可能性と、それに対する事前の予防策が取られるようになった。 その予想される変異ウィルスの代表例こそ、今日恐れられているH5N1型インフルエンザ、通称「鳥インフルエンザ」の変異型である。

人類とウィルスの戦いはこれからもつづくだろう。 我々が持つ最大の武器は迷信に惑わされない理性だ。

スノーとホワイトヘッドが瘴気説に立ち向かった姿を示すことによってそれを再確認させてくれる好著である。

_ 楽天ブックスのコンビニ受取便が改悪になる

楽天ポイントが貯まっていたので、楽天ブックスで本を発注したのだが、今までのファミリーマート以外にもサークルKとサンクスで受け取れるようになっていた。

「マジ! すげーじゃん、楽天ブックス」とか思っていたら、こんな注意書きが。

WS000000

おいおい。宅配便が1500円(税込)以上で無料なのに、それの2倍の額でコンビニ受け取りにするヤツなんてほとんどいないだろう。

安い本を買うのに楽天ブックスは重宝だったんだけど、これで使う機会がぐんと減るなぁ。 オンライン書店はAmazonの一人勝ちか。

ちなみに、今回発注した本はこれ。

速水螺旋人の馬車馬大作戦 速水螺旋人の馬車馬大作戦
速水螺旋人
イカロス出版
¥ 1,500


2008-05-18(Sun) [長年日記] この日を編集

_ 6年ぶりの仏ミステリシリーズ第2弾──論理は右手に (創元推理文庫)(フレッド ヴァルガス/Fred Vargas/藤田 真利子)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

先日読了した『死者を起こせ』につづく、フランスの本格ミステリー・シリーズ第2弾。

歴史学者崩れの個性的な3人組+元刑事が探偵役だった前作に変わって、本書の探偵役はフランス中に謎の情報網を持ち〈ドイツ人〉というあだ名で様々な人間に恐れられている元内務省調査員ケルヴェレール。 秘密を知りすぎていたがゆえに内務省をクビになった彼だが、現役時代と同じく本能のまま情報収集に情熱を注いでいた。 代議士と極右活動家の密会現場に張り込んでいたある日、ケルヴェレールは木の下に落ちていた犬の糞から人骨の一部がのぞいているのに気付く。 事件の臭いを嗅ぎ付けたケルヴェレールは、資料整理のバイトとして雇っていた知人の元刑事の甥、マルクを巻き込み、独自の捜査を開始する──。

前作のファンには残念なことに、『死者を起こせ』の主人公の4人は、本書では完全に脇役。 マルクとマティアスはワトソン役(でも、結構おいしいところを持っていくぞ)といえるが、リュシアンはマルクの荷造りを手伝う時にちょろっと登場するだけだし、マルクの伯父、ヴァンドスレールに至っては電話の相手としか登場しないという寂しさである。

とはいえ、2転3転する容疑者と、最後までどこに落ち着くか分からないストーリーは健在。 導入部に多少強引さも見られるものの、隠された過去を持つケルヴェレールにはじまり、犬の中の人骨、巨大な占いマシンと、謎めいた要素に彩られたストーリーをきれいに着地させる著者の手腕は見事だ。 さすがは「仏ミステリ界の女王」(by 帯)と感心した次第。

それにケルヴェレール自体もペットのヒキガエルをポケットに入れて歩くような変人なので、個性という点では決して4人に引けを取っている訳ではない。 前作の4人のファンであるならば、少々毛色が違うものの、ヒキガエルに話しかけながら事件を捜査するケルヴェレールの姿もまた楽しめるのではないかと思う。

ちなみに、ストーリーは前作とリンクしている訳ではないので、前作を未読の人でもご安心を(もちろん、前作を読んでいた方が楽しめるが)。

オススメできる本シリーズだが、少々心配なのが邦訳の刊行ペース。 第1弾の『死者を起こせ』が出版されたのは2002年で、第2弾の本書が出版されたのは2008年。 その間、なんと6年もの期間が空いているのだ! よほどの人気シリーズは例外として、翻訳シリーズ物の刊行スピードが遅いのは通例ではあるが、ちょっとこれは間が空きすぎじゃないだろうか。 第3弾の出版までにまた6年かからないことを切に願う。

というか、早ければ早いほど嬉しいです。 > 東京創元社様


論理は右手に

Amazonで購入
書評/ミステリ・サスペンス


2008-05-19(Mon) [長年日記] この日を編集

_ 次に買うノートはMacBookか?

