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ぽっぺん日記@karashi.org


2007-10-22(Mon) [長年日記]

_ 生き物たちの情報戦略―生存をかけた静かなる戦い (DOJIN選書 11)(針山 孝彦) 生き物たちの情報戦略―生存をかけた静かなる戦い (DOJIN選書 11)(針山 孝彦)

本が好き!経由で献本して頂いた。

生物学者である著者が、生物の「環世界」を知ることの重要性を示しつつ、多様な生物の在り方を教えてくれるのが本書。

環世界とは、生物がまったく同じ環境に置かれていたとしても、それぞれの種はそれを大きく異なった独自の世界として認識しているという考え方だ。 5億5千万年前のカンブリア紀における進化によって生まれた、生物間の「食うか食われるか」の食物連鎖という相互関係の中で、生物は骨格の発達により素早く移動する術を身につけ、眼をはじめとする感覚器や脳や神経といった情報処理器を発達させた。それが環世界の構築に繋ったと、著者は述べる。

3章以降では、太陽を指標として陸と海の方向を見定めるトビムシをはじめとする多様な生物の驚くべき能力が紹介されているのだが、その中でも、特に面白かったのが7章で紹介されているベニツチカメムシのナビゲーション行動。 ベニツチカメムシは、巣から出た後はジグザグに歩くにもかかわらず、食料である植物の実を見付けると、そこからから一直線に帰巣する。 様々な実験から、ベニツチカメムシが10メートル近く上の木の枝や葉がつくり出す模様を見ているらしいことが示唆されていて、非常に驚かされるが、それを知るために、蒸し暑い森の中でテントを張り、這いつくばってベニツチカメムシを観察している生物学者の努力にも驚くと同時に、頭が下がってしまう。

最終章では、環世界の観点から、現代の社会が抱える問題点を挙げている。著者によれば、挨拶とは「敵であるか敵ではないのかを判断する手段」だという。 現在の日本社会では、その挨拶するという習慣が失なわれたため、「社会の個体のすべての者たちは、不安定な気持ち」を抱えることになったそうだ。 今のぎすぎすした世の中を考えると、頷ける指摘である。

本書のもうひとつの読みどころが、随所に織り交ぜられる著者の研究旅行記だ。 著者が研究のために滞在した様々な地での体験が書かれていて、どれも興味深いのだが、周囲の人から毒があるかも知れないから、止められたにもかかわらず、南極でタコを、また、アフリカのマガディ湖でテラピア(魚)を食したというエピソードからは、著者の豪胆さが透けて見えて面白かった。その後、特に体調を崩したりもしなかったようで、著者は「ヒトは食べたことがないものには、毒があると思うようですね?」とさらっと書いているのだが、テラピアについては『アフリカにょろり旅』あたりを読んだ感じでは、寄生虫等で危なそうな感じもするのだが……。

専門用語が登場し、素人には少々難しく感じられる面もなきにしもあらずだが、生物の多様さを知ることができる良書だ。ヒトが持つ環世界を考える上でも役に立つ一冊と言えるだろう。


生き物たちの情報戦略―生存をかけた静かなる戦い (DOJIN選書 11)

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