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2007-08-28(Tue) [長年日記]

_ 深海生物の謎 彼らはいかにして闇の世界で生きることを決めたのか (サイエンス・アイ新書 32)(北村 雄一)

「本が好き」プロジェクト経由で献本して頂いた。

深海に生きる生物たちの不思議な生態に迫ったノンフィクションが本書。 ちょうど先日、深海を舞台とした海洋冒険SF『鯨の王』を読み終えたところなのだが、本書はまさにどんぴしゃな内容で、『鯨の王』の副読本としても強くオススメできる一冊だ。

本書と同じサイエンス・アイ新書レーベルの『宇宙はどこまで明らかになったのか』と同様に、本書も全206ページがカラーとなっている。ふんだんに掲載されている深海生物たちの写真は美しいフルカラーとなっていて、ビジュアル面での充実度は本当に素晴しい。それでいて、1,000円(税込)という価格設定なのだから、裏には、出版社であるソフトバンククリエイティブの並々ならぬ努力があるのだろう。

本書の章立ては下記の通りとなっている。

  • 第1章 地上の痕跡から深海へ
  • 第2章 初島深海観測ステーションから見る世界
  • 第3章 熱水の吹き出る世界
  • 第4章 死体の楽園
  • 第5章 泥を喰らうもの
  • 第6章 海溝、そして地上へ
  • 第7章 深海を探査する機械

上記のうちでも、個人的に非常に興味深かったのが、クジラの死骸が深海生物たちの重要な栄養源になっていることを示す『第4章 死体の楽園』と、日本の海洋研究開発機構が保有する様々な深海探査機材を紹介している『第7章 深海を探査する機械』だ。

『死体の楽園』では、海底に沈んだクジラの死体が、死肉を漁る生物によって骨だけとなり、さらにその骨自体を栄養源とする生物に利用される様子が描写される。『鯨の王』でも触れられていたが、クジラの骨が深海の生物たちが分布を広げる中継点になっているという説があるそうだ。なんとも奇妙に聞こえるが、これこそ「骨の髄まで」資源を有効利用するということなのかも知れない。

本書によれば、腐敗したクジラの死体の臭いは、

臭いをはるかに通り越して、もはや”痛い”(p.107)

もので、

ゴーグルをしていても眼がしみるし、涙は出るし、防毒マスクをしていてもちょっとした拍子でそれを吸い込めば、猛烈な吐き気がする(p.107)

のだそうだ。そんな臭いは、一生経験したくないものだ(もっとも、そんな機会はないだろうが)。

一方、『深海を探査する機械』では、有人潜水調査船「しんかい」シリーズや、無人探査機「かいこう」、自立無人探査機「うらしま」が紹介されている。深度1万mまで潜れる探査機は世界でも「かいこう」だけだったのだが、残念なことに、2003年に起きたトラブルで失われてしまった。後継機の開発が望まれる。

なお、「うらしま」の運航距離は317kmにまで及ぶのだが、モバイル機器の次世代の動力源として注目を浴びている燃料電池が使われているそうだ。普段、コンピュータをいじって暮らしている人間としては、なかなか興味深かった。

最後に、本書を読んで、少々残念な点を2つ挙げておく。

まず、深海生物の動きを示した連続写真が少々分かりにくいところ。 紙媒体である以上、どうしようもないことではあるのだが、やはり動画と比較すると、一歩も二歩も表現力が落ちてしまう。なにか画期的な表現方法があればよいのだが。

もう一つが、本書のサブタイトル。『彼らはいかにして闇の世界で生きることを決めたのか』と名うたれているものの、本書は、その疑問には答えていない。軽いキャッチコピー的な扱いなのかも知れないが、サイエンス・アイ新書のモットーが『「科学世紀」の羅針盤』であることを考えると、この大きな疑問にも答えて欲しかったところだ。

ちょっと引っ掛かった点も書いたが、非常にお買い得な一冊であることは間違いない。深海生物に興味がある人には無条件でオススメしたい。

なお、本書が楽しめて、さらにSF好きな人には、前述の 鯨の王(藤崎 慎吾)もオススメしておく。


深海生物の謎

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