今使っているノートPCは、DELL Latitude D610にFreeBSDをインストールしたものなんだけど、もう3年保証も切れたし、ちょっと力不足な感じもしてきた*1ので、そろそろ新しいノートにリプレイスすることを検討中。

で、そんなことをちょろっとtwitterに流したら、MacBook!! MacBook!! という話が多数の方々からあったので、MacBookもいいなぁと考えはじめたところ。 ちなみに、「多数」というのは大袈裟だった。ホントは2人。

以下、プログラマーを引き付けるMac OS Xの魅力 − @ITを参考にして考えてみた、Windowsノートと比較したMacBookのメリットとデメリット。

メリット

  • *BSDなのでshellとターミナルがすぐ使える。
  • WindowsノートではOSXを動かせないが*2、MacBookではBootCampでWindowsが動かせる。
  • 金額は思っていたほど高くない。まぁ、Thinkpadと同程度。
  • モニタを繋げる時には、リッドクローズドが便利そう。
  • YAPC::Asiaの時もそうだったけど、MacBookユーザが多数なので、ちょっとハッカーの仲間に入れたような気分になれる。:-D

デメリット

  • OSXを使ったことがないので、なんとなく心配。
  • 慣れていないので環境構築に時間がかかりそう。
  • 重い!(けど、持ち歩くことは少なそう)。
  • あまりバッテリーが保たない(が、WindowsノートでもLet's Noteとかの例外を抜かせば一緒の気もする)。
  • Windowsに比べると、周辺機器の対応がいまいち(まぁ、FreeBSDはもっと大変だけどね)。 ← いまいちでもないらしい。thanks. しばたさん

今のところのまとめ

以上のメリット・デメリットを考慮すると、メリットの方が多そうな気がする。

6月のWWDC 2008を待った方がいいよというありがたいアドバイスを@goto30さんから頂いたので、それまで色々迷ってみよう。

うーん、でも、6月までにFreeBSDでFirefox 3が使えるようになって、WindowsのFirefox 3並みに速かったりしたら、また「FreeBSDでもいいかなぁ」とか思ってしまう可能性も大な気もしないでもないなぁ(ぉ

*1 RSpecの全exampleを回すのにえらく時間がかかる。

*2 まぁ、ごにょごにょすれば動かせるらしいが、それは措いておく。

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]

_ しばた [デメリットは重いくらいですかねえ。 周辺機器は思いのほか対応していたりします。]

_ poppen [なるほど。参考になります。> 周辺機器対応 ふむむ。ますますMacBookでいいような気がしてきました。]


2008-05-21(Wed) [長年日記] この日を編集

_ 会社にAirMac ExtremeとAirMac Expressを導入した

社内LANにも無線をそろそろ導入しようということになったんだけど、レイアウトがちょっとごちゃごちゃしていて、たぶんWDSが必要ということになった。

導入機材を検討したのだが、

  1. 802.11nに対応していること
  2. WDSの暗号にWPA/WPA2が使えること

という2点を満たしている無線LAN機器がほとんどないことに気付いた。

11nに対応のものは色々とあるのだが、WDSについてはWEPしか使えないものがほとんどというのがどういうことだろう? 今時、WEPじゃ危なくて仕方がないと思うのだが。

探した範囲で上記の要件を満たしていて、かつすぐ入手可能なものは次の2つだけだった。

で、調べてみたところ、MZK-W04N-Xは

  • ぶちぶち切れる。
  • サポートに連絡しても返答なし。
  • Amazonのレビューでは工作員(?)が活躍中。

と散々な評判。 こんなものを社内で使う訳にもいかないので、消去法でAirMacを導入することにした。

今回購入したのは

アップル AirMac Extremeベースステーション MB053J/A アップル AirMac Extremeベースステーション MB053J/A

アップルコンピュータ AirMac Express ベースステーション with Air Tunes MB321J/A アップルコンピュータ AirMac Express ベースステーション with Air Tunes MB321J/A

の2つ。 AirMac Extremeを親機にして、AirMac Expressを子機にしてWDSを構成する。

iPod Shuffle以来のApple製品だったので、設定についてはちょっと不安だったのだが、ほとんど苦労せず完了。

  • 設定にAirMac Utilityというソフトが必須
  • 無線LANインターフェイスのMACアドレスが、なぜか「AirMac ID」という名前になっている(MACとMacでかぶるから?)

というあたりには、ちょっとハマったけどね(ちなみに今回はWindowsで設定)。

動作については、まだ半日しか使っていないが「快適」の一言。 やっぱり11nはいいねー。 シビアなスピードが求められる環境以外では、もう無線LANオンリーでもいいんじゃなかろうか、というくらい快適だ。

Apple製品というと「高い」というイメージがあったのだが、今回いじってみて、そんなこともないなーというのが分かった。

たしかにAirMac Extremeは他者の無線LANルータより5、6000円ほど高めだが、USB HDDやUSBプリンターの共有機能もあるし、USB HDDを繋げば、MacのTime Machine対応にもなるらしいので、それを加味すれば、お買い得といってもいいんじゃないだろうか。

また、AirMac Expressについても、プリンターの共有機能の他、iTunesの出力機能もあるし、これで1万ちょいというのは、まぁ、悪くない額だと思う。

そんな訳で、AirMacシリーズはノンポリのオレにしては珍しくAppleファンになってしまいそうな製品だった。

この調子だと、MacBookを買っちまいそうだなー。


2008-05-23(Fri) [長年日記] この日を編集

_ 現代中東史の舞台裏を描く──モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」(エフライム・ハレヴィ/河野 純治) モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」(エフライム・ハレヴィ/河野 純治)

モサドといえば、「泣く子も黙る」という枕詞をつけることがふさわしいイスラエルの諜報機関である。

そんなモサドの前長官がモサドの闇に隠されていた活動の一部を白日の元に曝したのが本書。

とはいっても、いわゆる「007」ばりのスパイ活動が描かれている訳ではない。 暗殺や誘拐、盗聴などの非合法活動に明け暮れているようなイメージが持たれているモサドが、実は「影の外務省」とも呼ばれる存在であり、常に角突き合わせているようなアラブ諸国やパレスチナ側と和平を含む様々な交渉を行なっていたことを明らかにしているのだ。

