ぽっぺん日記@karashi.org
2008-01-19(Sat) [長年日記]
_ [読書感想][軍事]
1944年に惹起したマリアナ沖海戦。日米の機動部隊が激突した史上最大の空母戦でありながら、これまでその実態──特に日本側から見たもの──は詳細に語られることはなかった。 日本海軍の母艦搭乗員たちにスポットを当て、生存者の証言や記録、収集した資料を丹念に繋ぎあわせて、マリアナ沖海戦の全貌を描き出しているのが本書。 まさに労作の名にふさわしい一冊だ。 質も高く、今後、マリアナ沖海戦を考察する際の基本文献になるのではないかと思う。
ちなみに、著者はなんと昭和50年生まれ。 私と同年代ではあるが、綿密な調査を重ねた情熱と、その調査結果を一冊の本としてまとめあげた才能には驚くばかりだ。
著者は、各航空隊の生い立ちから筆を起こし、それらの部隊がどのように訓練を積み、どう強大な米空母部隊に戦いを挑んだかを描き出すとともに、マリアナ海戦後の運命にまで筆を伸ばしていく。 母艦航空隊を陸上基地に派遣して行なわれた「い号作戦」や「ろ号作戦」が招いた消耗や、訓練時の事故や機材の不良、空輸で多数の搭乗員と機材が失われたという事実、零戦を戦闘爆撃機化した経緯など、非常に興味深く読んだ。
著者は様々な日本海軍の欠陥を挙げているが、その中でも特に印象に残ったのが、通信の不良だ。
通信の不良は兵力が劣り連携を欠くことが出来ない日本海軍には致命的なものとなった。小は空戦、攻撃、大は司令部同士の意思疎通に円滑さを欠いていた。(p.260)
と指摘している通り、集中して投入すれば、それなりの戦果を挙げられたかもしれない母艦航空隊や基地航空隊の戦力が、共同できず、五月雨式に米空母部隊を攻撃し、各個撃破されていった。
従来言われていたほど、日本軍の電探(レーダー)が低性能ではなかったという事実も本書で明らかにされている(重巡「摩耶」の二号一型電探が170キロにて敵編隊を捕捉している)。しかし、司令部に遅滞なく伝達する体制が確率されておらず、邀撃になんの寄与もしなかったということもまた通信不良が遠因と考えることができるだろう。
大日本絵画の軍事系書籍は高価なものがほとんどだが、本書もご多分に漏れず、4,515円(税込)という、かなり財布に辛い価格になっている。 また、推敲不足か文章に読み辛い部分がある、図表の類いがあまり多くなくリーダビリティに少々難がある、など残念な点も見受けられる。
しかし、 約300ページに渡って二段組みで詳細に記述された本文のボリュームと 100ページ近くに渡って巻末に掲載された編成表などの資料的価値は、それらの欠点を補って余りある。 マリアナ沖海戦に興味を持つ読者にとっては、値段に見当った価値のある本と言えるだろう。
