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2008-04-01(Tue) [長年日記]

_ 「警告」などという生ちょろいものではなく、「神話」や「黙示録」として捉えられるべき一冊──クラッシュ (創元SF文庫)(J.G. バラード/J.G. Ballard/柳下 毅一郎)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

J・G・バラードの代表作のひとつであり、鬼才デヴィッド・クローネンバーグが映画化したことでも有名な作品が本書。

ついていけないなぁというのが正直な感想だが、それでもなお傑作と評さざるを得ない一作だ。

本書の主人公は、著者と同じ名前を持つテレビCMディレクター、バラード。 彼は雨上がりの道でスリップをさせ、対向車と正面衝突事故を起こす。 その事故の結果、運転手を死亡させ、その妻である女医に重傷を負わせてしまう。 自らも傷を負ったバラードは、車の衝突で得るエクスタシーに固執する謎の男ヴォーンにつきまとわれる。 ヴォーンに影響を受けはじめたバラードは、妻とともに徐々に衝突事故と性的絶頂の悪夢的世界に捕われていく──というのが本書の骨子だ。

本書について、著者のバラードは「毎年何十万もの人を殺し、何百万人もの人を傷つけている災害」である自動車事故をモチーフにした「現在の災害小説」と位置付け、

究極の役割は警告にある。(p.12)

と述べている。もちろん、それは「交通安全」云々などという話ではなく、人間とテクノロジーの関係に対する警告なのだろう。

しかし、率直に言って、本書を読んでも、その警告についてはぴんとこなかった。 本書が書かれた1973年と現代とでは、一口にテクノロジーといっても、その意味合いは大幅に異なっている。 少なくとも、自動車という、我々の周りにあまりにも溢れ過ぎて「日用品」と化したガジェットを通した「警告」は、その意味を些か減じているとしか感じられない。

では、本書は変態的な嗜好ばかりがクローズアップされた、ただの古びたポルノ小説なのか。

そうではない。 それは訳者あとがきを読めば一目瞭然だろう。 パパラッチから逃れるため、猛スピードで車を飛ばし、パリの地下トンネルで大富豪と共に事故死を遂げたダイアナ元皇太子妃。 これは本書が提示する悪夢的な世界に他ならない。 「警告」などという生ちょろいものではなく、「神話」や「黙示録」として捉えられるべきものが本書なのだ。

本書の内容で一番印象に残ったのは、ヴォーンから受け取ったLSDをキメた主人公が一体感を感じつつ、車を駆る箇所だ。 そのシーンを読んで思い出したのが、神林長平の『魂の駆動体』である。 遠未来の地球において、翼人が太古に繁栄した人類の乗り物である「クルマ」を一枚の設計図から作り出すというというストーリーのこの作品は、人間と車が一体となって駆ける姿を爽やかに描き出している。

受ける印象がまったく違う2冊であるが、人間と車の関係という面から見れば、「生」の側からその関係を見たものが『魂の駆動体』であり、「死」の側から見たものが本書『クラッシュ』と言えるのではないかと思う。 そして、本作は「死」をターゲットしたがために、その正反対の事象である「生」に密接に関わった「性」と結びつき、ポルノグラフィーという形態になったのではないだろうか。

本書を気に入るかどうかは読み手次第ではある。 どこをどう読んでもポルノ小説であるし、全篇に渡って、性器がばんばん登場し、精液やらなんらやの体液が飛び散っていて、お世辞にも上品とはいえない内容だ。 しかし、たとえ気に入らずとも、読んで損のないことは間違いない一冊である。


クラッシュ

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書評/SF&ファンタジー


魂の駆動体 (ハヤカワ文庫JA)
神林 長平
早川書房
¥ 903

_ メモ

  • PC入った鞄を肩から掛けて外周りの毎日なので肩が凝りまくり。
  • 読書は『司政官』が1/3、『幽霊狩人カーナッキの事件簿』が1/2。
  • Perlの勉強で『実用Perlプログラミング』(黒ヒョウ本)を読んでいるけど、いいね、これ。
  • 近所(と言っても、車で30分くらい)にコストコが出来るんだけど、4/3までに会員証をつくりに行けば1000円引きらしい。もう日にちがないので行けんなー。
Tags: 日常