イスラエル・ヨルダン和平交渉を決定的にしたフセイン国王とのトイレでの会話など、現代中東史の舞台裏を描くとともに、イスラエルの国内事情も忌憚ない筆致で描き出している。短期的な視野でしか物を見ない外務省との権力闘争や、和平よりも地元の利益を優先する国会議員など、「どの国も一緒だなー」と感じさせて非常に面白かった。

その他、伝統的にユダヤ人に対する差別意識を持つがゆえにイスラエルを軽視するEU諸国や、会議で居眠りしている最中でも金の話になると飛び起きるPLO前議長アラファトの逸話も書かれていて、こちらも興味深い。

本書では諜報機関という状況によっては非合法活動もせざるを得ない組織におけるトップの心構えが語られているが、その中でも特に印象に残ったのものを引いておこう。

組織は個人を保護し、個人の代わりに責任を負うべきであろう。あからさまに集団から切り離し、孤立無援の状態にしてはいけない。(p.298)

これはスイスで盗聴活動を行なっていた部下が逮捕された時の言葉である。 諜報機関に限らず、組織というものはそれに属する個人をいざという時には守らなければならない。 さもなければ、組織としての秩序が崩壊する、という事実を改めて思い起こさせる言葉だ。

本書の解説は、著者自身と面識のある作家・佐藤優によるもの。 モサドや中東史にあまり詳しくない向きは、まずこちらから目を通した方がより楽しめることと思う。

モサドに興味がある読者の他に、中東史入門からワンステップ進んだ本としてもオススメできる一冊である。


2008-05-24(Sat) [長年日記] この日を編集

_ amazoncrossbookcheck.user.jsの1行patch

Amazonのほしい物リストが微妙に変更されたようで、普段から便利に使わさせて頂いているAmazon Cross Book Checkが動かなくなったので1行patchを書いた。

--- amazoncrossbookcheck.user.js.orig	2008-05-24 19:40:07.000000000 +0900
+++ amazoncrossbookcheck.user.js	2008-05-24 19:39:34.000000000 +0900
@@ -24,7 +24,7 @@
 	wishlist: {
 		autoStart: true,
 		insertAfter: '//tbody[@name]/descendant::tbody[1]/tr[last()]',
-		asinLink: '//td[@class="small"]/b/a',
+		asinLink: '//td[@class="small"]/strong/a',
 	},
 	search: {
 		autoStart: false,

_ ついでにamazonincludepostage.user.jsの1行patch

http://d.hatena.ne.jp/drillhands/20080502/1209700333

変更点は一緒。

--- amazonincludepostage.user.js.orig	2008-05-24 19:55:57.000000000 +0900
+++ amazonincludepostage.user.js	2008-05-24 19:55:49.000000000 +0900
@@ -9,7 +9,7 @@

 var DETAIL_PRICE_XPATH = '//div[@id="primaryUsedAndNew"]/span';
 var WISHLIST_PRICE_XPATH = '//td[@class="small"]/a/../nobr/span[1]';
-var WISHLIST_LINK_XPATH = '//td[@class="small"]/b/a';
+var WISHLIST_LINK_XPATH = '//td[@class="small"]/strong/a';

 var POSTAGE = 340;
 var AFTER_PRICE = "\u3088\u308A \uFF08\u914D\u9001\u6599\u8FBC\u307F\uFF09"; //より (配送料込み)

_ SeesaaブログのRSS feed広告がうるさいのでP::P::Filter::StripRSSAdのassetを書いた

数日前からSeesaaブログのRSS feedに広告が入って非常にうるさいので対策。

P::P::Filter::StripRSSAdのassetは

  • エントリ丸ごと消すなら*.yaml
  • エントリの一部を削除するなら*.patに正規表現

を書くみたい。今回のケースでは広告のエントリが挿入されているのでyamlを書いた。

書いたyamlはcodereposにcommitしておいた。

http://coderepos.org/share/browser/lang/perl/plagger/assets/plugins/Filter-StripRSSAd/seesaa.yaml

ついでに、rssad.jpの広告エントリを消すyamlも書いた。

http://coderepos.org/share/browser/lang/perl/plagger/assets/plugins/Filter-StripRSSAd/rssad_jp.yaml


2008-05-25(Sun) [長年日記] この日を編集

_ 「兵士」ではなく「医師」を輸出するキューバ──世界がキューバ医療を手本にするわけ(吉田 太郎)

築地書館様より本が好き!経由で献本御礼。

マイケル・ムーアの映画『シッコ』が上映されたことを機に注目を集めるようになった、キューバの医療制度に関するルポルタージュが本書。 著者のキューバへの思い入れが強すぎるせいか、「親キューバ・反米」色が濃い点は気になるが、それを差し引いても刺激を受けることは間違いない一冊だ。

