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2007-12-06(Thu) [長年日記]
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中国の環境問題 今なにが起きているのか (DOJIN選書 12)(井村 秀文)
科学同人さんより本が好き!経由で献本して頂いた。科学同人様、感謝致します。
来年(2008年)には北京オリンピックを控え、驚異的な経済成長を続けている中国だが、その反映の一方で様々な環境問題を抱えていることが知られている。 水汚染や大気汚染、拡大し続ける資源消費など中国が様々な環境問題の実態とそれらに対する中国政府の取り組みを伝えるとともに、日本がどのような形で環境問題解決のために協力すべきかを示唆しているのが本書。
日中間には、靖国神社問題、東シナ海におけるガス田開発問題、尖閣諸島を領土問題化しようとする中国の思惑など、政治面、経済面に渡る数多くの問題が横たわっている。そのため、中国の問題を指摘する本書のようなタイプの本は、反中国的姿勢になりがちなのだが、著者はバランスの取れた冷静な筆致で、中国の環境問題を幅広い視点から描き出しており好印象だった。
中国の環境問題が与える影響が中国一国に収まらないということは、ある程度理解していたが、本書によって示されるその範囲は、想像していたよりもずっと大きく驚かされる。日本が受ける影響は、例えば、以下のようなものだ。
- 大気汚染物質が偏西風に乗って、大陸より日本に飛来することによって起きる、光化学スモッグや酸性雨。また同じく偏西風により日本にやってくる黄砂。
- 大陸より黄海や東シナ海に流入した海洋汚染物質が黒潮に乗って北上し、日本近海に到達する。日本近海で問題になっているエチゼンクラゲの大量発生も黄海や東シナ海の汚染が原因ではないかと著者は示唆している。
- 日本では循環型の社会を目指し、資源リサイクルを行なうための様々な基盤を整備したにも関わらず、金属スクラップや古紙、廃プラスティック、ペットボトルなどのリサイクルされるべきものが、大量の資源を求める中国に輸出されてしまい、日本でリサイクルされることが少ないという事実。
- 地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の中国での排出量は増加の一方を辿っていて、現在では、2003年時での排出量一位だったアメリカを抜き、世界一位になった可能性がある。
それぞれの理由や根拠については本書に譲るが、中国で起きている環境問題が密接に関係していることがお分かり頂けるかと思う。 また、本書では触れられていないが、上記に関連して、世界遺産である屋久島にも、大陸からと思われる汚染物質が飛来していたという報道があったことも付記しておく。
では、中国政府の環境問題への取り組みはどうなのか。これが意外に(と言っては失礼かも知れないが)先進的なものだ。不十分と思える対策も数多いが、その幾つかは日本より進んでいると思えるものもある。
例えば、自然保護行政は、日本では森林行政と自然保護行政の農林水産、国立公園を管理する環境省の二つの省に分かれてしまっているが、中国では森林国家環境保護総局で一本化され、野生動物の保護や湿地の保全などの新しい分野に取り組んできた。また、
- 汚染を未然に防止すること
- 汚染者(開発者)が費用を支払うこと
- 環境管理を強化すること
という三つの環境保護を基本原則とした環境管理制度も整っている。
しかし、問題はそれに実態が伴なっていないことなのだ。著者は中国の問題として以下のようなものを挙げている。
- 制度の理念がいかに優れていても、それを実施に移すときの基盤となる人員、技術が不足している。
- 法律や規制の存在と、それを遵守することは別物という考え方がある。
- 公衆衛生観念がしっかりしていない。
- 地方政府が経済開発優先で、環境配慮に欠けている。
- 小規模企業に環境意識が欠如している。
上記の問題は『中国の危ない食品』で指摘されてものとまったく同じものだ。
中国は「大方の国民が食うに困らず、生活に少し余裕も出てきた(p.50)」という、「小康」社会と呼ばれる段階に入っているという。しかし、その一方で食の安全などの不安は増している。著者によれば、小康から次の段階に進もうとする今こそ、環境政策にとって転機となる時なのだという。
本書を読むと、中国は国土があまりにも広く、中央政府の指導による環境問題対策を中国全土で実施することは、かなり困難だと思わざるを得ない。しかし、日本は、中国の環境問題を中国一国の問題と考えるのではなく、同じ環境を共有する「東アジア環境共同体」の一員として捉える必要がある。中国への働き掛けと協力をどのように行なえばいいのかを教えてくれる一冊だ。
- 井村 秀文
- 化学同人
- 1680円
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