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2007-08-22(Wed) [長年日記]

_ 鯨の王(藤崎 慎吾)

巨大な鯨が暴れまくる海洋冒険SF。

内容的に、SFと言い切ってしまっていいのか迷ってしまうところもあるのだが、まぁ、未知の鯨が登場するということで、いちおう、SFのジャンルに入れてもいいんじゃなかろうか。

様々な要素を詰め込み過ぎて、消化不良となっている面*1や、登場人物の内面の描き方が浅いといった弱点もあるものの、 米海軍潜水艦が謎の現象に襲われるプロローグから、潜水調査船が巨大な鯨の骨を深海で発見するシーンや、手に汗握る深海での戦闘場面、海底採掘基地周辺で繰り広げられるサバイバルなど、息も吐かせぬストーリー展開で一気に読んでしまった。

アル中の鯨学者・須藤秀弘と、潜水船に感情移入しすぎる女性潜水船パイロット・秋道炎香(ホノカ)のデコボコ・コンビの掛け合いも、なかなか楽しい。

今まで読んだ海洋冒険SFの中で、一番の傑作は『ソリトンの悪魔』なのだが、本書は、それより少々面白さは落ちるが、充分オススメできるレベルのエンターテイメント小説となっている。

巻末に掲載された、著者と須藤のモデルとなった加藤氏との対談で、本書が好評ならば、続篇を書くかも知れないと著者が述べている。期待したい。

内容で、ちょっと気になったのが、須藤の

残念ながら進化の鉄則で、一度捨てた器官を再び獲得することはできない。(p.271)

というセリフ。「はて、ホントにそうだろうか?」と思っていたのだが、前掲の対談で加藤氏が

(引用者註:一度捨てた器官が)再現しないこともないけど……。(p.470)

と異を唱えていた。そうじゃないと、『新恐竜』に登場する恐竜の何種類かは成立しないので、少し安心した。

*1 特に、中盤で登場するテロ組織は、目的がどう読んでも納得できないものなので、すっきりしたストーリーにするためにも削った方がよかったように思える。