キューバは一人当たりの所得はインド並みに低いにも関わらず、乳児死亡率はアメリカ以下、平均寿命も先進国並みという医療水準にある。 それでいて一人当たりの医療費は先進国よりも格段に低いという、驚くべき成果を上げているのだ。 世界からキューバ・モデルとして注目されるのも当然と言えるだろう。

ソ連崩壊により強力な後ろ盾を失い、アメリカの経済封鎖により締め上げられた結果、経済的な苦境に立たされたキューバがなぜ、このような先進的な医療制度を確率できたのか。

  • 地域医療を充実させるためのファミリー・ドクター制度
  • 安価に医薬品を入手するとともに、外貨獲得のための自前での医薬品の生産
  • Linuxを代表とするオープンソースを活用した安価な情報ネットワークの構築

など、数々の理由が本書では挙げられているが、なんといっても大きいのが、国家の戦略として乏しいリソースを医療分野に振り分けることを決断したカストロ政権の政策だろう。 それはただ単に国民の健康という面だけに留まらず、キューバが生き残るための手段だったのだ。

本書で特に興味深いのが、キューバが展開している医療外交だ。

キューバは南米を中心に医療援助を行ない現地の医療水準に高水準化に務めるとともに、2005年には国際緊急援助隊を結成し、世界中の被災地へ派遣している。 また、ラテンアメリカやカリブ海域の視覚障害患者に対し、無償で眼科手術を施すプロジェクトを立ち上げている。 なんと、その目標人数は450万人というから驚きだ。

さらには、ラテンアメリカ医科大学を設立し、発展途上国を中心とした様々な国(「敵国」であるはずのアメリカも含まれている!)より留学生を受け入れ医師になるための教育を受けさせている。 学生は授業料をはじめとする経費を一切払う必要がない上、奨学金までも支給される。

この医療外交こそ、キューバの生存を賭けた国家戦略なのだ。 たとえば、医療援助を行なった成果として、産油大国であるベネズエラから安価に原油を入手することが可能となっている。 アメリカから原油を輸入できないキューバにとって、これがどれほど大きな意味を持つかは言うまでもないだろう。 さらに、最近ではベネズエラを率いるチャベス政権と連携して、反米・反グローバリゼーションの旗手として南米を中心にその発言力を増しつつある。

アメリカではキューバの医療外交を脅威と感じているようだ。 キューバ医療を研究するアメリカ人は次のように述べている。

こうした医師たち(引用者註:医療援助のために派遣された医師たち)は社会主義のイデオロギーよりも、重大な脅威をもたらしている。派遣先で医療活動を続けることで医師たちは、現地の医療制度や専門機関、価値観や社会構造に揺さぶりをかけている。これが現在のキューバの脅威なのだ。経済封鎖問題では、キューバを孤立させるよりも、むしろ孤立するようになっているのは米国だ。これにもキューバの医療援助が影響していると見るべきだ」(p.186)

著者は医療援助により派遣される医師たちを「医師輸出」と題しているが、これは言い得て妙だ。 本書では触れられていないので、著者がキューバの歴史を意識しているか否かは不明だが、ソ連崩壊以前、キューバはソ連から援助を受ける代償として世界各地の紛争地域に兵士を送り込んでいた。 まさに「兵士を輸出」していたのである。

「兵士」から「医師」へ──。

職種こそ大幅に変わったが、キューバの大きな貿易資源であると同時に、国家戦略の柱こそ「人的リソース」であると言えるのではないかと思う。 こんなことを書くと、著者に怒られそうではあるが。

著者は危機的な状況にある日本の医療制度の解決策として、キューバの医療制度を紹介しているが、これをそのまま日本で実践できるかといえば、難しいだろうというのが正直な感想だ。 医療制度を整備するにしても、医師数を増やすにしても、財源(著者の言うところの「実弾」)が絶対必要になる。では、その財源をどこから得るのかといった問題が第一にある 。 また、「人道」という言葉で医師を無私無欲の聖職者扱いしてしまった場合、さらに医師不足を加速させる結果にもなりかねない。

そのようなことを考えると、キューバの充実した医療制度は、やはり、個人よりも公益を優先したキューバの社会体制という土壌があったからこそ成立したものと言えるのではないかと思う (実際、最近ではキューバでも医師の所得の低さが問題になっているそうである。リッチな観光客相手のタクシー運転手は医師の40倍を稼ぐとか)。

とはいえ、キューバの医療制度から学べることもたくさんあるには違いない。 そこから何を学び取るにしろ、数々の実績を積み上げてきたにも関わらず、これまで日本ではあまり知られることがなかったキューバの医療制度を紹介している貴重な書である。


世界がキューバ医療を手本にするわけ

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書評/ルポルタージュ


2008-05-26(Mon) [長年日記] この日を編集

_ 官僚が存在する限り色褪せない不朽の名作──司政官 全短編 (創元SF文庫)(眉村 卓) 司政官 全短編 (創元SF文庫)(眉村 卓)

異星文化人類学SFであるとともに、官僚SFでもある作品である。

眉村卓によって書かれた〈司政官〉シリーズのうち、現在までに発表された全短篇を一冊にまとめたものが本書。

惜しくも中断している佐藤大輔の軍事SFシリーズ、〈地球連邦の興亡〉の元ネタのひとつと知って以来、読みたくて仕方がなかったものの、絶版で入手難だったシリーズが手軽に入手できるようになったことをまずは喜びたい。東京創元社GJ!

本書に収められている作品は下記の7篇。

  • 「長い暁」
  • 「照り返しの丘」
  • 「炎と花びら」
  • 「扉のひらくとき」
  • 「遙かなる真昼」
  • 「遺跡の風」
  • 「限界のヤヌス」

ここにボーナストラックとして作品世界ガイド「司政官制度概要」が収録されている。 なんと、全727ページ*1! これで1575円(税込)というのだから、SF者はマストバイのお値打ち価格といえるだろう。

本シリーズの主役というべき司政官とはなにか。手っ取り早く解説から引いておく。

地球人類が宇宙に進出し、数多の植民惑星から成る広大なネットワークを築いている時代。各植民惑星を征服した連邦軍の軍政が、自由を求める植民者や原住者とのあいだに摩擦を生み、その軋轢が限界に達してとき、連邦経営機構は軍政に代わる統治制度を設けた。それが司政官制度だ。司政官とは連邦から植民惑星に派遣される官僚であり、惑星統治の技術を徹底的にたたきこまれた専門家である。その司政官がロボット官僚群を駆使して惑星の統治にあたるのが司政官制度であり──(後略) (p.716)

まず書いておきたいのが、本書の収録作が純粋にSFに見た場合、決して洗練されている訳ではないということだ。

たとえば、司政官に仕えるSQ-1をはじめとするロボット官僚は柔軟性に欠き、命令を杓子定規に解釈しすぎる嫌いがあるあたりは、今日的なSFから見ると少々、首を捻りたくなる。

また、登場するガジェットについても、「扉のひらくとき」において原住民の民族大移動をロボット官僚団が世界地図上で模型を動かして表わす(そして、移動の複雑化とともについていけなくなる)ワンシーンが代表するように、書かれた時代が1970〜80年初頭という点から考えると仕方がないにせよ、古臭いと言わざるを得ない。

しかし、本シリーズについていえば、上記のような「古臭さ」はなんら欠点となっていない。

なぜなら〈司政官〉シリーズのテーマは、異星民族を守りつつ植民政策を進めるという根本的に矛盾した使命を課せられた、地球連邦という巨大組織の一官僚──司政官の苦悩そのものだからである。 それは司政官制度の黎明期から、内に抱えた矛盾が徐々に露呈し、制度自体が形骸化していく過程を追うように並べられた収録作からも明らかだろう。

官僚組織が存在する限り、本書のテーマはいささかも色褪せることはない。 イラク戦争後の軍政の失敗とそれにつづく混乱という世界情勢を踏まえた読み方が出来るように、将来も時代時代に合わせた読まれ方をしていくシリーズになるのではないだろうか。 不朽の名作という言葉がふさわしい一冊だ。

本書のラストに収められた「限界のヤヌス」で崩壊の序曲を迎えた司政官制度だが、つづく『消滅の光輪』、『引き潮のとき』で新たな局面に直面するとのことだ。 両作品については、現在入手しづらい状況にあるようなので、出来るだけ早いうちに復刊されることを希望したい。

*1 あとがき、解説含む。

_ 『引き潮のとき』は黒田藩プレスから全5巻のうち1〜2巻が復刊されているとのことだけど

http://www.kurodahan.com/j/catalog/titles/j0005.html

1冊2409円(税込)は高すぎ!


2008-05-27(Tue) [長年日記] この日を編集

_ 電車の中で読む時には注意!──ねにもつタイプ(岸本 佐知子) ねにもつタイプ(岸本 佐知子)

翻訳家を営む著者によるちょっとかなり変わったエッセイ集が本書。

著者の岸本佐和子といえば、ニコルソン・ベイカーの『もしもし』『フェルマータ』(どっちもエロいよ!)のような変わった雰囲気の作品を訳すことで印象に残っているが、こんなに笑える文章を書く人だとは思わなかった。

通勤電車の中で読んだのだが、もう吹き出すのをこらえるのに必死。 読むのを中断すればいいことなのだが、ページを繰るのを止めさせない魅力があって、ずっとニヤけた締まりのない顔で読了した。 たぶん、通勤客の何人かには気持ち悪がられたに違いない。

「笑える」と書いたが、やはり翻訳を生業とするだけあって、文章も非常にうまい上に芸達者。

自分の頭の中の小部屋のエッセイ「奥の小部屋」では

  1. 狭い歩道で無理矢理に追い越しをかける自転車の男
  2. 男を斬鉄剣(!)で斬り付ける
  3. グロ描写
  4. 料理番組

なんていう話が一緒くた、かつシームレスに展開されてしまうし、自宅に潜む「敵」との死闘を描いた「戦記」では、ちょっとした軍事オタク(オレのことだ!)も唸ってしまう「それっぽさ」のある戦記そのものになっている。

その他、コアラの鼻に思いをはせた「Don't Dream」や小学館の「学習図鑑シリーズ」の『魚貝の図鑑』の奇妙な説明書きをネタにした「黄色い間の中」など、思わず吹いてしまうエッセイが満載なのだが、その中でも特に印象に残ったのが、

新宿から遠く箱根の方まで延びている0線(p.81)

の窓から見えるS駅近くの風景について書いている「かげもかたちも」。

  • 誰もいないボクシング・ジム
  • 「ナイフとフォームを持った子豚が、嬉しそうに踊りながらよだれを垂らしている」(p.82)どこか間違っているとんかつ屋の看板
  • 〈波平レディスクリニック〉という看板

など、実家がO線沿線で、S駅近くの高校に電車通学していたオレは 「そうそうそう」と首がもげんばかりに頷きたくなった。*1

笑えること必至のエッセイ集なので、爆笑したい人はぜひ。

ただし、電車の中では注意。 笑いを耐えるのが大変ですよ。

もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑) もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
ニコルソン ベイカー/Nicholson Baker/岸本 佐知子
白水社
¥ 998

フェルマータ (白水Uブックス―海外小説の誘惑) フェルマータ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
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*1 ちなみに、0線は小田急線のこと。S駅は相模大野駅。


2008-05-29(Thu) [長年日記] この日を編集

_ 触法障碍者の「塀の外」での姿──累犯障害者(山本 譲司)

本が好き!経由で献本されたものをシルフレイ様から回して頂きました。 御礼申し上げます。

著者は秘書給与詐取の罪により服役した経験を持つ元衆議院議員。 刑務所内で知った障碍を持つ囚人たちの実態を知った著者は刑期を終えた後、それを1冊の本にまとめ『獄窓記』とした上梓した。

『獄窓記』の後、社会復帰した著者が障碍者が起こした事件の数々を取材したルポルタージュが本書である。 『獄窓記』を罪に手を染めた障碍者たちの「塀の中」での姿を描いた書とするならば、本書は彼らの「塀の外」での姿を描いた書と言えるだろう。

本書の目次は下記の通り。

  • 序章 安住の地は刑務所だった―下関駅放火事件
  • 第1章 レッサーパンダ帽の男―浅草・女子短大生刺殺事件
  • 第2章 障害者を食い物にする人々―宇都宮・誤認逮捕事件
  • 第3章 生きがいはセックス―売春する知的障害女性たち
  • 第4章 閉鎖社会の犯罪―浜松・ろうあ者不倫殺人事件
  • 第5章 ろうあ者暴力団―「仲間」を狙いうちする障害者たち
  • 終章 行き着く先はどこに―福祉・刑務所・裁判所の問題点

これらから浮かび上がってくるものは、 刑務所の外に居場所がなく「塀の中」に戻るためだけに罪を重ねる累犯者の姿であり、 福祉の網からこぼれ落ち犯罪の道へと転がる姿であり、 健常者の犯罪者に搾取される姿であり、 閉鎖社会の中で生きて加害者、被害者ともなる姿である。

初めて知ることばかりで、どの章を読んでもショックを受けたが、その中でも最も大きな衝撃を受けたものが、ろう者が形成する独自社会とそこで起きた犯罪に焦点を当てた「第4章 閉鎖社会の犯罪」と「第5章 ろうあ者暴力団」の2章である。

なぜ、この2章から大きな衝撃を受けたかを記しておかないといけないだろう。 本当に恥ずかしい話だが、実は、私自身がホンの少しであっても、ろう者の世界について知っていると思い上がっていたせいなのだ。

実は2年ほど前、NHKの教育番組でしばらく手話を練習したことがある。 正直に言えば、「練習をした」というのも大袈裟すぎるなくらいで、妻が結構、熱心に勉強していたので(今はもう止めてしまったが)それに付き合って一緒に番組を見ていただけだ。 番組内で手話を中心にした様々な活動を紹介するコーナーもあって、手話を勉強するについては全く身に入らなかったが、そのコーナーは非常に興味深くて、それなりに熱心に見ていた。

そんな経緯もあって、自分では少しはろう者の世界を知っていると思い込んでいたのだ。 しかし、この2章を読んで、そんな勘違いは粉々に打ち砕かれた。

たとえば手話だが、日本手話と日本語対応手話があることは知識としては知っていたが、その言語としての隔りが、日本語と外国語ほどもあるとは、本書を読むまで知らなかった。 日本手話では手の動きの他、体や頭の向き、あごの引き方、唇の形、視線の方向、眉の上げ下げ、まぶたの開閉といった動作も文法上、重要な要素になる。 手とこれらの動きが組み合わさり、はじめて意味をなす言葉となるということだ。 さらに動作の大きさや早さの違いといった要素により、その言葉の変化の意味が変化するのだという。 生まれつき手話に接してこなかった聴者がこれらの動きのすべて解釈することは不可能ということになる。 なんと聴者の手話通訳者であってさえも、その手話がろう者には理解できないことがあるというのだ。

本書に書かれている、あるろう者がNHK「手話ニュース」について述べた言葉が印象的だ。

聴者がキャスターの時は『手話ニュース』は絶対に見ない。なぜなら、私たちろう者には、何を言っているのかほとんど理解できないからです。(p.188)

あのNHKですら、こうなのである。

著者は手話通訳者を介してでさえ、健常者とろう者間のコミュニケーションに齟齬をきたす可能性について示唆しているが、それは手話通訳者の能力上の問題ばかりではない。 ろう者の精神世界や文化が聴者のそれと異なっているからではないかと、ろう者であり、「手話ニュース」のキャスターも勤める木村晴美氏の言葉を引きつつ、著者は指摘する。 そのような状況で、ろう者が罪を犯した場合、警察が適正な取調べを行ない、きちんとした裁判を受けることができているのかどうか、著者でなくても疑問に思うのは当然であろう。

ろう者の仲間意識についても、それは「仲間意識」などというレベルを超えていて、デフ(ろう者)・コミュニティと呼ばれるくらいに強固な人間関係を築いているということも明らかにされる。 コミュニティの独特の文化を著者は次のように記している。

聴者社会では、話をする時、相手を傷つけないようにとか、失礼にあたらないようにとか、種々考えながら、遠回しに表現することが好まれるが、デフ・コミュニティにおいては、それは逆に失礼にあたる。デフ・コミュニティには、敬語も敬称もない。そこには上下関係や男女関係などへのこだわりがない社会だという。(p.186)

結婚についてもコミュニティ内のメンバー同士で行なわれることが普通であるそうだ。

根本的な問題として、手話を否定し、ろう者自身は何を言っているのか聴こえないにも関わらず、聴者にとって正しい発音に聴こえる声を出す口話教育のみを是とするろう学校の問題が挙げられている。 ろう者独自の文化に理解を示さず、聴者社会にムリヤリにろう者を同化させようとする力こそ、さらに閉鎖的なコミュニティを形成させる要因となるのである。

驚かされるのが、ろう者と携帯メールの関係だ。 聴者にとっては、携帯メールというのは、便利なものではあるが「生活を一変させる」というほどのものではないように思う。 しかし、ろう者にとっては、今までFAXでしか遣り取りできなかった遠隔地同士のコミュニケーションが格段に便利になった。 屋外での待ち合わせも可能となり、行動範囲や交際範囲を広げたという。 考えてみれば、確かにその通りだ。 「第4章 閉鎖社会の犯罪」で取り上げられる不倫殺人事件も携帯メールがなければ成立しなかったという意味で、現代の事件と言えるだろう。

本書の最後では、障碍者を累犯者にしないための提言が語られている。 詳しい内容は本書に譲るが、加害者となった障碍者ばかりを扱う著者に対する批判を受けての言葉、

我が国の福祉の現状を知るためには、被害者になった障害者を見るよりも、受刑者に成り果ててしまった彼らに視点をあてたほうが、よりその実態に近づくことができるからである。そしてそこには、日本社会の陰の部分が見えてくるのだ。(p.234)

は重く受け止めるべきだろう。

あとがきで『獄窓記』を読んだある弁護士から次のように言われたとのエピソードが紹介されている。

「山本さん、よくぞ服役してくれました。心から感謝します。『獄窓記』のおかげで、これまで全く伝えられることがなかった、刑務所内での障害者の処遇を知ることができました」(p.237)

全く同感である。 著者が獄に入らなければ、『獄窓記』や本書が世に出ることがなく、罪に犯した障碍者たちの真の姿を知ることも出来なかった。 著者はどのように考えるか分からないが、これこそ運命というものだったのではないか。 そんなことを考えた。

裁判員制度の開始まで1年を切った。 我々が本書で語られたような障碍を持つ犯罪者を裁かなければならない可能性もあるだろう。 著者が言うように、罪は罪として裁かれるべきだろうし、そうしなければならない。 しかし、またそこに「更生」という要素が欠落し、刑務所を安住の地とする累犯者を生み出すことがあってもいけないのだ。 どうすればいいのか。

著者同様、深く考えざるを得ない。

お断わり

本書の中では「障害者」、「ろうあ者」という言葉が使われていますが、このエントリーの中の私自身が書いた箇所ではそれぞれ「障碍者」、「ろう者」としています。


累犯障害者

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書評/ルポルタージュ

獄窓記 (新潮文庫) 獄窓記 (新潮文庫)
山本 譲司
新潮社
¥ 780


2008-05-30(Fri) [長年日記] この日を編集

_ カラヴァッジョという病に感染した人々──消えたカラヴァッジョ(ジョナサン・ハー/田中 靖) 消えたカラヴァッジョ(ジョナサン・ハー/田中 靖)

本書の主人公は人ではなく、イタリア・バロック期の天才画家、カラヴァッジョがキリストが捕えられるシーンを活写した傑作『キリストの捕縛』。

200年もの間行方が分からなくなっていた、この絵画の真作が1990年に発見された経緯を描いたノンフィクションが本書である。 歴史ミステリー仕立てとなっていて、美術オンチ*1にも楽しく読めること請け合いの一冊だ。

『キリストの捕縛』の失われた200年の歴史を明らかにすることとなったのが、ローマ大学で美術史を専攻する24歳のイタリア娘2人組の功績によるものだとは、まるで映画かマンガのストーリーのようだが、ホントの話。 本書の前半では、彼女たちの活躍が生き生きとした筆致で描かれている。

2人が没落したイタリア貴族の地下文書庫に「潜入」し、今まで誰も手を付けたことのない財産目録や古帳簿の内容から絵画の行方を追う過程は、インディ・ジョーンズばりで(ちょっと大袈裟か)なかなかスリリングだ。 惜しくも彼女たちは自分たちの手で『キリストの捕縛』の見付けることは叶わなかったが、彼女たちの調査結果が後に発見される絵画が真作であることを示す証拠となるのである。

実際に『キリストの捕縛』の発見することとなるのが、功名心に燃えるベテラン絵画修復士。 彼が絵画を発見する経緯については本書に譲るが、結果を出すことに急ぐあまり『キリストの捕縛』の修復に危うく失敗しかけた事件(ただし、本人は否定)についても記している。 著者は関係者全員にインタビューをしているらしいが、この本を上梓した後、修復士との関係は確実に悪くなったのではないだろうか。

後半では『キリストの捕縛』の発見と、そのニュースが世界を騒がせた顛末が描かれる。 絵画にありったけの情熱を注ぐ老イギリス人美術史家や、名声を得たい美術学者たち、スクープをものにしたいジャーナリスト、一攫千金を目論む古美術商といった「カラヴァッジョ病」に感染した様々な人々が絡んできて、一大人間模様が展開されるのだ。 一枚の絵画に翻弄される人々の姿は、傍から見ると滑稽だが、200年の時を経てもなお色褪せない傑作であるがゆえということなのかもしれない。

現代で展開されるストーリーの合間に語られる、 絵筆を握っていない時には剣を握り私闘に明け暮れ、遂には殺人を犯してしまうカラヴァッジョのメチャクチャな人生は、ある種の魅力を放っていて引き付けられる。 その38年の生涯が、ローマ法王に恩赦を求める旅路で倒れたことによって閉じられたという事実は、いかにもカラヴァッジョらしい数奇な最後といえるだろうか。

本書で読んでいて惜しいなぁと思うのが、登場する絵画の写真が掲載されていないこと。 本書の主役である『キリストの捕縛』はカバーに一部分が掲載されているが、一部分だけではいかにも寂しい。 やはり、ここはカラー写真で『キリストの捕縛』と、作中に幾度も登場する『洗礼者ヨハネ』は押さえて欲しかった。

そんな訳で少々残念な部分もあるが、傑作の太鼓判を押せる本であることは間違いない。 オススメ。

*1 ちなみにオレのことね。


2008-05-31(Sat) [長年日記] この日を編集

_ スウェーデンの深い闇を抉る傑作ミステリー──タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)(ヘニング マンケル/Henning Mankell/柳沢 由実子)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

スウェーデンの作家ヘニング・マンケルによる長篇ミステリーが本書。

舞台がスウェーデンということで、先日読んだ仏ミステリー・シリーズ(『死者を起こせ』『論理は右手に』)以上に馴染みのない地名がバシバシ登場するが、そんなこともなんのその、ぐいぐい引っ張られて一気読みしてしまった。 今年上半期のオレ的ミステリー部門で1位間違いなしの傑作だ。

本書の主人公は、37歳の警官ステファン・リンデマン。 舌ガンの告知を受けた彼はふと目にした新聞記事で、かつて指導を受けたことがある警官ヘルベルト・モリーンが惨殺されたことを知る。 ヘルベルトは警官を退職した後、スウェーデン北方のヘリェダーレンで、なにかから隠れるようにひっそりと生活を送っていた。 彼はいったい、なにを恐れていたのか? 治療開始を前に休暇を取ったステファンはガンの恐怖から逃れるため、ヘリェダーレンを訪れ、独自の捜査を開始する。 死の予感に怯えつつ、真実を探り出そうとするステファンの前に立ち上がるのは、ヘルベルトの知られざる過去と歴史の巨大な闇だった──。

本書の意外な点は、ヘルベルト・モリーン殺しの犯人と殺人の理由がストーリーの初盤で明らかになることだ。 そのようなストーリーであれば、警察と犯人の知略ゲーム的な展開になるのが、普通ではないかと思うのだが、本書ではその犯人さえ関知しない第二の殺人が起きてしまう。 ストーリーは、ステファンと地元警察、そして、ヘルベルト殺しの犯人による第二の犯人探しにシフトしていくのだ。

とはいえ、本書のメインテーマは犯人探しにあるのではない。 スウェーデンの社会の暗部に今も脈々と生き続けるナチスの思想の存在を浮き彫りにすることなのである。

スウェーデンについては『北欧空戦史』『中立国の戦い』などで、強大なドイツにある程度の譲歩を強いられながらも中立政策を保ち、また根本では反ナチスでレジスタンス活動の支援も行なっていた、というイメージを持っていたので衝撃を受けた。

本書は警察小説であり、犯罪小説であり、アジアと同じく第二次世界大戦の傷跡がヨーロッパの人々の間に、いまだに残ることを認識させる社会小説である。

イチオシ。


タンゴステップ 上下巻

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書評/ミステリ・サスペンス

タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫) タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)
ヘニング マンケル/Henning Mankell/柳沢 由実子
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タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫) タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫)
ヘニング マンケル/Henning Mankell/柳沢 由実子
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北欧空戦史 (学研M文庫) 北欧空戦史 (学研M文庫)
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中立国の戦い―スイス、スウェーデン、スペインの苦難の道標 (光人社NF文庫) 中立国の戦い―スイス、スウェーデン、スペインの苦難の道標 (光人社NF文庫)
飯山 幸伸
光人社
¥ 760


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